アマゾンの電子書籍読み放題サービス「Kindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)」がようやくスタートしました。米国をはじめ、海外ではすでに展開されているこのサービスですが、日本版の対象書籍は12万冊以上(和書について。洋書は120万冊以上)。ジャンルも広くカバーしているとはいえ、月額980円(税込)。なかなか微妙な金額というのが、第一印象ではないでしょうか。
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Amazonが月980円で雑誌やコミック読み放題の「Kindle Unlimited」開始
「アマゾンが読み放題サービスを始めた」というと、業界慣例をぶっ壊す“黒船到来”的なイメージがつきまといますが、出版の読み放題は日本企業のサービスとしてもすでに市民権を得ています。なかでも最も代表的といえるのは、NTTドコモの「dマガジン」でしょう。雑誌の読み放題サービスであるdマガジンの契約者は2016年3月に300万人を突破しました。サービスインは2014年6月で、そこから、NTTドコモが想定したよりも鋭いカーブを描いて契約者数は増え続けました。月額400円(税抜)で様々なジャンルをカバーする雑誌約160誌が読み放題なのですから、毎月雑誌を1、2冊読む人にとっては大歓迎するプライシングですね。
では、dマガジンがなぜここまで急激に伸びたかを考察してみましょう。
dマガジンはコンテンツの質とドコモのネットワークが強み
まずは、コンテンツの質の高さです。雑誌のラインナップをご覧になってもらえばわかりますが、トップの出版社がこぞって参加しており、売れている雑誌のコンテンツを紙の雑誌と同じタイミングで楽しむことができるのです。当初、「紙の雑誌と食い合いになって、トータルの売上が落ちる」という理由でdマガジンへの参入を見合わせていた出版社は少なくありませんでした。しかし、dマガジンで売上が上がっているという情報が入ってくると話は変わってきます。新たに売上を創出でき、しかも、それはほぼ純利益につながるこのビジネスに、乗らない理由はありません。ちなみに、純利益というのは、このサービスにコンテンツを提供するために特別な原価はほぼかからない、という意味で、もちろんプラットフォーム側から一定のパーセンテージを引かれます。
もう一つは、dマガジンがNTTドコモのサービスであることが意味を持ちます。自社キャリアの端末購入者に対し、dマガジンのインストールを「勧める」ことができる立場にあるのです。もちろん、dマガジンは、auでもソフトバンクでも使えるアプリサービスではありますが、端末と直結しているアドバンテージは圧倒的です。テレビCMや車内広告も仕掛け、サービス名の認知度アップを行ったのと相まって、爆発的に契約者が増えていきました。
では、dマガジンと照らし合わせてKindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)の可能性を探ってみましょう。
Kindle Unlimitedはdマガジンに追いつけるか?
まず、コンテンツの質について。スタート時点のラインナップを見る限り、最上のラインナップがそろっているかというと、そうではありません。そもそも電子書籍業界では、超一流の作家・作品が電子化すらされていないケースが多くあるのが現状です。また、電子化されていたとしても、「読み放題」に入れるかどうかは、著者の許諾が必要であり、ビジネス的にも読み放題に入れたほうが損か得か、という判断を出版社はすることになります。
売上の分配は、おおざっぱにいうと、読まれれば読まれるほどその商品(電子書籍)にチャージされるわけですが、話題性が高い新刊の場合は、このような分配金で得られる額より、単品として販売し得られる売上のほうが、当然高くなります。
一方、市場に出て久しく、店頭での売り伸ばしが見込めないし、販促費もとれない商品にとっては、新しい読者に発見される機会を得られるという点で、読み放題サービスのメリットがあります。では、話題作がないから、コンテンツの魅力に乏しいか、というと、実はそうではないのです。12万冊という「選択の幅」は強みであり、ピンポイントでほしい書籍が入っていなくても、それに類するものが見つけられる、というのは、サービスインの時点から、十分な魅力を持っているといえます。
注目すべきは、読み放題の中に雑誌も含まれるという点です(「GetNavi」もあります)。現時点でdマガジンのほうが雑誌の品ぞろえは優れていますが、dマガジンでは扱っていない雑誌もあります(「ムー」とか)。
一方、月額980円というdマガジンの倍以上のプライシングで、有料会員はどれだけ増えるのでしょうか。宣伝施策はまだわかりませんが、アマゾンという巨大プラットフォーム内での告知だけでも、一定数の登録者は獲得できるはずです。ただ、それがどれくらいになるかは、実はアマゾン社内でも見通しがたっていないという話が聞こえてきます。
しかし、あくまで私見ではありますが、けっこう伸びる、すぐに伸びる、と思っています。
「980円だから、3、4冊ダウンロードして読めば元がとれるなあ。でも、一カ月でそんなに読み切れるかな」、といった損得勘定をする人、いるでしょうね。でもこのサービスは、そもそも、律儀に全部読み通すような読書家よりも、「部分読み」、「並行読み」、「そのうち読み」をする尻軽ユーザーにこそフィットするのです。
「いやいや、スキマ時間は、スマニューやらYahoo! やらLINEやら、アプリで潰しているよ」という方にとって、Kindle Unlimitedは魅力的です。情報メディアは、Kindle Unlimitedにユーザーが食われる可能性がおおいにあると考えます。というのも、自分がダウンロードした電子書籍がすでにライブラリーにあるということは、ユーザーにとって、興味があるコンテンツをいつでも見られる環境にあるということです。アプリを開くまで自分好みの情報があるかわからず、ブラウンジングしてようやく自分がいいなと思える情報を発見する、という手順がカットできると考えれば、ニッチな時間を埋めるコンテンツとして、読み放題の電子書籍は存在感をどんどん増していくでしょう。
視点を変えて、コンテンツ供給サイド=出版業界にとって、このサービスは福音なのかといわれれば、間違いなくプラスに働くといえます。いまどきの出版人の中で、「紙の売上が減るから、電子書籍反対、読み放題なんてもってのほか」なんて考えている人間は、もう(ほぼ)いない(と信じたい)ので、これだけ多くの出版社が参画したわけですが、このサービスが出版社にとってありがたいのは、読書の新スタイルが生まれることによって、本を読むユニークユーザーが増えることになるのです。こんなにありがたいことはありません。
費用対効果を考えると「お得」
ちなみに、私がサービス初日でダウンロードしたのは、下記の10冊です。ライブラリーに保存できるのは10冊までで、それを越えると、どれかを代わりに落とすことになります。
※記載した価格は、8月3日時点でのKindle版(電子版)のもの
【1冊目】真珠夫人 (菊池寛) 749円
とりあえず、最初にKindle Unlimitedにアクセスしたときのおすすめページに載っていた中で気になったものをクリック。長編小説で、話もややっこしいので、集中力がある状態で読みたいと思っています。これは、1か月で読み切る自信ないですが、ちびちび読み進めようかと。
【2冊目】海猿 1 (佐藤秀峰) 324円
私が人生で最も好きなコミックのひとつ。単行本で暗記するまで読み込みましたが、我が家の収容能力上、紙の本はどんどん減らす傾向にありまして、いつの間にかなくなっていました(誰かにまとめて貸した≒あげたと思われます)。とりあえず1巻だけダウンロードしたけれど、12巻全巻、間違いなくいっちゃいます。
【3冊目】中井式! ベストスコアを狙う状況別テクニック72 (中井学) 846円
ゴルフのレッスン本です。中井 学さんのレッスンは、本当に論理的でわかりやすくて、信頼がおけます。ゴルフ関連の電子書籍だけでも、180点以上見つけることができました。ゴルフのレッスン書は、読んだからってスコアはなかなかアップしませんが、「気づき」を得られる機会が増えるだけでもありがたいです(その「気づき」も、ほぼすべて錯覚なのですが)。
【4冊目】ビジネス大学30分 ファシリテーション(山崎将志) 441円
ゴルフメディアにいたころお世話になった山崎さん。最近Facebookで友達リクエストをいただき、さっそく読み放題で検索してみました。そして、カスタマーレビューの高い評価を見て、これは読まねばと。アマゾンで商品を買うとき、カスタマーレビューの内容で最終的に買うか買わないかを決める人が多いですよね。
【5冊目】夢をかなえるゾウ(水野敬也) 648円
出版業界にいながら読んでいなかった超ベストセラー。隅から隅までじっくり読まなくても、「あー、夢ゾウね」と、話を合せられるくらいにはなっておきたいですからね。という感じダウンロードしましたが、けっこうおもしろい、そしてサクサク読めます。続編2冊も読み放題の対象なので、続けて読んでみようっと。
【6冊目】世界から猫が消えたなら(川村元気) 620円
永井 聡さん監督で映画化、ということで、原作を読んでみたいなあと思っていました。これ、4冊目で紹介した山崎さんの書籍と違い、カスタマーレビューの内容が、極端に分かれているんです。というか、正直ネガティブなものもめちゃくちゃ多い。でも、クリックしました。読み放題なんで価格に見合うとか関係ないですから。そして、取りあえず1章読んでみると、まったく悪くありません(所用時間約10分)。リズムがいい、平易で疲れない、わかりやすい描写。一気に読み切らなくてもいいやとは思うので、これは、10分ほど時間があるときにちまちま読むコンテンツにすることに決定。一週間くらいかけて7章全部読もう。
【7冊目】金子みすゞ名詩集 174円
「こだまでしょうか」に改めて泣く。詩で文字数が少ないため、スマホというデバイスにうってつけです。読むだけなら1作品10秒。詩を(しかも、金子みすゞ作品を)そんなに軽く扱っていいのか、と言われそうですが、こういうシチュエーションでの味わい方、悪くないですよ。
残り3冊は、自社モノをクリックしました。ステマじゃないですよ(いや、そうかも)。
【8冊目】小室淑恵の人生プレゼン術(小室淑恵) 741円
実際に小室さんのセミナーに行った同僚から強烈に薦められた一冊。楽しみです。一緒にお仕事してみたいなあ。
【9冊目】学研マンガ NEW世界の伝記Ⅰ スティーブ・ジョブズ 500円
児童書です。子どもに読ませるために、ではなく、自分で読むために。手前味噌ですが、こちら、大人にも読んでいただきたい。保証します。Kindle Unlimitedに登録したら、ぜひともご覧になってください。
【10冊目】GetNavi2016年9月号 519円
GetNavi webに寄稿するコンテンツなので、これだけは絶対にはずせません。いやー、いつ読んでも情報充実で、すごい。まあ、気になった部分だけ拾い読み、というのがおすすめの雑誌です。好きな時に好きな部分だけつまみ読んでください。
10冊、すべてKindleで単品買いしたら、合計5562円。980円の元は、簡単に取れますね。
【URL】
Kindle Unlimited http://www.amazon.co.jp/kindleunlimited