新型コロナウィルスの感染拡大による中止を挟んで、約2年ぶりに開催された「COMPUTEX 2021」。初の完全オンライン開催となった展示会の様子をレポートします。
PC系のトレンドをおさえるCOMPUTEX、今年は例年よりも控えめな印象に
そもそもCOMPUTEXを知らない人もいるかと思いますが、COMPUTEXは台湾・台北市で毎年5月末~6月上旬ごろに開催される世界的なPC・IT関連の見本市です。会期中は台北市内の展示場やホテル内に大小さまざまの展示ブースが設営されるほか、インテルやNVIDIA、AMDといった著名企業が大きな発表を基調講演で行なうことで知られています。
また、この時期にあわせ、話題を集めるような新製品がお披露目されることも少なくありません。特にPC系ハードウェアのトレンドや流行をおさえるには、絶好のイベントと言っていいでしょう。
そんなCOMPUTEXですが、2020年は新型コロナウィルスの世界的な流行が原因で展示会自体が中止に。さらに流行の長期化により今年の開催も危ぶまれていましたが、結局は初のオンライン展示会「COMPUTEX 2021 Virtual」として開催される格好になりました。
それぞれの発表はオンライン基調講演やメーカー独自のオンライン発表会で実施されたほか、COMPUTEXのサイト上にバーチャル展示ブースが用意されており、そこから参加登録者がメーカーの展示物をチェックできます。
さて、完全オンライン開催となった都合もあってか、2021年の各社の発表はやや小粒にまとまっていた印象です。近年はPC向けCPU市場で性能とコストパフォーマンスにおける熾烈な競争を繰り広げているインテルとAMD、同じくGPUで優劣を競うNVIDIAとAMDの基調講演は注目度が高いのですが、今年はいずれの発表も現行世代製品のアップデートといった内容がメイン。パソコン好きの一般ユーザーの目線ではインパクトが控えめに見えたかもしれません。各社とも製品の世代更新で谷間のタイミングであったため、この点については致し方ないポイントとも言えます。
また、例年はユニークな新製品・コンセプトモデルを発表していたASUSなど複数のPC系メーカーが、今年に限っては目立ったイベントを実施していないこともやや盛り上がりに欠ける要因でしょう。特に、多くのトピックが集まる自作PC系のハードウェアメーカーの発表が、今年に限ってはぐっと少なくなっているようです。
コロナ禍で動きにくいという事情もあるでしょうが、こうした慣れないオンライン展示会への対応に苦慮するメーカー担当者の話も、昨年以来しばしば聞こえてくるようになりました。なかなかオフラインと同じようにはいかない、ということなのでしょう。
とはいえ、今後のトレンドや製品展開に影響を与えそうな発表はいくつか見ることができました。そこで、注目すべきものをピックアップしてみましょう。
4K解像度でゲームするならベストな選択肢となった、NVIDIAの「GeForce RTX 3080 Ti」
ここ数年は、日本国内でもすっかり定着しつつあるPCゲーム。世界的なeスポーツ市場の盛り上がりはもちろん、国内メーカーからPCプラットフォームでリリースされるゲームタイトルも徐々に増えつつあり、ゲーミングPCを1台は持っておきたい、というユーザーは確実に増えていると思います。
「ゲーミングPC」なるものに明確な定義があるわけではないのですが、ひとつの指標として重要視されるのが、PCに搭載されるGPU(Graphics Processing Unit、グラフィックス演算装置)の能力です。現状、ゲーム画面のような高度な映像を安定して処理するには高性能なGPUがほとんど必要不可欠となるため、GPUのランクがそのPCのゲーム性能をおおまかに決定する、といっても過言ではありません。
たとえばゲーミングPCを選ぶ際、どの程度の性能のGPUを搭載しているかがわかれば、快適にプレイ可能なゲームタイトルにおおむね見当がつけられるでしょう。また、同じく画像や映像処理を頻繁に行うクリエイター向けのPCでも、GPUは重要な役割を占めます。
一般消費者向けのPC用GPU市場ではトップランナーとも言えるNVIDIAですが、COMPUTEXの基調講演で発表した「GeForce RTX 3080 Ti」、「GeForce RTX 3070 Ti」は、どちらも最新世代のハイエンドGPU。特にGeForce RTX 3080 Tiは、4K解像度でゲームをプレイするなどのリッチな環境を構築するコアゲーマー層のユーザーにとっては注目度が高い製品です。
一般的に、ゲームは描画する解像度を上げるほど処理が重くなりますが、4Kのような超高解像度設定でゲーム画面をなめらかに描画できるポテンシャルを備えたGPUは非常に限られています。その中でもGeForce RTX 3080 Tiは、性能と価格のバランスにおいて現状ベストな選択肢と言える性能にまとまっているのが特徴です。本製品のリリースにより、ハイエンドなゲーム向けGPU市場でのNVIDIAの立ち位置はさらに確固たるものとなったと言っていいでしょう。
反面、それよりも性能を抑えたGeForce RTX 3070 Tiは、競合する性能・価格の製品がいくつかあり、やや微妙なポジションのGPUと言えそうです。とはいえ、価格に応じた選択肢が増えたことは歓迎すべきではないかと思います。
ちなみに今回の発表に限った話ではないのですが、折から続く世界的な半導体不足やマイニングブームの過熱(と、それに乗っかった転売)により、GPUとそれを搭載するグラフィックボードの価格高騰が長期化しているのは気になるところです。ショップに在庫がほぼない、という状況は改善されつつあるようですが、自作PC向けのグラフィックボード単体が高騰前の1.5~2倍以上の値段で販売されていることも珍しくありません。ハイエンドからエントリーグレードまで、あらゆるモデルが割高な状態なので、購入を考えるのであれば、事前の情報収集を怠らないほうがいいでしょう。
ノートPCでゲームを楽しむなら、AMDの最新GPU「Radeon RX 6000M」搭載モデルが狙い目
PC用GPU市場でNVIDIAとシェアを争っているのがAMDです。そのAMDはCPUも取り扱っており、そちらは「Ryzen」シリーズの性能的な躍進によって競合であるインテルの製品を押しのけるほどの存在感を発揮していますが、GPU「Radeon」シリーズに関しても、最新世代ではNVIDIA製GPUに食らいつくポテンシャルの製品をリリースしています。
今回の基調講演でAMDはいくつかの製品を発表していますが、ユーザー目線で注目度が高いと言えるのは、ノートPC向けGPUの新製品でしょう。
発表されたGPU「Radeon RX 6000M」シリーズは、2020年後半にリリースされた同社のデスクトップPC向けGPU「Radeon RX 6000」シリーズと同じ最新世代のGPUアーキテクチャ「RDNA 2」を採用。前世代の「RDNA」アーキテクチャを採用したGPUに比べるとパフォーマンスは最大で約1.5倍の向上、同等の性能を発揮するための消費電力は最大約43%の低減をうたっており、製品の世代更新によってかなりのパワーアップを果たしたことがアピールされました。
現時点で市場投入が判明しているのは、上位モデルから順に「Radeon RX 6800M」「Radeon RX 6700M」「Radeon RX 6600M」の計3GPUで、性能的にはハイエンド~ミドルクラス帯をカバーしています。
いずれも完成品のノートPCに搭載・出荷されることになりますが、おおむね15万円台後半~20万円台のゲーミングノートPCに採用される場合が多いでしょう。性能的には確実に旧世代のゲーミングノートPCを凌いでくるため、取り回しのいいノートPCでゲームを楽しみたいユーザーにとっては、このGPUが搭載されているモデルが狙い目です。
加えて完成品のノートPCは前述の半導体不足による価格変動の影響が比較的少ないため、これから買うのであればゲーミングノートPCは良い選択肢と言えるかもしれません。
薄型ノートPCで注目すべきインテルの新CPU「Core i7-1195G7」「Core i5-1155G7」
CPU市場でAMDに苦戦を強いられているインテルは、基調講演で次世代CPU「第12世代インテル Core プロセッサー」のサンプルをお披露目したものの、詳細なリリース時期や性能に関する情報は「今年中に改めて発表する」とし、公表を控えました。
一方で新製品として発表されたのが、現行世代のノートPC向け第11世代インテル Core プロセッサーの新製品「Core i7-1195G7」「Core i5-1155G7」です。
2つのCPUは、どちらも薄型ノートPCや2 in 1 PC向けのシリーズで、既存の同世代・同クラスCPUよりも動作クロックを高めたモデルです。CPUの処理性能を大きく左右し、数値が高いほど処理性能も高くなる動作クロックですが、一般的にノートPC向けのCPUはこの動作クロックを高めるのが難しいとされています。デスクトップPCと比べて筐体が小さいため、発熱したCPUやGPUを冷却する能力に大きな制限がかかるからです。
しかし今回発表されたCPU、特に上位クラスのCore i7-1195G7は、ノートPC向けながら最大動作クロックが5.0GHzと非常に高い値に到達しており、その点で話題を集めました。
ちなみに競合であるAMDのノートPC向け上位CPU「Ryzen 7 5800U」は最大動作クロックが4.4GHz。CPUの処理性能を左右するもうひとつの指標であるコア数はRyzen 7 5800Uの方が多い(Ryzen 7 5800Uは8コア/16スレッド、Core i7-1195G7は4コア/8スレッド)のですが、インテルの資料によればゲーム性能ではCore i7-1195G7がAMDのCPUを上回るとされており、期待がかかります。
新CPUを搭載したノートPCは今夏から出荷が開始されるとのことなので、高性能な薄型ノートPCが気になるユーザーは注目してみるといいのではないでしょうか。
ストレージは技術的なブレークスルーを達成したMicron TechnologyのSSDに注目
CPUやGPUだけではなく、PCのデータ保存に関わるストレージ方面でもおもしろい発表がありました。近年、あらゆるPCでデータの保存に使われているのが薄型・軽量なSSDですが、サイズ感を変えずに保存容量を大容量化させるためにさまざまな工夫が採用されています。そのような工夫のうち、ここ数年のトレンドとも言えるのが3D NAND技術です。
SSDは、データの書き込みや消去の処理速度にすぐれたNAND型フラッシュメモリーと呼ばれるものを用いていますが、このNAND型フラッシュメモリーは「セル」と呼ばれる回路にデータを格納しています。
従来はこのセルを横に並べて、保存容量を大きくしていましたが、近年はセルを垂直方向に何層も重ねていくことで、製品あたりの容量を高めていく方式を採用。理屈の上では積層すればするほど大容量化できることになりますが、そのぶん製造には高い技術が必要とされます。Micron Technologyやサムスン、SK hynixなど、この分野に長けたメーカーは、これまでも層数の多さを競ってきました。
COMPUTEXの会期中にMicron Technologyが発表したのが、世界初の176層3D TLC NAND採用M.2 SSD「Micron 3400」「Micron 2450」です。従来品でもっとも層数が多いとされていたのが128層の3D TLC SSDであり、一般的なM.2 SSD製品には96層以下の製品が多いことを考えれば、これは圧倒的な層数と言えます。
速度などの詳細なスペックは明らかにされていませんが、データの転送速度が高速な最新規格の接続スロット「PCI Express Gen4」に対応することもあり、魅力的な製品になりそうです。今回の2製品はどちらもOEM向けですが、近いうちに一般販売モデルが登場すると思われます。
なお、このような技術的なブレークスルーは、SSDの容量あたりの販売価格の低下などにも寄与します。ユーザーとしてはより安く、より高速・大容量な製品が使用できるようになるのがありがたいところです。
小型筐体が話題になった旧モデルから一転、大型化して目を引いた「DeskMini Max」
COMPUTEXの華とも言える、自作PC系の話題にも触れたいと思います。ASRockは会期中のオンライン発表会で、新型のベアボーンキット「DeskMini Max」を発表しました。ベアボーンキットとは、CPUやメモリー、ストレージ、OSを自分で組み込むことで完成させられる組み立てセットの一種です。
本製品は、安価さと容積約1.9Lの小型筐体でちょっとしたブームになった「DeskMini」シリーズのバリエーション製品です。特徴的なのは、従来のDeskMiniを大幅に上回る本体サイズ幅168×奥行き220.8×高さ268mm、容積約9.94Lの大振りなケース。コンパクトさは失われた反面、グラフィックボードや光学ドライブなどを搭載可能になり、組み立ての手軽さはそのままに拡張性をアップさせています。グラフィックボードを搭載する場合、内蔵グラフィックス機能がないCPUを搭載できる点もこれまでとの大きな違いです。
発売日・価格は未定ですが、最低限のパーツさえ揃えてしまえばPCを組み上げられるため、初心者にもおすすめしやすいのがこうしたベアボーンキットのいいところです。将来的な拡張も考える場合、DeskMini Maxは有力なチョイスになるのではないかと思います。
見栄えも意識したMSIの自作PC組み立てキット「MPG GAMING MAVERIK」
もう一つ、より上級者向けのメーカー製組み立てキットを紹介します。MSIが発表した「MPG GAMING MAVERIK」は、CPU、メモリー、マザーボード、PCケース、水冷式のCPUクーラーなどを同梱したキットです。別途ストレージや電源ユニット、OSの用意は必須で、グラフィックボードを用意するかどうかは任意ですが、製品の総合的なスペックを考えた場合、使用するほうがベターではないかと思います。
同梱されるパーツはハイエンドなチョイスが目立ち、いずれもこのキット用にカスタムされているのが特徴。CPUはインテル製の上位モデル「Core i7-11700K」で、メモリーは動作クロックを意図的に上げるオーバークロックに定評のあるG.SKILL「Trident Z Maverik DDR4-3600」をバンドル。マザーボード「MPG Z590 GAMING EDGE WIFI SP」、PCケース「MPG VELOX 100P AIRFLOW SP」、「MPG CORELIQUID K360 SP」はいずれもMSI製で、全体の配色、LEDによるライティング効果などが調整されており、組み上げた際に統一感のある外観になるよう配慮されています。
PCショップが独自のキットを販売する例はそれなりにありますが、今回のようにメーカーが直接ゲーミングPCの組み立てキットを出すケースは珍しいと思います。最近ではeスポーツやストリーミング、PCを持ち寄ってゲームなどに興じるイベント「LANパーティー」などの盛り上がりもあって、“見栄えのいいPC”を組み立てる需要が増しており、そのようなニーズに応えていると言えるかもしれません。
オンライン開催の影響大きく、先行きが見通しにくい年に
発表の一部を振り返ってきましたが、冒頭で述べた通り今年は積極的なメーカーが限られており、業界全体の傾向などはやや読みにくい年であったかもしれません。また筆者としては、例年のような“お祭り感”のあるにぎわいや、展示会ならではのド派手なコンセプトモデルなどが見られなかったことにも少し寂しさを感じました。その時の状況次第にはなると思いますが、来年こそ、これまでのような盛況ぶりの復活を期待したいです。
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