成田凌さんと前田敦子さんの共演で描く、異世界アドベンチャー『コンビニエンス・ストーリー』が8月5日(金)より全国公開。本作の監督は、ドラマ『時効警察』シリーズや『大怪獣のあとしまつ』などでシュールな笑いを送り出してきた三木 聡監督。三木監督の新境地ともいえる本作での「仕掛けられた謎」について伺いました。
自分の中では、ありがちな日本映画の雰囲気にしたくない気持ちがあった
──本作の企画として、映画評論家のマーク・シリングさんの名がクレジットされています。どういった経緯で映画化に結び付いたのでしょうか?
三木 2008年に、僕の映画『転々』がイタリアの「ウディネ・ファーイースト映画祭」で上映されたんです。そのときに、映画評論家で、映画祭で日本映画を紹介するコーディネーターもやっているマークさんと知り合いました。それを機に交流を深めていったんですが、2017年頃に突然、彼からコンビニが異界の入り口になる簡単なシノプシスが送られてきたんです。それがとても興味深い話だったこともあり、コロナ禍で『大怪獣のあとしまつ』の撮影がストップしていたときに、自分なりに脚本化していきました。
──“脚本を書けない脚本家が悪夢を見る”という展開に関しては、“三木監督版『バートン・フィンク』”のような雰囲気も感じました。
三木 僕が一番意識した1950年代のフィルムノワールという意味では、ビリー・ワイルダー監督の『サンセット大通り』がすべての基ですよね。そのハードボイルドなテイストをロバート・アルトマンが撮れば『ロング・グッドバイ』になるし、リドリー・スコットが撮れば『ブレードランナー』に、コーエン兄弟が撮れば『バートン・フィンク』になる。あと、デヴィッド・リンチが撮れば『マルホランド・ドライブ』ですかね。だから、僕なりのフィルムノワールということで、やりたい放題やらせてもらいました。
──前半では西部劇のような雰囲気を醸し出すなか、後半では温泉街の雰囲気となり、カオスな世界観が展開されていきます。
三木 いわゆる日本的なコンビニが繋がっていく山奥のコンビニに関しては、あえてウィリアム・エグルストンが撮る写真のような「ニュー・カラー」な感じの雑貨店の雰囲気に変えました。それで壁紙の柄にもこだわるなか、どこか『バグダッド・カフェ』のようなアメリカ中西部っぽさが出せればいいと思いました。温泉というキーワードに関しては、最初のプロットからあったんです。外国人から見た日本における不思議な空間なんでしょうね(笑)。だから、鈴木清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』や寺山修司監督の『田園に死す』みたいに、急に日本のテイストが強まる違和感を出してみました。あと、つげ義春の「ねじ式」がモデルにした台湾的なイメージも入っています。
成田くんと前田さんの絶妙なバランスも素晴らしかったです
──主人公の脚本家・加藤に、成田凌さんをキャスティングされた理由は?
三木『時効警察はじめました』の最終回に二階堂ふみさんがゲストで出てくれたときに、「この間、成田凌くんと会ったとき、三木監督の『図鑑に載ってない虫』の話で盛り上がったんですよ!」と言っていて……。その話を、この映画のキャスティングを進めている際に、ふと思い出して、彼みたいな人間が被害者になったら面白いなと思ったのがきっかけです。実際、人妻・惠子に対する彼の献身的な表現は、とても面白く見えているかなと思います。
──その一方で、加藤を惑わすファムファタールな人妻・惠子に前田敦子さんをキャスティングされた理由は?
三木「前田さんなら、ファムファタールな恵子を巧く演じてくれるだろう」なイメージでキャスティングしたんですが、実際に彼女を撮ってみたら予想を超えてスゴかったですね。台本を読み込んでくれたのか、非常に的確に演じてくれた。異様な迫力みたいなものが出ていて、日本の女優としては規格外といえる存在じゃないかな? 伊達にグループのセンターやってなかったと思いますね! 成田くんとの絶妙なバランスも素晴らしかったです。
ストーリーを追っていくだけの普通の映画とは違う体験をしてもらいたい
──劇中、意味深なキーワードが登場します。まずは、片山友希さん演じる加藤の恋人の名前ですが、なぜ「ジグザグ」なんですか?
三木 当初は異世界に来てしまった加藤と現実を結びつけて、行き来する役割としてのジグザグだと思ってもらっていいと思っていたんです。でも、そのうち、その意味も崩壊させようと思って、現実世界に生きているのに、なぜかボケボケに映したりして、ナンセンスで、サスペンスなホラー要素も入れているというか。あえて、回答みたいなものは出していません。
──そのほか、コンビニの名称である「リソーマート」や飼い犬の名前である「ケルベロス」、あと「江場土事件」あたりが気になります。
三木「リソーマート」はコンビニの何でも揃っている感は、誰かにとっての”理想”郷であることを意味することで付けました。「ケルベロス」はギリシャ神話の犬の怪物ですが、どこか日本の神話や民話との類似性も感じたので、それを脚本に織り交ぜてみました。「江場土」に関しては、千葉県いすみ市に実際にある地名なんです。アイヌ系の地名に近い感じがとても印象に残っていて、物語のカギとなる事件の名称に使いました。
──本作を観るお客さんには、あえてどのように観てほしいと思いますか?
三木 自分の中では、ありがちな日本映画の雰囲気にしたくない気持ちもありましたし、日本の方には、ストーリーを追っていくだけの普通の映画とは違う体験をしてもらいたいですね。その前に、カナダの「ファンタジア国際映画祭」でワールドプレミアがあるので、海外の方にどのように見てもらえるかも楽しみです。とにかく、お客さんがいろいろイメージを膨らまして、自分なりの意味を見つけるような体験をしてくれたら嬉しいですね。
自分で溶接する映画監督なんていないような気がしますね(笑)
──GetNaviwebということでモノやコトについてもお話いただいております。三木監督が仕事現場に必ず持っていくモノがあれば教えてください。
三木 基本的にはiPad。絵コンテも、スタッフ表も、スケジュールも、簡単なメモまで入っていますから。あと、ヘッドフォンの鬱陶しさもあって、『大怪獣のあとしまつ』のときから使っているのが、BOSEのオーディオサングラス(サングラス型スピーカー)。録音部が録る現場の音をFMラジオ経由で、Bluetoothに飛ばしてもらっています。ちなみに、レンズに関しては度付きに変えています。
──ほかに、ハマっているモノやグッズがあれば教えてください。
三木 バイクですね。普段はハーレーダビッドソンに乗っているんですが、三拍子が出るエボリューション(エンジン)の最終型。99年型のソフテール。それをイジるときは、YOTUKAの半自動溶接機を使っています。自分で溶接する映画監督なんていないような気がしますね(笑)。
【三木 聡監督撮りおろし写真】
コンビニエンス・ストーリー
8月5日(金)よりテアトル新宿ほか全国公開
【映画「コンビニエンス・ストーリー」よりシーン写真】
(STAFF&CAST)
監督・脚本:三木 聡
企画:マーク・シリング
出演:成田 凌、前田敦子、六角精児、片山友希、岩松 了、渋川清彦、ふせえり、松浦祐也、BIGZAM、藤間爽子、小田ゆりえ、影山 徹、シャラ ラジマ
(STORY)
スランプ中の売れない脚本家、加藤(成田)は、ある日、恋人ジグザグ(片山)の飼い犬“ケルベロス”に執筆中の脚本を消され、腹立ちまぎれに山奥に捨ててしまう。後味の悪さから探しに戻るが、レンタカーが突然故障して立ち往生。霧の中のたたずむコンビニ「リソーマート」で働く妖艶な人妻・惠子(前田)に助けられ、彼女の夫でコンビニオーナー南雲(六角)の家に泊めてもらう。しかし、惠子の誘惑、消えたトラック、鳴り響くクラシック音楽、凄惨な殺人事件、死者の魂が集う温泉町……加藤はすでに現世から切り離された異世界にはまり込んだことに気づいていなかった。
(C)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会
撮影/徳永 徹 取材・文/くれい響