デジタル
2021/3/10 7:00

【西田宗千佳連載】単体では儲けが少ないXperia PRO。それでもソニーが製品化を進めた理由

Vol.100-3

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「Xperia PRO」。高価格にばかり目が行きがちな本機だが、そのコンセプトにこそ斬新さがあった。

 

ソニーのXperiaといえば、日本では人気のスマホブランドだ。だが、世界的に見ると、スマホ市場におけるソニーはマイナーなメーカーになってしまっている。世界でのシェア争い、特にアメリカや中国といった大きなニーズを持つ国での競争に負け、現在は事業戦略として「販売台数を追わず、規模を縮小する」形を採っている。そのため、バリエーションをとにかく増やしたり、販売国を増やしたりするという状況にはない。

 

そのなかで、なぜ「Xperia PRO」のような製品を開発するに至ったのだろう? 実のところ、販売数量は多くはならない。業務用で売れる数量は限られており、個人向けスマホに比べると大きな商いとはいえない。

 

ビジネス向け・業務向けスマホの市場は確かに存在する。だがそれらは、Xperia PROのように特化した機能を備えているものというより、工事現場などのヘビーデューティーな要素が必須のものや、単純に法人市場向けにシンプル化したものが中心。要は「もっと数が売れるもの」が多いのだ。映像のプロ市場に向けたスマホは、そこまで大きな市場に向けたものではないと考えられる。

 

だが、それでもソニーがXperia PROのようなスマホを作ったのは「社内に連携する機器が多数あり、ビジネス上の価値が高い」からだ。

 

Xperia PROのデモでは、ソニーのミラーレスカメラである「α」シリーズとの連携が示された。Xperia PROの機能自体は別にαに特化した部分はないのだが、同じグループ会社同士の製品だから、アピールに使われるのも当然と言える。スマホに興味がある人は「αと連携できるのか」と思うし、カメラに興味があるひとは「αと連携するスマホがあるのか」と考える。スマホとカメラの両方でそれなりの認知度を持つ企業はほかにはなく、結果的にだが、これはソニーらしい連携となっている。

 

ソニー Xperia PRO/実売価格24万9800円

 

ソニーにとってのXperia PROの価値はそれだけにとどまらない。

 

ソニーは多くの「業務用映像機器」を作っている。テレビ中継用のカメラや機材などだ。撮影の現場ではソニーの業務用機器が多く使われており、それらと連携するものとして、通信機器も必要になる。

 

Xperia PROにつながる開発の過程では、アメリカの通信会社であるベライゾンと組み、アメリカンフットボールの本場・NFLの試合で、放送用カメラに5G端末を取り付け、放送局の編集室へと直接届ける試みも行われている。そうした組み合わせが放送業界に売り込めるなら、Xperia PROのようなデバイスは、スマホ単体の売り上げだけでなく、編集システムやカメラのビジネスとしても重要なものになる。

 

こうした連携は昔から「ソニーに必要なもの」と言われてきた。だが、それがちゃんとできていた例は意外なほど少ない。Xperia PROはそういう意味でも、ようやく生まれた「ソニー社内の横連携」の象徴でもあるのだ。

 

では、本機のような「他の機器とつなぐことを前提としたスマホ」の存在はいつまで続くのだろうか? それは次回のウェブ版で考察する。

 

 

 

週刊GetNavi、バックナンバーはこちら