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2021/11/19 20:01

仲村トオルインタビュー「20代のときに経験した、舘ひろしさんと柴田恭兵さんのかっこいい生き様の影響が大きい」

11月12日より公開した映画『愛のまなざしを』。本作は、これまでカンヌ国際映画祭の受賞作品『UNloved』や『接吻』などで狂気とも言える男女の愛憎を描いてきた鬼才・万田邦敏監督が、仲村トオルさんと三度目のタッグを組んだ話題作。最愛の妻の死をきっかけに心に傷を抱えた男の行き着く先とは……。仲村さんが心酔する万田監督の演出術をはじめ、この作品に散りばめられた魅力についてのお話を伺う中で、現在多忙な毎日を過ごす仲村さんの気分転換の話から、実は20代から同じ車に乗っているという仲村さんは “あぶない”大先輩からの助言に影響されたという話までオフなお話もたっぷり伺いました。

(撮影:映美/執筆:倉田モトキ)

仲村トオル●なかむら・とおる…1965年9月5日生まれ。1985年、映画『ビー・バップ・ハイスクール』で俳優のキャリアをスタートし、数多くの新人賞を受賞。以降『あぶない刑事』シリーズ、『チーム・バチスタ』シリーズなど数々の映像作品、『NODA・MAP エッグ』『KERA・MAP グッドバイ』などの演劇作品に出演。2021年も『トッカイ』(WOWOW)、『ネメシス』(日本テレビ系)、『八月は夜のバッティングセンターで。』(テレビ東京系)など話題のドラマに次々と出演し、現在、『日本沈没-希望のひと-』(TBS系)が放送中。オフィシャルHP

 

【仲村トオルさん撮りおろしカット】

 

今作で印象的だったのが観終わったあとの余韻でした

 

──万田邦敏監督の作品に出演するのは『接吻』(2008年)以来となります。

 

仲村 『接吻』は大好きな作品でした。映画としての世界観の素晴らしさはもちろんですが、万田監督は演出が独特なんです。普通、お芝居をするときは役の内面が伝わるように演じたり、せりふにどのような意味があるのかを事前に考えたりして現場に行くのですが、監督の現場はそれらを必要としないんです。現場で言われることも、「この場面は右足から歩き出してください」とか、そういった動きについてのみで。初めてご一緒した『UNloved』(2001年)では面くらいましたが(笑)、でもその結果、見事な映画が出来上がった。ですから、今回も声をかけていただいたときは、また、万田監督の現場を体験できるという喜びがありました。

 

──仲村さんは何度も経験されているので心構えがあるかと思いますが、初めて参加される方は驚くでしょうね。

 

仲村 今回共演した斎藤工くんは、多分少しびっくりしてました。現場でも話していたのですが、僕らの公園での会話のシーンは、まるで振付を教えられ、そのとおりに踊っているかのような感覚でした。他の現場ではなかなか経験できないことです。

 

──そういった演出方法だと、事前に役作りもされないんですか?

 

仲村 せりふを覚えるために台本を読みますから、その際に“ここはこういう演技にしたほうがいいかな”と、ふと想像することはあります。でも、それを持って現場に行くと邪魔になるので(笑)、いつもそのイメージは家や車の中に置いて、まっさらな気持ちで現場に挑むんです。それがすごく新鮮で、楽しいんですけどね。

──映画を拝見したところ、せりふの言い方も無機質といいますか、あえて抑揚が出ないように表現されている印象がありました。

 

仲村 それも万田監督の演出です。『UNloved』のときは徹底的に言われましたから。まさしく今おっしゃったように、「せりふに抑揚はいりません」「低く、強く、死ぬ気で」って。ただ、『接吻』では少し、そのストライク・ゾーンのようなものが広がって、今回の撮影では『UNloved』のときほどは言われなかった気がします。もしかしたらそれは、僕の中に“万田監督の現場は棒読みで”という先入観が出来上がっていて、無意識にそう表現していたからかもしれませんけど(笑)。

 

──聞けば聞くほど、不思議で面白い演出ですね。でも、そうやってあえて登場人物たちの感情を消すような演出をつけるのは、観る側に自由な解釈をしてもらいという目的があるのかもしれませんね。

 

仲村 それもあると思います。万田監督の演出は、具体的な解釈を想起させるようなものをできるだけ排除しているように感じますし。ただ、なぜなのかの説明もしてくださらないので、実際はどうか分かりませんけど(笑)。そう言えば、今回の作品の中に、僕が演じた貴志が亡き妻(薫)の亡霊と対話をする場面があるのですが、映画が完成したあとで監督が、「あのシーン、実は貴志の自問自答だということが伝わらなかったらどうしよう……」と心配されていたんです。僕は出来上がった作品を観て、自分の中の妻との会話と感じたので「そこはしっかり伝わっているはずですよ」とお答えしたのを覚えています。

 

──まさしく同じ解釈でした。

 

仲村 あ〜、よかったす! それ、今度監督にお伝えしておきます(笑)。

 

──(笑)。また、現場でせりふや感情の動きなどの説明がないとなると、完成した映像を観て“こういうことだったのか!”と驚かれることも多いのではないでしょうか。

 

仲村 そうですね。むしろ、そのほうがはるかに多いです。特に今作で印象的だったのが、観終わったあとの余韻でした。最初にシナリオを読んだときは怖い結末に感じていたんです。でも、映画を観たあとは、貴志がいろんな呪縛から解放されたという、ハッピーエンドに思えました。中でも、ラストで貴志がふと自分の肩を触るシーンは、彼が薫の亡霊から解き放たれたことを意味しているように僕は感じたんですね。でも、現場で撮影をしていたときは、その説明も監督からされていなかったんです。ただ、「肩を手で触れてみてください」と言われただけで。それに、そのときはいろんなパターンの動きも撮っていたので、こうして肩に触れるカットが採用されていたのを観て、ようやく僕の中で、この映画の物語がハッピーエンドとして最後までつながったような気がしました。

 

──では、その貴志役についてもお聞きしたいのですが、貴志は妻の死を自分のせいだと思い込んでいる精神科医で、撮影前のコメントでは「難しい役になると感じた」とおっしゃっていました。実際の撮影はいかがでしたか?

 

仲村 彼は精神科医なのに、妻を亡くしたことで自分自身も精神を患っています。彼が抱える深い心の傷や、自分の手で妻を助けられなかったという敗北感は、想像を超えていて。どう表現していけばいいのか撮影あれこれ考えました。ただ、自分の想像が追いつかなくても、万田監督の演出を信じて挑めば、しっかりと表現してくださるはず。そういう思いで臨んだので、プレッシャーを感じることなく演じられました。

 

──彼には患者の心の闇は救えても、自分が抱える悩みは治すことができない。そこに切なさを感じました。

 

仲村 きっと、彼が客観的に診ることができるのは他人だけなんですよね。それにもしかすると、患者の闇を少しずつ小さく薄くしていく作業というのは、一見取り除いてあげているようで、自分が吸い取っているのかもしれない。ウイルスのようなものではないはずなのに、心の病は感染ってしまう。そこは演じているときに強く感じました。

 

──また、今作では注目の若手俳優、藤原大祐さんとも親子役で共演しています。

 

仲村 初めて会ったときから聡明な少年だなと思いました。当時はまだあまり演技の経験がなく、彼にとっては初めての映画作品だったんです。でも、監督に要求されたちょっと不自然な動きを軽くこなし、しかもそこに、自分から新しい要素を足していったりして。そうしたことが結構、撮影の早い段階からあったので、“すごいな、この子は!”と思ったのを覚えています。ただ、プロフィールを見たら、あまりにも素晴らしい経歴の持ち主で。きっと同世代だったら嫉妬してしまって、嫌いになっていたかもしれないほどだと思いました(笑)。この映画の中では、彼が演じた貴志の息子と同級生の女の子の関係性だけは、唯一いい方向性に進んでいく。僕も作品を見ながら救われた気持ちになりましたので、ぜひそちらにも注目していただければと思います。

 

もしかしたら、仕事でしか熱くなれない体質なのかもしれない

 

──仲村さんは映画、ドラマ、そして舞台と多忙の日々を送っていらっしゃると思いますが、気分転換なども兼ねて何か大きなものを購入するようなことってありますか?

 

仲村 衝動買いはほとんどしないですね。でも、買い物は、その過程も含めて好きです。それこそGet Naviとか通販サイトのレビューなどを細かく見て、散々悩んでから購入します(笑)。最近だと、先日、『ニノさん』(日本テレビ系/11月21日放送回)に出演した際に薦められた、スマホを充電する太陽光パネルのバッテリーを購入しました。タイプの異なる4つのUSBがついていて、同時にいくつも充電できるという優れもので。折りたたみ式なので持ち運びもできますし、急に停電になったときに便利だなと思って買ったんです。でも、緊急時用どころか、すでに家で広げて使ってますけどね(笑)。

 

──もともと、カタログや商品レビューを見るのがお好きなんですか?

 

仲村 ええ、20代のころは新しいもの好きでしたし。バブルの時代だったこともあって、新製品が出ると買い替えるほうでしたね。

 

──特にどういったものを買われていたのでしょう?

 

仲村 車です。一年も経たないうちに別の車に乗り換えたこともありました。でも、しばらくしたら落ち着いて。今でも25歳のときに買ったジャガー XJSに30年間ずっと乗り続けています。純粋に今でもかっこいいと感じますし、飽きないですし、それに、この車種を超えるほど魅かれる車が僕の中でなかなか現れないというのも、乗り続けている理由のひとつですね。

 

──30年はすごいです。ちなみに、25歳のときに高級車を買おうと思われたきっかけはなんだったんですか?

 

仲村 当時からいちばん好きな車でしたし、大先輩が乗っていらっしゃったのを見て「かっこいいなぁ」と思って。また、先ほどもお話ししたように、当時はまだバブル景気の名残りが十分あった時代で、僕と同じ20代の役者でポルシェやメルセデス、なかにはフェラーリに乗っている人もいました。それで僕も、思い切って買ってしまおうかなと思って。

 

──そこからは一気に購入へ?

 

仲村 いえ、かなり逡巡しました(笑)。初めての外車でしたし、自分で自分に“お前にはまだ早い。いつか自分でよくやったと思える仕事が出来たときのご褒美までとっておけ”と、言い聞かせるんですが、もう1人の自分が、当時精神的にもすごく疲れていたこともあって、“似合わないくらい背伸びした車を買って、気分を変えるのも大事だと思うよ”と背中を押してきて(笑)。

 

──悩ましいですね(笑)。高い買い物ですから、簡単に決断できるものでもないですし。

 

仲村 ええ。それで当時、僕のことをよく知ってくださっている助監督の方に相談したら、「俺は外車より日本車に乗ってるお前のほうが好きだな」と言われて、やっぱり早いかと思ったりもしたんです(笑)。でも、最終的に決め手となったのが、大先輩である舘ひろしさんの言葉でした。「俺は若いころから『お前は生意気だ』って言われることばかりしてきたし、欲しいと思ったものは『お前にはまだ早い』と言われようが全部買ってきた。だから貯金が全然ないんだ」って(笑)。「それに、ずーっと背伸びをしていれば、いつかそれぐらいの身の丈のヤツだと思ってもらえる日がくるよ」ともおっしゃって。その言葉で、「よし、買おう!」と決めたんです。

 

──いいお話ですね。でもその後、30年間も同じ車を乗り続けているというのも素敵です。

 

仲村 実はそれも、もうおひとかたの大先輩である柴田恭兵さんの影響なんです。恭兵さんも20代のときにメルセデスのSLを購入されて、たぶん40年以上は乗られていたんじゃないかな。初めてお会いしたときにはすでに乗っていらっしゃって。ご自身で運転して現場に登場したのを見て、「かっこいい〜!」と思って(笑)。それに感化されたというのもすごくあると思います。

 

──お話しに出てくるエピソードがどれもかっこいいです! では、今、車以外の趣味は何かお持ちですか?

 

仲村 いえ、ないんです。村上龍さんの『無趣味のすすめ』という本に書いてあった、“本当の達成感は仕事の中でしか得られない”という言葉が僕の中でしっくりきていて。たしかに20代のころは、野球やゴルフもしていました。でも、それなりに楽しいと思えても、やはり仕事での緊張を乗り越えた先にある達成感や解放感と比べると、そこまでじゃない。なので長続きしないんですよ、多分。もしかしたら、仕事でしか熱くなれない体質なのかもしれないです。

 

11月20日(土)に、仲村トオルさんが登壇する映画『愛のまなざしを』舞台挨拶が大阪で決定!

テアトル梅田
1回目:9:45 の回上映後
2回目:12:15の回上映前
登壇:仲村トオル、万田監督(予定)

イオンシネマ シアタス心斎橋
1回目:12:30の回上映後2回目:15:10の回上映前登壇:仲村トオル(予定)

 

【「愛のまざしを」シーン写真】

 

愛のまなざしを

現在、全国順次公開中

 

出演:仲村トオル 杉野希妃 斎藤 工 中村ゆり 藤原大祐
監督:万田邦敏
脚本:万田珠実 万田邦敏
配給:イオンエンターテイメント 朝日新聞社 和エンタテインメント
公式サイト https://aimana-movie.com/

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