今年も7月22日~24日に開催された野外フェス「FUJI ROCK FESTIVAL(フジロックフェスティバル)」。GetNavi webでは、様々な音楽誌に寄稿しているライター・油納将志さんのライブレポートをお届けしています! 前回の【会場編】に続き、今回はお待ちかねのアーティスト編です!
今年のフジロックは、シガー・ロス、ベック、レッド・ホット・チリ・ペッパーズと、ヘッドライナーが超強力でしたが、その他にも見逃せないアーティストが盛りだくさんでした。なかでも、油納さんが再来日公演が楽しみ&期待したいアーティストとは!?
【前回の記事】
【フジロック’16レポート 会場編】進化を続ける野外フェスのパイオニアの現在
忘れられない光景となった「ジェイムス・ブレイク」の静謐なステージ
前回の会場編でも触れたが、今年は前夜祭も含めて全日参加。ここ数年は観たいアーティストに狙いを定めて1日だけ行って、夜に車で東京に帰ってくるというパターンだったが、20周年ならばお祝いしないわけにはいかない! とばかりに木曜日昼から日曜日深夜まで、約3日間半を完走。最初は体力が持つのかどうか心配だったが(しかも宿泊は苗場から車で1時間くらいのところ)、テンションが上がりっぱなしだったから疲れを覚えることもなく、フジロックを楽しみ尽くしてきた。
と書きつつも、例年のようにあれも観ないと、これも観ないと、というように場内を縦横無尽に駆け巡ることはなく、体力のことも考慮し、観られればいいや的なわりとゆるめのスケジュールを組んで臨んだ。なるほど、これが3日間の過ごし方なのね、と一人悦に入っていたのだが、1日目のスコットランド出身のギターバンド、トラッシュキャン・シナトラズは会場入りした途端に早足で最前列をキープ。前言を撤回するかのようなテンションだったのは理由がある。7年ぶりの最新作「ワイルド・ペンデュラム」がすばらしかったこと、そして8年ぶりにフジロックで出会えるという喜びが気持ちを逸らせたのだけれど、その期待を上回る演奏を披露。新旧の色褪せることのないメロディをキャリアに裏打ちされた確かなプレイで、苗場まで駆け付けた彼らと共に年を重ねてきたのであろう熱心なファンの瞳を潤していた。
その後、ヴォーカリストとしてもソングライターとしても成長を感じさせたジェイク・バグを眺め、ジェイムス・ブレイクへ。空気をビリビリと振動させるような低音が充満する中、ジェイムスは静謐にピアノを弾きながら歌い上げていく。いまにも闇に覆われそうな時間に、あの体温が低めの声と鍵盤の響きが流れ出した瞬間は今年のフジロックで忘れられない光景のひとつとなった。来年2月の再来日公演で果たしてどのような音空間を創出するのかいまから楽しみでならない。
1日目のラストは、ホワイトステージのヘッドライナーを飾った英国の兄弟ダンス・アクト、ディスクロージャー。あらかじめセットされた打ち込みのビートにドラムやベースを生演奏で加えていくスタイルに変わりはなかったが、その演奏力やアレンジ、照明などの演出が格段に向上しており、非の打ち所のないステージを見せつけてくれた。あらかじめ音の良いPA前に陣取ったこともあって、音質も申し分なし。1日目の体力の残りをすべて出し切って、この日は終了した。
フレンドリーな雰囲気の「トラヴィス」
2日目はいつもと気分を変えて、群馬県側の最寄りICである月夜野ではなく、新潟県側の湯沢ICから会場に向かったのだが、これがいけなかった。ホワイトステージのオープニングを飾るザ・コレクターズに間に合うように出発したのだが、湯沢ルートは会場へのバスが多数走っており、そのバスが会場入りするための渋滞が発生。かなりの時間を要してしまい、結局ザ・コレクターズを見逃すことに……。備忘録として来年も覚えておきたい。
ということで、出鼻をくじかれた2日目は2ndアルバム「ロング・クラウド」を6月にリリースしたばかりのピアノマン、トム・オデールから。そのエモーショナルでドラマチックな彼の音楽は野外でどう映えるかが気になっていたが、苗場の青空に吸い込まれるように彼の歌声とピアノがグリーン・ステージに広がっていき、爽快なパフォーマンスとなった。
続いては、スコットランド出身のトラヴィス。ここ数年は毎年来日していて毎回観ているのだけれど、今回のフジロックはなんとヴォーカルのフラン・ヒーリーの誕生日(!)ということで、一段とあたたかい雰囲気に包まれていた。新曲と代表曲を織り交ぜながら、観客と会話するようなフレンドリーな雰囲気で演奏を進めていく彼ら。フランが観客に担ぎ上げられながら歌ったり、ハッピーバースデーをみんなで歌ったり、お約束の振り付けを教えてもらってみんなで踊ったりと、グリーン・ステージの観客みんなが笑顔になったひとときに。次回の来日公演は来年2月。きっとそのときも同じように満面の笑みが見られることだろう。
ルックスだけじゃない実力派「イヤーズ&イヤーズ」
最終日、がっつりと観たのはステレオフォニックスが初めて。フジロックと同じくデビュー20周年の彼らが、15年ぶりに苗場の地に帰還。若々しさを失わない外見とは裏腹に演奏はすっかりベテランの域に達していた。代表曲中心のセットリストがこれまで歩んできた彼らの道のりを描き出していくようで、グッと来る瞬間が何度も。フジロック後に行われた単独公演も非常に盛り上がったそうで、それも大いに納得するステージだった。
その後はレッドマーキーに移動して、英国の公共放送BBCが選出する2016年最も有望な新人に選ばれたジャック・ガラットへ。ヒゲヅラに白いサロペットという、なかなかインパクトのあるヴィジュアルで登場したが、演奏はさらにインパクト大。ステージ上でもすべての演奏をひとりでこなすマルチプレイヤーぶりを実際に目にして圧倒されっぱなし。本人も予想以上の観客が詰めかけたことに感動しきりで、茹で上がるんじゃないかと思うほど赤面して喜んでいた。これもフジロックのマジックのひとつ。とにかく観客がしっかりと音楽と向き合い、反応してくれることに海外からのアーティストは感動するという声を何度も聴いているので、ジャックもまたフジロックならばまた来たいという気持ちでいっぱいになっているはずだ。
最終日ラストはそのままレッドマーキーに残って、いまや米国でも高い人気を誇るようになった英国のダンス・ポップ・ユニット、イヤーズ&イヤーズを観た。前回の来日時に見逃していたので初見だったのだが、これがもう予想を上回るすばらしさだった。ピンクのトラックスーツをまとったヴォーカルのオリーは大きなウサギのリユックを背負って登場した瞬間に、女の子たちの嬌声がレッドマーキー中に響き渡る。まるでアイドルのようだったのだが、彼らはかつて80年代のデュラン・デュランやカルチャー・クラブがそうであったようにルックスも音楽も夢中になれる存在だと言っていい。実際、パフォーマンスと歌唱も安定感抜群で、どの曲も合唱が沸き起こるほどの盛り上がり。熱気が充満して今にも弾けそうになった21時ちょうどに終演。
ここで自分の3日間にわたるフジロックも終了。果たして3日間完走できるかと自信があまりなかったが、焦らずにのんびりとしたペースが良かったのか、心地よい疲労感をおぼえながら帰路へ。1日だけじゃもったいない、来年も3日間参加! と思えた今年のフジロックだった。