デジタル
2024/4/2 11:30

【西田宗千佳連載】なぜ「形状の違うイヤホン」に注目が集まるのか

Vol.136-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは最近増加中の“耳をふさがないイヤホン”。これまでとは形状の違うイヤホンに注目が集まる理由を解説する。

 

今月の注目アイテム

HUAWEI

FreeClip

実売価格2万7800円

↑形状記憶合金を使用したC-bridgeデザインを採用し、圧倒的な安定感と着けやすさを実現。さまざまな耳のサイズと形状に合い、スポーツ中でもしっかりとフィットして激しい運動でも落ちにくい。片耳単体では約5.6gと軽量だ

 

周囲が聞こえるタイプのヘッドホンやスマートグラス型の音声再生デバイスが出てくる理由には、身も蓋もない理由もある。飽和し始めて差別化が難しくなってきたヘッドホン市場での生き残りだ。

 

ヘッドホン市場の主流が「完全ワイヤレス型」になって久しい。

 

特に近年は、日本での販売価格が3000円を切るような、非常に安価な製品も増えてきた。理由は、中国を中心とした製造請負企業(EMS)での設計手法がこなれてきて、パーツコストも大幅に下がったからだ。

 

特に大きな影響があるのは、ワイヤレスヘッドホンに必要なプロセッサーのコスト低下である。オープンなアーキテクチャである「RISC-V」を使ったヘッドホン用のプロセッサーが登場したことで半導体会社へのライセンス支払いが減り、そのぶん安価に作れるようになったわけだ。逆に言えば、「完全ワイヤレス型である」だけでは、低価格な製品との差別化ができない時代になってしまったということでもある。

 

そうすると、単価を維持したい企業の側としては、ある程度付加価値のついたヘッドホンを売るしかない。音質や接続性などの古典的な差別化要素はいまだ有効であるが、それだけで消費者は振り向いてくれない。より目立つ差別化としてフォーカスされるのが「形状の違い」であり「周囲の音が聞こえる」という要素だ。

 

耳の穴に入れず耳たぶに引っ掛けるような構造のイヤホンは、すでに普及しているインイヤー型製品との違いがわかりやすく、売りやすい製品でもある。メガネのフレームにスピーカーを仕込むタイプの製品も、形状的な違いをアピールしやすいという点では同様だ。

 

ただ、いままでにない形状のヘッドホンを使った場合、音質や使い勝手を上げるためには、いままでと異なるノウハウが必要になる。その点を差別化点としてアピールすることもできるが、逆に品質の問題が生まれる可能性もある。

 

また、消費者から見た場合、“変わり種”はやはりリスクでもある。市場規模はまだ大きくないので、作ってはみたものの売れ行きがいまひとつ……ということも多いようだ。たとえばメガネフレーム型のヘッドホンについては、一時期多くの企業が製品化して市場が盛り上がったものの、BOSEを含め多くの企業が撤退し、Metaなど少数の製品が残るだけだ。耳にかけるタイプの製品も、このまま定着するのかは未知数な部分がある。

 

ただそれでも、各社は新しい製品を作る。そこには、単純にヘッドホンなどだけを売りたい、というニーズだけではない思惑も存在する。それがどういう点なのかは、次回解説することにしよう。

 

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