エンタメ
2016/7/12 20:27

博多大吉の肩の力が抜けた姿勢に思う、自分を「二の次にできる上品さ」

長かった虫歯治療が終わり、ふいに歯医者が言った。「食いしばりか歯ぎしりしてる可能性ありますね」。舌の横に歯の跡がついているのだという。「歯ぎしりの場合は、マウスピース作らないと」というセリフにギョッとする。やっと治療も終わってオサラバだと思っていたのに。一旦家に持ち帰ります、とそそくさと歯医者を出る。

 

しかし、本当に歯ぎしりをしているのか。寝ている間のことはわからない。家族やよく泊まりに行く友人に聞いてみた。曰く、「してるよ」とのこと。

 

四半世紀生きてきて初めて知った事実に愕然とする。というか、あまりの即答具合に、どこか裏切られた気さえする。

 

……大げさだろうか。しかし、私はいびきを大々的にかく人たちを横目に、静かに寝息をたてる自分を誇っていたのだ。唯一ひとより誇れるところだと言っても過言ではない。誰にも迷惑をかけず、お行儀よく寝ていると思っていた。がっくりと肩を落とした私に、追い打ちをかけるように友人は言葉を続ける。

 

「でも、あなたは歯ぎしり顏だから、マウスピースは作った方がいいかもね」

 

歯ぎしり顔。

 

“品のよさ”とははたしてどこからくるのだろう。たとえば、同じ下ネタを言っても、下品に聞こえるひともいれば、どこか品よく聞こえるひともいる。笑い方や食べ方であれば、その所作からわかりやすい部分もあるが、“上品なひと”というのは、もはやそのひとの生き様からにじみ出るもののような気もする。

 

どこか破天荒なイメージの強い“芸人”という職でありながら、同時に“上品”というイメージも持ち合わせる稀有な芸人、博多華丸・大吉と麒麟の川島 明をゲストに、テレビ東京のバラエティ番組「ゴッドタン」で「上品芸人クリニック」を放送した。

 

二人の挙動や発言、言葉の選び方、すべてに品のよさを感じさせるのは、さすが。ゲストの悩みに二人が答える形で番組は進行するのだが、その際の大吉のアンサーに、私は上品の本質を見たような気がした。

↑博多華丸・大吉の博多大吉
↑博多華丸・大吉の博多大吉

 

たとえば「食レポはどうしたら上手にできますか?」というお笑いコンビ、三四郎の悩みに、「味の感想を一人で言おうとするからつまずくんですよ。味の感想は人に言わせるのがいいんです」と答える。いい答えが見つからなかったら、お店にいるお客さんに聞けばいいというテクニックだ。

 

「番組に二回目も呼ばれるためにはどうしたらいいですか?」という悩みに対しては「とりあえずカンペに従う」という実にシンプルな答えだった。カンペ通りに撮影が進まなかったとしても、もう一度流れを作り直すと、結果的に仕事が増えるというのだ。なんとか爪痕を残そうと気張りやすい若手にはありえない発想である。

 

この番組に限らず、大吉の肩の力が抜けた姿勢は一貫している。求められたことに対して、求められている分をきちんと果たす。番組やキャストのことを第一に考えて動くことができる。自分のことを二の次に、相手のことを第一に、そのわきまえこそが上品さを醸し出す理由なのかもしれない。

 

……私の話に戻ろう。「歯ぎしり顔ってなんですか?」。その字面の攻撃力に凹みつつ聞いた。友人は「なんでもかんでもためこんで、感情押し殺しちゃうタイプの顔」と答えた。それ、顔なのだろうか。しかし、言われてみれば当たっている。私はなんでも、全部自分で抱え込んでしまう癖がある。いつも頭は自分のことでいっぱいで、相手のことが見えなくなってしまうことが多々ある。

 

自分のことばかりを考えていたら、気づかぬうちに人の安眠を妨害し、ついでに自身(の口内)にもダメージを与えていたわけだ。

 

歯医者からアパートに戻ると、大して中身が入っていないはずの郵便受けから広告の束がはみ出していた。すべて同じ掃除業者のものだ。横を見ると、どの部屋の郵便受けにも、目につくように差し込まれている。こうでもしないと手にとってもらえないと思ったのだろう。

 

「下品だなあ」。突っ込んであった広告を、そのまま近くのゴミ箱に投げ入れる。誰よりも目立とうとしても、結局は目障りで不快に思われるばかりなのだ。

 

主張して押し付ける下品さよりも、相手を見ることのできる上品さを。

 

上品さを得たら、マウスピースを作る必要もなくなるだろうか。

 

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イラスト/マガポン