デジタル
2022/4/22 18:30

【西田宗千佳連載】ソニーLinkBudsは強烈なマイクのAIノイズキャセルに注目すべき

Vol.113-4

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはソニーの耳をふさがないイヤホン、LinkBuds。製品の注目技術を解説していく。

↑LinkBudsは、ドライバーユニットには振動板の中心部が開放されているリング型を採用。耳をふさがないので圧迫感が小さく、イヤホンをしていても周囲の音が明瞭に聞こえるのが特徴。ケース併用で最長17.5時間使用可能なスタミナ性能や、音切れしにくい高い接続安定性も好評を得ている。実売価格2万3100円(税込)前後

 

LinkBudsには、おもしろい技術が採用されている。外見のユニークさが注目されるが、実はその技術も重要だ。

 

それは「AIノイズキャンセル」。ノイズキャンセルといっても、一般のヘッドホンとは違う。ノイズキャンセルというと耳に聞こえる音から騒音の部分を軽減するものだが、LinkBudsに搭載しているのは「マイクのAIノイズキャセル」技術。要は、マイクで話したときに声だけをエンハンスし、周囲の雑音を消してしまう機能だ。

 

実際、この機能の効果は強烈だ。

 

ビデオ会議などで、ミュートしてない人がPCでタイプしていて音がうるさい……という経験をしたことはないだろうか。そういうシーンでも、声は残るがタイプ音はきれいに消えてしまう。周囲がザワザワとうるさいカフェや雑踏で話したときにも、周囲の騒音は消え、通話している相手には聞こえない。

 

こうした「AIによる音声以外のノイズ除去」は、数年前から存在した技術だ。実は、ZoomやMicrosoft Teamsにも、2021年中頃から標準機能として搭載されるようになってきた。

 

だが、そうした機能群はPCやスマートフォンの性能を活用したものだ。この機能を、LinkBudsは4gしかない本体の中で実現している。だから、LinkBudsがつながって通話に使える機器すべてで、追加ソフトなどを入れることなく、AIによる音声以外のノイズ除去が使えることになるのだ。

 

こうしたことは、AI(機械学習)の技術が進化し、小さなLSIでも効率的に処理が行えるようになってきたことと、Bluetooth機器に搭載されるようなLSIが高性能化したことの両方で実現できたものである。

 

LinkBudsがAIによる音声以外のノイズ除去を搭載した理由は、小さいが故に存在する、設計上の制約にある。

 

一般的にヘッドホンなどでは、マイクを多数搭載して音を拾うことで、音質向上・ノイズ低減を実現する。だが、LinkBudsにはあまりにスペースがなく、たくさんのマイクを搭載することが難しい。そのため、別の手段による通話品質の向上という考え方から、AIが採用された次第だ。

 

その結果として、これだけはっきりとした優位性が生まれたのだから、今後のソニー製品では、従来通り多数のマイクを搭載している製品であっても、AIによるノイズキャンセルが使われる可能性がある……と筆者は予測している。

 

また、この手法に気がついているのはソニーだけではない。Razerは3月末に発売したマイク「Razer Seiren BT」に、AIによるノイズキャンセルを搭載した。Vlogなどで声を収録する場合、風の音や雑踏の音などをカットするために使っているわけだ。

 

おそらく今後、多くのメーカーが同様の機能をヘッドホンやマイクに組み込み始めるだろう。

 

AIによるノイズキャンセルの欠点は、声が若干人工的になってしまうことだ。おそらく次の競争は、AIを使いつつ自然な声の収録を目指す……というところになってくるのではないだろうか。

 

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