デジタル
2022/4/11 19:30

【西田宗千佳連載】ソニーLinkBudsの狙いはスマホとの親和性向上と音によるARだ

Vol.113-3

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはソニーの耳をふさがないイヤホン、LinkBuds。この製品による、ソニーの狙いを解説する。

↑LinkBudsは、ドライバーユニットには振動板の中心部が開放されているリング型を採用。耳をふさがないので圧迫感が小さく、イヤホンをしていても周囲の音が明瞭に聞こえるのが特徴。ケース併用で最長17.5時間使用可能なスタミナ性能や、音切れしにくい高い接続安定性も好評を得ている。実売価格2万3100円(税込)前後

 

ソニーが「LinkBuds」で開拓しようとした要素は、音楽を聞かないときにも着けているヘッドホン(イヤホン)というジャンルだ。

 

スマートフォンとともに生活するのが日常になり、我々はいつでも音楽や動画に接するようになってきた。だが、わざわざヘッドホンをつけるのは、音楽を聞くときやゲームをするときなど、特定の目的があるときと言っていい。

 

しかし、本当にスマホがより日常的なデバイスになるなら、スマホからの“音”はもっと増える。いま、メールやメッセンジャーの通知は画面に出るのが普通だが、ヘッドホンを着けっぱなしであるなら、それは声で聞こえてもいいはず。ナビゲーションでも、次にどこで曲がるのかは、画面を見ずに声でわかれば便利だ。

 

そうしたことはすでにできるのだが、ずっと着け続けていられる快適なヘッドホンが少ないがゆえに、なかなか広がっていない。コロナ禍になってビデオ会議が増え、そこで「骨伝導ヘッドホン」が注目されたのも、長い時間着け続けたときの快適さが評価されたからである。

 

だとするならば、できるだけ軽くて、しかも音質なども良いヘッドホンを作ればいい。それがLinkBudsの狙いである。現状では軽く作るのが精一杯で、バッテリーの搭載量が少なく、連続では2時間半ほどしか動かないのが難点だ。ちょっとこれでは“ずっと着けている”というわけにはいかない。後継機では、もう少し長く使える設計を目指して欲しいとは思う。

 

ただ、LinkBudsは、長く着けていられることだけを狙ったわけではない。音のAR的な世界も目指している。

 

AR(Augmented Reality)は現実にコンピューターが生成した情報を重ねる技術で、通常はCG=映像でそれを実現する。だが、別に音でもいいのだ。特定の場所に行ったらそこでだけ聞こえる音があったり、移動にあわせて音が聞こえてきたりすれば、それは“音によるAR”。CGの描画を必要としないぶん、スマートフォンに与える負荷も小さく、実用性は高い。ナビゲーションの音声化は、音のARの第一歩である。

 

現状、音のARを楽しめるアプリは少ない。マイクロソフトの提供している「Microsoft Soundscape」がもっともそれに近い体験を提供してくれるものだと思う。利用は無料だし、AndroidでもiPhoneでも使えるので、ぜひ一度試してみていただきたい。

 

実はこのアプリ、別にLinkBuds専用というわけではない。特にiPhone版だと、アップルの「AirPods Pro」や「AirPods Max」でも使える。要は、ヘッドホン側にも頭の向きを認識するセンサーが入っていることが重要なのだ。

 

そう考えると、ヘッドホンに内蔵されることが求められる要素も、今後さらに増えていく可能性が高い……ということになるかもしれない。

 

そしてもうひとつ、LinkBudsにはおもしろい要素がある。それがなにかは、次回のWeb版で解説していきたい。

 

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