デジタル
2020/10/1 7:00

【西田宗千佳連載】発熱と性能のバランスが「スマホ向け技術」の拡大を促す

Vol.95-2

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「モダンPC」。実態のつかみにくい概念だった「モダンPC」が、ついにその姿を現しつつある。

 

スマートフォンにしろPCにしろ、少しでも「場所を変えて使う可能性のある機器」では、バッテリーでの駆動時間が重要になる。コロナ禍で在宅勤務などが推奨される昨今では、長時間の動作はそこまで求められなくなっているが、それでも充電回数が少なくて済むに越したことはない。

 

また、バッテリー駆動時間以上に重要になのが「発熱の小ささ」だ。処理に伴う発熱が大きいと、結局消費電力の大きさになって跳ね返る。本体が熱をもって不快になるというだけでなく、半導体自体、自身の発熱で正常な動作が難しくなっていくという問題もある。結果として、発熱の大きな半導体は効率的に冷やす必要があり、ファンやヒートパイプなどの冷却機構の搭載が必須となる。効率的に冷やすには、特に空冷の場合、本体内に空気の流れを作るためのスペースも必要だ。こうしたスペースを設けないなら、ファンなどの構造を相当に工夫しなければならない。

 

要は、バッテリー駆動時間の延長以外の要素を考えても、消費電力の低減=発熱の低減を重視する必要はある、ということである。

 

10年以上前ならば、解決は比較的容易だった。CPUやGPUを製造するための「半導体製造プロセス」の進化によって、消費電力がリニアに下がっていったからだ。トランジスタの数を増やし、性能を上げたとしても、半導体そのものの消費電力が低下していたため、問題を相殺しやすかった。しかし、いまはもうそんな状況ではない。必要な機能だけを生かし、不要な機能は積極的に消費電力を抑える技術などを活用し、半導体製造プロセスの進化だけでは補えない「性能向上に伴う消費電力低減」をこまめにやっていかないと、プロセッサーの性能は向上しないのだ。

 

こういうことはインテルにしてもクアルコムにしても、さらにはアップルにしても、同じようにやってきた。しかし、スマートフォンなどを主戦場にしていたアップルやクアルコムと、PCを主戦場としていたインテルとでは、どうしてもベクトルが違っている。アップルやクアルコムが「性能と同等以上に消費電力低減」というやり方なのに対し、インテルは「性能で業界トップ、消費電力もがんばる」という感じの流れに近い。

 

現在も、単純なピーク性能でいえばインテルやAMDの PC用プロセッサーに、アップルやクアルコムのプロセッサーは敵わない。だが、どちらの分野でも性能がベースアップされた結果、ピーク時以外の性能を必要とする機器の領域が広がってきている。つまり、タブレットや低価格PCなどの領域では、既存のPC向けプロセッサーよりもスマホ・タブレット向けプロセッサーのほうがバランスが良い……という状況になってきたということだ。

 

そこで問題になるのは「ソフトの互換性」。ただ、その点は、OSにCPUの違いを吸収する「エミュレーション技術」が搭載されることでカバーできるようになってきている。まだまだ課題も多いが、確かに「x86(PC向けプロセッサー)でなければいけない」理由は減っているのだ。

 

では、PCの「x86系」の領域は、スマホの「ARM系」で本当にカバーできるのか? そのメリットとデメリットの評価について、次回のウェブ版でもう少し詳しく解説しよう。

 

 

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