TBSテレビの『水曜日のダウンタウン』や『クレイジージャーニー』、テレビ朝日の『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん(以下、博士ちゃん)』など、レギュラー番組を16本も抱える超売れっ子放送作家・飯塚大悟さんに、ヒットの裏側をうかがう本インタビュー。
「放送作家はいなくてもいい存在」と驚きの発言が飛び出した第1回に続き、今回はあの人気番組の誕生秘話や仕事のやりがいをお聞きました。
人気番組『博士ちゃん』誕生のきっかけはサンドウィッチマンの単独ライブ
飯塚さんは、毎週の放送内容を作るだけでなく、番組の立ち上げ自体に携わることもあるとのこと。そのひとつが、大人顔負けの知識を持った子ども(通称:博士ちゃん)が視聴者に向けて授業をするバラエティ番組『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』。飯塚さんはこの番組の立ち上げを担当し、現在もチーフ作家を務めています。
「これまでもサンドウィッチマンさんの番組にいくつか携わらせていただいていて、一緒にやっていた演出家さんから、“二人を起用した新しい番組を立ち上げよう”という話が出たんです。サンドウィッチマンさんって、単独ライブのときに客席にいる子どもを舞台に上げてアドリブで漫才をするんですが、それがすごく面白くて。それが頭にあったので、番組でも子どもと組み合わせることにしました」
さらにその組み合わせをより面白くするために取り入れられたのが、「大人が子どもに教える」のではなく、「子どもが大人に教える」という構図です。
「サンドウィッチマンのおふたりは、いい意味でモノを知らないので(笑)、こんなフォーマットが成立するのかなと考えたんです。お城や80年代アイドル、100均収納グッズなど、ひとつのジャンルに特化した知識を持つ子どもが出てきて、ふたりに教えるという見せ方が面白いかなと。さらに出演する子どもたちよりも少し年上で、かつ幅広い知識を持っている芦田愛菜さん(番組開始当初、中学生)が出演してくれたらより番組に厚みが出るだろうということで、ダメ元でオファーしたら奇跡的に出演が実現したんです。最初は特番として放送したんですが、そのときにスタッフ全員が手応えを感じていましたね」

『博士ちゃん』の面白さは、「出演する博士ちゃんが純粋に好きを突き詰めている姿にある」と飯塚さんは続けます。
「過去にも芸人さんと子どもを掛け合わせた番組はありましたが、出ている子どもを芸人さんが変わり者扱いしていじって面白くするという見せ方が大半でした。でも『博士ちゃん』は、突き詰めた知識を持つ子どもたちを尊重し、異常な熱意を持った子どもが大人たちに授業することで、面白さを生んでいます。豊洲市場や東京タワーなどいろんな場所に行ってトイレを観察している『トイレ』好きの子がいたり、『イオンモール』が大好きで、このフロアのこの位置にはあの店舗を入れたほうがいいと、自分で架空のイオンモールを考えている子がいたり。
そうした子どもたちは、“これをすれば褒められる”とか“将来のため”とかじゃなく、ただ純粋に“好きだから”やっていて、その情熱が画面越しにも伝わるから面白いんだと思います」
やりがいは、「知らない誰かの人生が好転するきっかけになりうること」
そんな飯塚さんが、仕事に感じるやりがいは、「誰かの人生をそっと変える可能性があること」だといいます。
「『クレイジージャーニー』で“スピアフィッシャー(もりなどを使って魚類を捕らえる水中スポーツ)”の方を取り上げた回があるんですが、彼女がその仕事についたきっかけが、『いきなり!黄金伝説。』(※)なんですよ。実は『黄金伝説』は、僕が初めて担当したゴールデンの番組。過去に携わった仕事が誰かの人生に影響を与え、その人がまた別の担当番組に戻ってきてくれる。それはとても感慨深い経験でした。『博士ちゃん』では、あまり学校では馴染めなかった子が、番組出演をきっかけに自分に自信を持ったり、周りの友達からも認められるようになったという話もよく聞きます。もちろんこういった直接的なエピソードでなくても、例えば今日嫌なことがあったけど、番組を見ていたら忘れられましたっていうのでもいいんです。知らない誰かの人生が好転するきっかけになりうる、それがこの仕事のやりがいだと思います」
※:司会のココリコをはじめとした芸能人たちが、「伝説」と銘打たれた過酷な企画に挑戦する番組。よゐこ濱口さんの『とったどー』と叫ぶシーンが有名

その社会に与える影響の大きさから、テレビの世界に憧れる人は後を立ちません。しかし飯塚さんは「テレビの放送作家に関して言えば、なりたい人は減っているのでチャンスは多い」と断言。
「放送作家になりたいという方の相談を受けることがあり、『テレビ見ていますか?』って聞くと『あまり見ていない』と答える人が、ひと昔前よりも増えている気がします。最近は、テレビの放送作家を本気で目指している人は減っていると思うので、テレビが本当に好きで、本気でなりたい人には十分チャンスがあるはず」
さらに飯塚さんは、「放送作家は、特別な才能がなくてもできる仕事だ」と続けます。
「小説家や音楽家など、いわゆる天才と呼ばれる人が若くして頭角を表す世界もありますが、放送作家はそういった例がほとんどない世界。若い作家さんが出すアイデアより中堅以降の放送作家のアイデアのほうが、新しくて面白いことも多いと感じることが多いです。これって裏を返せば、最初はできなくても地道にコツコツ仕事を続け、傾向と対策を積み重ねれば面白いものを生み出す筋力がつくということ。僕自身、生まれ持った才能も人と違った経験もありません。お恥ずかしながら海外に行ったこともないし、むしろ、普通の人よりも経験していることは少ないんですよ」
テレビには、まだ“見たことのない面白さ”がある

飯塚さんは、放送作家として番組を作り続けて20年弱。子どもの頃に憧れたジャンルの番組にはひととおり携われたという飯塚さんに、今後、放送作家として挑戦してみたいことをお聞きしました。
「子どもが3人いるので、“自分の子どもに尊敬されるような番組を作りたい”という思いは強くあります。視聴者を観察できる機会って滅多にないので、自宅にいる彼らをうならせるものは作ってみたいです。そしてもう1つは、過去に作られたどの番組にも似ていない番組を作りたいとも思っています。『博士ちゃん』と同時間帯の番組で、タレントが自宅で保護猫を飼い、その様子を定点カメラで撮影するコーナーがあるんですが、それだけで番組が成立しちゃうんだってすごく驚きました。あとこれは特番ですが、『50日間で女性の顔は変わるのか』っていう番組もすごく面白くて、たとえば普通の主婦がファッション雑誌の編集部で50日間働く姿を追いかけるんですが、どんどん垢抜けて驚くほど凛とした顔つきになるんですよ。これには『やられた!』って思いました。面白さの発明ですよね。そんなふうに誰も見たことのない面白さはまだまだ作れるって信じています」