Vol.96-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「AirPods Proのアップデート」。毎年恒例のOSアップデートに隠れて起きていた要注目の動きとは?
コロナ禍において、人々が音楽を聴く時間・ヘッドホンを装着し続ける時間は長くなっている。ニールセン デジタルが8月に公開した調査データによると、無料のオーディオ・ストリーミングサービスのアクティブ利用率は、自営業を除く全業種で拡大している。その量は数%以内と「若干」に過ぎない。しかし注目すべきは別の部分にある。2019年には朝6時から9時の間に聞かれる量が伸び、11時から16時までの間は利用量が落ち込む傾向にあったのだが、2020年はそれがフラットになり、朝6時から19時まで、ほぼ同じような量が使われるようになったという。
すなわち、通勤・通学に偏っていた音楽の利用が全日に広がった、ということが大きな変化なのだ。これは7月を中心にした調査で、現在よりも家に籠る時間が長かった時期のものだ。だからいまはもう少し従来の利用量に近いものになっている可能性はあるのだが、それでも、リモートワークの普及により、以前のように「移動中だけヘッドホンをつけて音楽を聴く」というスタイルではなくなった人が増えている、と想定できる。
そのためか、ヘッドホンメーカーから少し面白い話を聞いた。移動時に使うことが多いこと、目立つヘッドホンが必ずしも好まれない国民性などから、日本ではインナーイヤータイプが主流となっている。それは現在でも変わらないのだが、自宅で使う比率が高まったためか、耳を覆うオーバーヘッドタイプの販売も若干増えた……というのだ。
その背景には、インナーイヤータイプは長時間つけていると耳の穴に負担がかかる、という事情もあるようだ。オーバーヘッドタイプならそれが少なくなる。
さらに、「耳への負担の少なさ」という意味で注目を集めつつあるのが、首掛けタイプの「ネックスピーカー」や骨伝導技術を使った「骨伝導ヘッドホン」だ。周囲の音が聞こえやすい、という特徴もあり、音楽や会話だけに集中したくない人にも向いている。前者はテレビとの相性がいいために、ソニーやシャープ、LGなどのテレビメーカーが販売しており、後者はガジェットとしての新奇性が高いためか、比較的小さなハードウエア・スタートアップ的企業が手がけている例が多い印象だ。
どちらも、「音楽を聴くための音質」という部分では、従来型のヘッドホンに比べると正直まだ不利だ。だが、音楽を聴く・通話をするといったスタイル自体を変えてしまう、という意味では、いままでのヘッドホンとは別の市場を作りつつある、とも言える。従来は小さかった「ヘッドホンでもスピーカーでもない市場」が、コロナ禍で広がってきている可能性が高いのだ。音質向上や装着性など、まだまだ改善点は多々あるのだが、市場拡大に伴い、そうした部分での切磋琢磨も広がるだろう。数年前から注目されていたジャンルではあるが、コロナ禍という状況変化により、ようやくその価値が認知され始めた、と言っていいのではないだろうか。
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