ドラマ「パリピ孔明」で演じた仮面アイドルユニットのメンバー役が話題を呼び、今年は映画『タイムマシンガール』で主演を務めるなど、躍進著しい俳優の葵 うたのさん。20歳でJapan Film Festival Los Angeles2022にてBest J. Horror賞を受賞した若手監督、清水友翔氏の長編映画デビュー作『僕の中に咲く花火』でヒロインを務める彼女に、新鮮な経験だったという撮影エピソードを中心に話を聞いた。

【葵 うたのさん撮り下ろし写真】
人生における喪失のようなものを常に胸に抱えておくことを意識した
──『僕の中に咲く花火』が長編映画デビュー作となる清水友翔監督は、葵さんと同世代なんですよね。
葵 確か清水監督は私の一つ年下で、主演の(安部)伊織くんと同じ年です。同世代の方が長編映画デビュー作でありながら、こんなにも重厚な作品をベテランの技術スタッフの皆さんと一緒に作り上げているのを見て、とてもたくましいなと感じましたし、新鮮でした。
──役作りはどのように進められましたか?
葵 撮影に入る前に、リハーサルの時間をたっぷりといただいて、私、伊織くん、清水監督、プロデューサーの落合賢さんと4人で、役への理解を深めていくことができました。そのおかげで現場にはすんなり入れましたね。
──葵さんの演じた朱里はミステリアスな役柄ですよね。
葵 素性を隠している部分が多い女性だったのですが、細かい設定は清水監督にいただいて、ディスカッションしながら固めていきました。言葉で説明するのではなく、余白がたっぷりある脚本だったので、特に私が気をつけたのは、あまりエモーショナルにならないようにすることでした。悲劇のヒロインになり過ぎないようにカラッとした部分を持ちつつ、これまでの人生における喪失のようなものを常に胸に抱えておくことを意識して現場に臨みました。
──劇中だと、もっと年上に見えました。
葵 そうですよね(笑)。今みたいに髪の毛がボブだと、もともと幼い顔立ちなので、少女っぽくなってしまうんです。朱里は今の私ぐらいの年齢設定だったんですが、髪の毛を伸ばしてパサつかせたり、洋服の着こなしを少しだらしない感じにしたりして、けだるい質感みたいなものを出すようにしました。

──朱里が登場するときの服は、まさにけだるい雰囲気が出ていて良かったです。
葵 用意していただいた衣装なんですが、「私の私物?」というぐらい色味も形も同じような服を持っているんですよ(笑)。
──清水監督からはどんなリクエストがありましたか。
葵 主人公の稔が母を失っているので、母性のようなものを朱里から感じるようにしたいと仰っていて、自分では清水監督の求めている母性を持てていたかは分からないのですが、そこは意識しました。
──朱里は包容力のある女性だと感じました。
葵 良かったです(笑)。
──リハーサルと本番で変化したシーンもあったのでしょうか。
葵 基本的には同じなのですが、クライマックスで稔と朱里が花火をシーンは、リハーサルだと朱里がめちゃくちゃ泣いていたんです。でも現場ではそういう感情の出し方はしていなくて、そこは変わりました。
──撮影期間はどのくらいでしたか?
葵 撮影自体は2週間ぐらいで、私は途中参加でした。その頃、ドラマ「パリピ孔明」の撮影もあったので、映画の舞台となった岐阜と東京を行ったり来たり。でもドラマと映画で演じる役が全く違ったので、移動する新幹線の中で田園風景などを見ながら気持ちを切り替えていました。
──劇中では岐阜の風景が生々しく切り取られています。
葵 舞台になった場所は山に囲まれているせいか、じめじめと暑くて。去年8月の撮影だったのですが、ちょうど台風が2回ぐらい来て、雨のシーンが増えたんです。じめっとした日本の夏が出ている映画になったのかなと思います。また稔と朱里がトンネルの中で求め合うシーンは、地元の方々も協力してくれて、地元の皆さんと作り上げた作品です。
──岐阜という街を知るためにやったことはありますか。
葵 私は待機時間が長くて、皆さんが撮影している間、ホテルで一人だったので、街を散歩しました。喫茶店や銭湯に行ったのですが、現地の人と触れ合うことで役の思考に似てくるというか、気になるものが朱里の目線になっていくんですよね。たとえば喫茶店でおばあちゃんとお話をしたときに、なぜか私は泣いてしまって、「若い子も大変ね」と言われたんです。大して深い話もしていなかったので、自分の祖母を思い出したのかもしれません。あと役のために彼岸花のフェイクタトゥーを入れていたんですが、銭湯に行ったときに、おばあちゃんたちから「あんた」って声をかけられて。怒られるのかなと思ったら、逆に「その彼岸花いいわね。一輪というのがいいわ」と興奮気味に褒めてくれて。わらわらと裸のおばあちゃんたちが集まってきて、とても温かい距離感でした。
──自然と地元のコミュニティに入っていたんですね。葵さんは埼玉県出身ですが、田舎暮らしに興味は?
葵 実は2年前ぐらいから、関東圏なんですが田舎のほうに拠点を移したので、田舎暮らしは身近なんです。

ちゃんと言葉で返さなければいけないと感じた現場だった
──安部さんの印象はいかがでしたか。
葵 伊織くんは映画初主演だったのですが、ずっと現場で戸惑っていて、繊細な感受性が伝わってきて、稔という役柄にぴったりでした。何度か迷っていたり戸惑っていたりする姿を目の当たりにしましたが、それが役に活かされています。少年期の貴重な時間を見たような気分でした。今年に入って、清水監督の2作目の撮影があって、その作品でも私は伊織くんと共演させていただいているんですが、この一年で大人になったなと感じました。
──現場での清水監督の立ち居振る舞いの印象は?
葵 現地では、それほど私は清水監督とコミュニケーションを取る時間がなくて、傍観する立場だったのですが、年上の方たちや、ベテランの方たちに囲まれて大変だったと思います。でも、とにかく映画が好きなんだなということが伝わってきましたし、私も頑張らなきゃと思って、いつも以上にギアを上げました。とても貴重な経験をさせていただきましたね。
──清水監督も、撮影監督の有近るいさんも海外を拠点に活動されていますが、日本との違いは感じましたか。
葵 お二人とも、はっきりと自分の考えを伝えてくれるんですよね。特にるいさんがそうで、言いたいことをパッパッと言う感じ。私はそういうコミュニケーションに慣れていなかったので、最初は戸惑いつつ、すごいなと圧倒されました。熱量が高い方々なので、意見を絶対に聞き逃さないようにしようと心がけていました。そういう環境だと、こちらも影響されて、ちゃんと言葉で返さなければいけないなと。伝えるということに神経を使いました。
──清水監督の2作目に出演したというお話がありましたが、演出に変化はありましたか?
葵 だいぶ違っていました。少し柔らかくなったのかなと思います。1作目は現場に入ると、心情の演出というよりも、体の状態の演出に力を入れていたのですが、2作目はラフなコミュニケーションを取りながら進めている印象でした。一貫しているのは、自分のやりたいことを優先するというよりも、役者に委ねてくれる監督ですね。
──前作と同じ役者さんを起用したのは監督のこだわりなんですかね。
葵 清水監督は今まで一緒にやってきた人たちとものを作っていきたいという気持ちが強い方で、そういうのもあったのかなと思います。また呼んでいただけたのはうれしいですね。
──稔と朱里に共感する部分はありましたか?
葵 どちらにもありました。家庭環境は似ていないんですが、人との距離の取り方などは共感しましたね。あと稔が父の男の部分が見えたときに、拒絶反応が起きるみたいなところは「思春期にあるよね」と思って。ドキッとするシーンが幾つもありました。

──特に大変だったシーンは?
葵 トンネルですね。清水監督から、「性的な行為を通して生きることへの渇望が出るシーン」というオーダーがあったので、その場で起きることを大事にしつつ、清水監督の思う見せ方があるから、打ち合わせも入念にして臨みました。
──アクションシーンのような激しさでしたよね。
葵 実際、翌日は筋肉痛になりました(笑)。難しかったところで言うと、朱里の登場シーンですね。カラッとしているんだけども、図々しすぎてもいけないなと思って、そこら辺の塩梅を考えながら演じました。そもそも人が初めて出会うシーンは難しいですけど、この映画の中でもお気に入りのシーンです。
──初めて完成した映画を観たときに、どう感じましたか。
葵 台本を読んだときの印象とも、現場で感じたものとも質感が違っていて、「すげー! こんな映画になるんだ」と驚きました。撮影中は分からないことが多かったんですが、物語が繋がることで「なるほど」と理解できました。
──最後に『僕の中に咲く花火』はどういうときに観てほしいですか。
葵 たまにじーっと何かを見たくなるときがあって、そういうときに私は川に行ったりするんですけど、それだと寂しくなるんですよね。そういうときに、この映画はいいなと思います。静かに見つめられる映画なので、人の思いがすごく込められている作品なんです。ふと何かを眺めたくなったときに、映画館まで観に来てくれたらうれしいです。
僕の中に咲く花火
2025年8月30日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
(STAFF&CAST)
監督・脚本:清水友翔
出演:安部伊織 葵うたの 角心菜 渡辺哲 / 加藤雅也
水野千春 佐藤菜奈子 平川貴彬 米本学仁 桜木梨奈 田中遥琉 古澤花捺 國元なつき
(STORY)
田園風景の豊かな岐阜県にある田舎町。小学校の頃に母親を亡くしている大倉稔は、家にほとんど帰ってこない父親と不登校で引きこもっている妹に頭を悩ませていた。10年前に亡くなった母を未だ忘れられない稔は、死者と交流ができる、と話題の霊媒師を訪ねる。そこで「ドラッグ」が臨死体験に似た働きをすることを知った稔は、死後の世界への好奇心から非行の道を走り始める。そんな折、東京から帰省してきたという年上の女性、朱里と出会う。どこか母親のような優しさを併せ持つ朱里は、稔の心の寂しさを埋めてくれる存在になっていく。しかし、稔の前で起こった不幸な事件が稔の心がこれ以上ないほどに引き裂かれてしまう。死への好奇心が恐怖に変わってしまったことで、彼の胸の内に潜んでいた狂気が姿を現し始めるのだった……。
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撮影/河野優太 取材・文/猪口貴裕