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2021/10/7 17:00

なぜ、ジギー・スターダストは生まれたのか? 若き日のデヴィッド・ボウイを描く『スターダスト』監督インタビュー

音楽史にその名を刻む偉大なアイコン《デヴィッド・ボウイ》。映画『スターダスト』はアルバム「ジギー・スターダスト」(1972)を発表する前年、若き日のデヴィッド・ボウイを描いた“ジギー・スターダスト”誕生の物語。10月8日から公開される本作の監督、ガブリエル・レンジに作品への思いや、製作の裏側などについて語ってもらった。

 

(構成・写真(監督):丸山剛史/インタビュアー:大野和基〈ジャーナリスト〉)

 

デヴィッド・ボウイの人生の「偉大なる小さな章」を描くこと

――この映画をつくろうと思った契機は何でしょうか。かなり昔からアイデアを温めていたのでしょうか。

 

ガブリエル・レンジ(以下レンジ) 私は、1976年から77年にデヴィッド・ボウイが西ベルリンでイギー・ポップと一緒に暮らしていた時期についての台本をすでに書いていたんです。製作に取りかかっているときに、プロデューサーの一人に「Salon Picturesの人たちと話した方がいい。彼らはデヴィッドの最初のプロモーションを兼ねた渡米を題材にしたテーマで映画化を考えている」と言われた事がきっかけでした。

彼らに会って、私はデヴィッド・ボウイのその時期(最初の渡米)に非常に関心を持ちました。彼の成功を考えた時に、このテーマがいかに重要かとういことがわかったのです。

彼らの台本は非常に面白い内容でしたが、最後は私がまとめました。というのもデヴィットや彼の異父兄であるテリーとの心理的な面を取り入れたかったのです。

●ガブリエル・レンジ/ウェールズ出身。ドキュメンタリー作品を手掛け、初めての長編ドラマ映画「The Day Britain Stopped(原題)」で、英国アカデミー賞で新人監督賞。2006年には自身が脚本を手掛けた『大統領暗殺』を監督し、トロント国際映画祭で国際批評家賞を受賞した他、国際エミー賞を含む5つものメジャーな賞を受賞。

 

――デヴィッド・ボウイの家族はこの映画で彼の歌を使う許可を出そうとしませんでしたが、それ以外で、もっとも高いハードルは何だったのでしょうか。

 

レンジ この映画を素晴らしいと思える映画にすることです。それこそが最も高いハードルでした。ただ、楽曲が使えないことで、デヴィッド・ボウイの歌がたくさん出てくるジュークボックス映画にならないようにというプレッシャーがなくなり、特定の時期について内容の濃い映画にできたとことは幸いでした。

 

――そもそも映画の脚本を作る中で1971年からスタートさせようと思った理由は何でしょうか?

 

レンジ デヴィッド・ボウイの最初の渡米は、多くの人がほとんど知らない、デヴィッドの人生の偉大なる、小さな章だからです。忘れがちなのですが、成功した人にも自信がない時代、空席の目立つステージで歌っていた時代があり、そういう苦悩の時期が私にとっては興味深いものでした。

それに、ツアーに彼が持って行った「The Man Who Sold the World(世界を売った男)」は、後の作品に与えた影響を考えると非常に興味深いアルバムで、このアルバムのテーマは、当時の彼の精神状態にとって、非常に重要であることは明らかでした。デヴィッド・ボウイの代表作で翌年リリースされたアルバム「ジギー・スターダスト」が完成する過程で、彼が自分自身を探し求めることこそが魅力的だったのです。

 

――映画に出てくる車移動のシーンが昔懐かしい(背景は合成)色合いに感じたのですが、そのようにしようと思ったのはどうしてですか?

 

レンジ デヴィッドは正式な書類をそろえずに、アメリカに思い切って入国しました。そこでマーキュリーレコードの広報マンであるロン・オバーマンに迎えられ、彼らは一緒に車でのプロモーションの旅に行きました。そこが映画の構成からみるとちょうどいい仕掛けになると思ったのです。更にデヴィッドの曲はまったく使えない、しかも予算をかなり低く抑えた映画なので、分相応の映画を作るには、その部分は必要な仕掛けでした。

車での旅は、彼が色々と経験を積んでいく中で重要な位置付けで、行く先々での経験を描くことこそが作品の意図であると思ったのです。

 

――デヴィッドの渡米の記録があまり残ってないとのことですが、映画の中では多く描かれていますね。どのようにして作ったのでしょうか。

 

レンジ 何人かの人と実際に話しました。更に渡米について、少しだけ細部を記した伝記や秘話もいくつかあり、そこから情報を得て参考にしました。正直に言うと、最も脚色をしたのは、ロン・オバーマンというキャラクターです。実際はもっと若くてデヴィッドに年齢も近く、もっとマナーの良い人で、デヴィッドととても馬が合う人でした。

しかし、事実通りに仲がいいシーンが続くと、映画としていいものができません。ですから、ロン・オバーマンのキャラクターは、観客を飽きさせないようにするために、少し事実から離れたものに作りました。

(C)COPYRIGHT 2019 SALON BOWIE LIMITED,WILD WONDERLAND FILMS LLC

 

異父兄・テリーとジギー・スターダスト

――また映画で印象的だったのは、デヴィッド・ボウイと異父兄・テリーとの関係です。そこにスポットを当てた理由は何だったのでしょうか。

 

レンジ テリーはデヴィッド・ボウイに甚大なインパクトを与えたと思います。デヴィッドがまだ18歳のとき、テリーはひどい統合失調症を起こし、それは計り知れない影響を及ぼしました。家族の中に精神病患者がいるという事実が彼の精神を追いつめたのです。

「The Man Who Sold the World」で、デヴィッドが精神病の恐怖について歌ったのは、明らかにその影響でした。この作品は商業的には成功しなかったのですが、この経験からジギー・スターダストという別人格を作り、多重人格を演じることになるのです。ジギー・スターダストは、単なる工夫のひとつとして作り出されたものではなく、デヴィッドにとって必要なものとして作り出されたのです。

 

――テリーはデヴィッド・ボウイがジギーというキャラクターをステージで創造したことに甚大な影響を及ぼしているということですね。

 

レンジ テリーのストーリーには本当に心にジーンときて悲劇的な響きがあるのです。テリーが入院していた精神病院の人たちは、テリーが病棟で美しい声で歌っていたと言っています。テリーはどうもシナトラのような歌い方をしていたらしいです。実際に状況が少し違っていれば、テリーがスターになり、デヴィッドが精神病院に入院していただろうということを想像することは本当にたやすいことです。

 

――監督から見た「ジギー・スターダスト」発売当時のデビット・ボウイの印象は?

 

(C)COPYRIGHT 2019 SALON BOWIE LIMITED,WILD WONDERLAND FILMS LLC

 

レンジ 本当に粉骨砕身頑張ったという印象です。というのも、それまで16のシングルで失敗して、コンセプトとしてのジギー・スターダストを思いついき、架空のロックの神様を創造し、その妄想を現実に変換するジギーを演じることができることに気づいた。

ジギー・スターダストがアイコンとして、分身としてこれほどまでに指示された理由は、私からみると、それが単なる軽い気持ちで創造されたのではなく、本当に強い必要性から創造されたからです。今日、レディー・ガガであれ、誰であれ、ほとんどのメジャーなミュージシャンは、ステージ上のキャラクターを持っていますが、当時、架空のキャラクターになってインタビューを受け、そのバンドの他のメンバーに対してもそのキャラクターのように話すのは、非常に大胆なやり方だったはずです。

 

ジョニー・フリン起用の理由

(C)COPYRIGHT 2019 SALON BOWIE LIMITED,WILD WONDERLAND FILMS LLC

 

――ジョニー・フリンとはどういう流れでデヴィッド・ボウイ役にしたのでしょうか。

 

レンジ デヴィッド・ボウイ役ができるミュージシャンを見つけることは私にとって本当に重要でした。デヴィッドの歌を口パクできるというだけではだめで、本当に歌える人、空席がある会場で歌うことになるツアーに出るミュージシャンとしての経験、そして感情的なつながりを実際に持てる人を見つけたかったのです。駆け出しのミュージシャンが覚える不安を表現できる人です。ジョニーはミュージシャンでもあるのでそういう経験があります。それだけではなく、私は俳優としてミュージシャンとしてのジョニーの仕事に敬意を持っていました。

ジョニーとはニューヨークで会って、彼に演じてほしいデヴィッド・ボウイ役のことを話したら、彼はわくわくしていましたが、同時にいささか怖がっていました。デヴィッド・ボウイのようなアイコンを演じることは明らかにリスキーだからです。でも、実際に彼がかつらやコンタクトレンズ、歯をつけての動きを試してみると、ジョニーが本当に人をワクワクさせることができると確信したのです。

 

――ジョニーはデヴィッド・ボウイ好きとのことですが、デヴィッド好きのエピソードをお教えください。

 

レンジ 彼の衣装などが展示されているDAVID BOWIE IS(デヴィッド・ボウイ大回顧展)にも行ったようですし、デヴィッド・ボウイが当時アメリカツアーに持っていったた12弦ギターでデヴィッドの曲を弾くのも大好きだそうです。

 

――他の俳優もうまく見つけましたね。

 

レンジ 最初からマーク・マロンはロン・オバーマン役として、ジェナ・マローンはアンジー・ボウイ(デヴィッド・ボウイ妻)役として素晴らしい俳優だと思っていたので、夢のようなキャストと一緒に映画を作ることができて、本当に私は恵まれていますし、いい経験をしました。映画を作るのに、最終的に自分が望む3人の俳優と仕事ができるというのは、この業界では非常に稀なことです。そういう意味では私はとてもラッキーでした。

 

――必ず撮影現場などに必ず持っていく、こだわりのものはありますか?

 

レンジ 現場に必ず持っていくのはライカQ2というデジタルカメラですね。写真を撮るのは大好きで、私のお守りと言ってもいいと思います。フィルムカメラも今でも好きでニコンのF3、F5をいまでも持っています。

 

――ちなみに、今はどこからZOOMをやっているのですか?火星ですか?地球のどこかですか?

 

レンジ イギリスのウェールズのど真ん中にいます。普段はロンドンに住んでいますが、たまたま今はウェールズにいます。自分が育ったところで、海辺のすぐ近くです。ですから火星からはかなり離れています(笑)

 

――次の映画にすでに取り組んでいますか?

 

レンジ もちろんです。スリラーで、ヨルダンやギリシャで撮影できたらいいと思っています。

 

【INFORMATION】

スターダスト

10月8日(金)より、TOHOシネマズシャンテほか全国公開

監督:ガブリエル・レンジ
プロデューサー:ポール・ヴァン・カーター、ニック・タウシグ、マット・コード
脚本:クリストファー・ベル、ガブリエル・レンジ
CAST:ジョニー・フリン/ジェナ・マローン/デレク・モラン/アーロン・プール/マーク・マロン
配給:リージェンツ

音楽史にその名を刻む偉大なアイコン《デヴィッド・ボウイ》。映画『スターダスト』はアルバム「ジギー・スターダスト」(1972)を発表する前年、若き日のデヴィッド・ボウイを描いた“ジギー・スターダスト”誕生の物語。