デジタル
2022/9/4 11:45

【西田宗千佳連載】Meta Quest 2大幅値上げの背景は円安だけじゃない

Vol.118-1

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはFacebook改めMetaが手がけるVRヘッドセット「Meta Quest 2」の価格引き上げ。この改定にはどんな思惑があるのか。

↑Meta Quest 2。実売価格5万9400円(128GB)から。Meta社が買収したことにより、それまでのOculus Quest 2から名称を変更したVRヘッドセット。完全ワイヤレスによる操作が可能で、ゲームやフィットネスで展開されるVR空間、さらに昨今注目されているメタバース空間での移動もより自由度を増すデバイスとなっている

 

円安だけが背景ではない全世界での価格改定

Metaは同社のVR対応ヘッドセット「Meta Quest 2」を、8月1日から値上げした。理由は材料費・製造コストの高騰と円安だ。

 

円安による値上げはアップルがiPhoneで発表しており、シャオミも日本での値上げを発表した。だからMetaが同じことをしても不思議ではない、ということもできる。

 

だが、違う点が2つある。

 

円安のために日本だけで値上げされるなら、日本人としては微妙な気持ちだが、ある意味仕方がない。だが今回は、すべての国での値上げだ。アメリカでは価格が100ドル上がり、日本では2万5000円近くも値上げ。値上げ前には3万7180円(税込み)で買えたものが、8月以降は5万9400円(税込み)になってしまった。世界じゅうで値上げされた、という点が大きい。

 

もうひとつは、Mata Quest 2は実質的に家庭用ゲーム機であり、家庭用ゲーム機が発売後に大幅に値上げした例はほとんどない、ということだ。

 

ゲーム機は時に赤字で売られる。ソフトなどからの収益で利益を得られるからだ。もちろん、ずっと赤字のゲーム機は成功しない。技術の進化や量産効果で“できるだけ素早く赤字の時期をくぐり抜ける”ために、初期は赤字であることを許容しつつ、とにかくたくさん普及させて早急に利益水準を高めるのが、ビジネスモデルの根幹である。

 

メタバース事業の普及により注力する手法を探る

今回のMata Quest 2のように値上げをすると、当然普及にはブレーキがかかる。Metaもそのことはわかっていての価格改定だったはずだ。価格改定に関する発表文のなかでMetaは次のように述べている。

 

「価格を調整することによって、Metaは革新的な研究と新製品開発への投資をさらに進めることができます」

 

現状Metaのハード事業は赤字とされている。長期的な開発が続くなか、赤字幅を圧縮していかないと厳しい、という判断なのだろう。同社の第2四半期売上高は288億ドルで、上場以来初の減少となった。主因はメタバース事業ではなく、FacebookやInstagramからの広告売り上げ減少だ。メタバースからの売り上げが短期で急拡大するとも思えない。

 

ここまでの投資を生かすためにも、このあとに構築されるであろう市場をリードするためにも、多少計画を練り直し、赤字拡大のペースを緩める必要があると同社は判断したのだろう。製造コストが上がっているのも確かだが、他社と異なり価格を据え置く判断を下せなかった、という点が重要だ。

 

こういう話をすると“メタバース自体の可能性が怪しい”と思う人もいそうだ。だが少なくとも、Metaはそう考えていない。今年の秋には新製品「プロジェクト・カンブリア(コード名)」の発表も予定しており、メタバースへの投資は継続される。ただ、VRゲーム機としてのビジネスを主軸としつつも、無理な普及は目指さず、ビジネス向けを含めたより堅調な市場が短期に見込めるところへ先進性を武器に切り込もうとしているのだ。

 

それはどのような点からなのか? ほかの「メタバース向け機器」は今年どうなるのか? その予測は次回以降で解説する。

 

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