日本のTikTokerの中でもいち早く世界に轟いたクリエイターといえば、マツダ家の日常にほかならない。メンバーの関ミナティさんが試行錯誤の末にたどり着いた、ブルーオーシャンで見た、絶景とは。さらに、動画制作の根源でもあるといえる、知られざる少年時代の“一人だけの遊び”を明かしてくれた。
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マツダ家の日常 公式TikTok @matsudake
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すぐ海外に届くと思いきや「あれ? これもダメ?」
──至るところがブルーオーシャンといいますか、釣り糸を垂らせば必ず何かが釣れる状態のように見えますが、試行錯誤していた時期はなかったんでしょうか。
関 ありましたよ。ラップ期の2021年頭ですね。ラップがバズって日本の多くの方に見てもらえたものの、興奮しきれない自分もいました。それは、世界に響かせることができなかったからです。
──その頃から海外を視野に入れていたんですね。
関 はい、海外に届けたいと思いいろんな動画を撮りましたが、日本では再生されるものの海外ではまったくで……。で、自分たちでもおもしろいと思えてたどり着いたのが、非言語の「No edit動画」でした。スゴ技をマネする動画があるじゃないですか。僕らはそれを「編集なし」と謳って、めちゃくちゃ編集してスゴ技に見せるという動画シリーズで、それが初めて海外まで届き、ハマったんです。そこに至るまで、かなり試行錯誤しています。
──たしかに、ラップから「No edit」の合間にいろいろやっていらっしゃいますね。といっても、期間的には短いと思うんですが。
関 いやいや、僕らの中ではめちゃくちゃ長かったんですよ。すぐに海外に届けられると思っていたのに、「あれ? コレもダメ?」みたいな感じで。
──「No edit」はどこからヒントを得たんですか?
関 当時は、スゴ技をやるのが世界的なトレンドで、「スゴ技動画を流した後に、自分も挑戦して成功させる」という動画がすごく流行っていて。で、その次に「スゴ技動画を流した後に、自分も挑戦したけど、失敗する」という動画が流行りました。僕らは、この大きな2つの流れを掛け合わせて「スゴ技に失敗するけど、編集して成功したように見せる」。しかも、「編集していません」というタイトルで。
このシリーズの1本目を投稿したとき、日本の人はツッコんでくれると予想していました。「いや、編集してるじゃん!」と。それはそのとおりになった上、予想外なことに、海外の人も同じようにツッコんでくれたんです。英語やタイ語など、いろんな言語でツッコんでくれたり、「彼は一切編集してないな」とノッてくれる人もいたり、国を越えてコメント欄で遊んでくれていたんです。このコメント欄を見て、「あ、これはイケるな」と確信してシリーズ化しました。
──見事に海外まで届き、ちょっと有言実行すぎませんか?
関 いやいや(笑)。楽しくやらせてもらっていただけです。
中毒性の高い“バズり汁”を有効活用
──日本だけじゃ満足できない体になってしまったのは、なぜなんでしょう。やはり、一度でも“バズり”を体験したらそうなってしまうのでしょうか。
関 まさにそうです。僕らがTikTokを始めた頃は、『ポケットからきゅんです!』という曲が日本でとんでもないバズり方をしていました。「みんなこれをやっていて、すごいなあ」と眺めていた場所に、自分たちが来てしまった。でも、そんなすごい場所から日本を眺めると、狭かったんです。世界の60億、70億という規模の場所でバズったらどうなるんだろう、と。目指したいと思いました。
──世界を見据えるスピード感が、TikTokならではですね。
関 10年前に「海外で有名になる」のは、夢物語だったと思います。でも今は、誰でもすぐに有名になる可能性を秘めてる。見据えないのはもったいないと思います。僕たちのYouTube『M2DK.マツダ家の日常』は、1か月の再生回数が5億回とかなんですが、少し前だと「毎月5億再生」ってありえなかったと思います。でも今は違う、現実的な数字になったんです。
──5億……。“バズり”を知る前と知った後では、物の見え方や意識に変化はありますか?
関 明確に変化はあります。バズると、“バズり汁”が頭から出るんですよ。
──バズり汁! 初めて聞くワードです(笑)。
関 これはバズり経験がある“クリエイターあるある”だと思いますよ。バズると、本当にこれまで味わったことのない感覚というか……これまで刺激が入らなかった脳のある部分に、ドバッと刺激が入る感覚があるんですよ。それを“バズり汁”と呼んでいるんですけど。バズり汁が出ると、いろんなことが思いつくようになるんですよ。「こんな動画を撮ったらうまくいくんじゃないか」「こんな企画もできそうだ」と、次々と沸いてくる。そしてそれが、ことごとくうまくいく。
──バズり汁……すごい……。
関 ただマイナス面もあります。とにかく中毒性が強く、「とにかくまたあのバズり汁を出したいッッ!」と思ってしまうんです。その点、僕らは自分たちのアカウントだけではなく、各クライアントさんのアカウントもやらせてもらっているので、淀みなく全てにフルパワーで頭を使うことができているし、どのアカウントがバズってもめっちゃうれしいんです。
──常にバズり汁が出っぱなしなんですね。
関 今も出ています。
──出っぱなしで体に弊害はないんでしょうか。
関 今のところないですねえ。いいことに使おうとすると疲れないですし。しんどくなることもあるんですよ。「マツダ家を最大化するためにどうすればいいか」という方向に頭を使おうとすると、ダメですね。途端に、「数字が落ちたらヤバい」という焦燥感に苛まされてしまうんです。今のように「誰かを支援できないか」「誰かをバズらせることはできないか」という考え方をすると、良質なパワーになるんです。これは3年前に気づきました。
映画「激突!」に感銘を受け、人形遊びを追求した少年期
──気付く前は、しんどくなった瞬間もあったんでしょうか。
関 「このままいくと、しんどくなりそうだな」と思ったときがあったんです。物理的に自分たちができることは限られているけど、「あれもしたい、これもしたい」という常に求め続ける欲求が肥大化して、さばききれなくなりフラストレーションが溜まりそうだな、と。
──それを今は、各クライアントに分散して注ぐことができるようになった。
関 はい、そういうことができるなと、気付いたんです。
──考え方がフレキシブルですし、根っからクリエイター気質なのかなと感じました。学生時代から、「他の子どもと違うな」など感じたことはありましたか?
関 それは自覚があったかもしれません。僕は幼少期から自分1人の部屋があり、子ども向けではない映画を1人で見たりしていました。
──例えばどんな映画ですか?
関 覚えているのは、幼稚園の頃にスティーヴン・スピルバーグの「激突!」を見たこととか。
──主人公が乗る車が、謎のタンクローリーに追いかけ回される映画ですね。
関 そうですそうです! 父親から「面白いから一緒に観よう」と誘われて見たのが、衝撃的に面白くて。それまで僕が見ていたアニメは、分かりやすい悪者と味方がいて、最後に悪者が「やられた~」と言うんですが、「激突!」は敵の顔が見えないんですよ。だから敵の顔を頭の中で想像するんです。自分が思い描く、最も怖いキャラクターとして想像して。そんなふうに自由度があることが革命的でした。「こんなに面白いものを作れる人がいるんだ!」と衝撃を受けたことを今でも覚えています。それから、映画や物語にハマるようになりました。
──当時からクリエイティブの素養があったんですね。
関 いや、そんなにかっこいいものじゃないですよ。僕は部屋で、ずっと1人遊びをしていたんです。高校生くらいまで、マジで人形で遊んでいたんですよ。その人形遊びの題材探しのために映画を見ていたほどです。
──人形遊びというのは、ストップモーションを撮ったり、ということですか?
関 いや、普通に、こうやって持って遊ぶだけです。
──普通に!
関 頭の中にはストーリーが山ほどあり、部屋には数えきれいない種類のフィギュアがブワーーッと置いてあって。「このキャラとこのキャラを使うときは、こういうストーリーで」とか、それぞれに物語があるんですよ。それをその時々の気分でやったり、話を作ったりしていました。
TikTokがなかったら、3人でコテージを作っていた
──楽しすぎる放課後じゃないですか!
関 ちゃんと声を出しながらやるし、自分で作った話で号泣したりとかもありました(笑)。
──最高ですね(笑)。お友だちやご兄弟を巻き込んだりはなかったんですか?
関 そこはやっぱり恥ずかしいので、ずっと隠していました。
──親御さんは、部屋にフィギュアがたくさんあるのは、コレクション趣味だと思っていたんですかね。
関 いや、あることすら知らなかったと思います。1つの隠しボックスに詰め込んで、クローゼットのめっちゃ奥に入れていたので。
──般的な年頃の男子は、セクシーグッズを隠すものですよね(笑)。
関 僕は大量のフィギュアを隠していました(笑)。
──想像してストーリーを作ることが習慣化していたんですね。部活で、演劇部で脚本を書いたりなどはしなかったんですか。
関 全然ないです。本当に1人の遊びでした。
──初期メンバーの2人は、そういった趣味嗜好を共有できる友人なんでしょうか。
関 はっきり言ったことはないですが、「関はそういうのが得意なんやろうな」というのは知っています。
──今、そのバックボーンが動画制作で昇華していると考えると、TikTokがなかったらもったいないことになっていましたよね。
関 TikTokがなかったら……それを想像すると、僕たち3人はキャンプやコテージ宿泊にハマっていたので、コテージ作りに振り切っていたんだろうなと思います。
──コテージ作りというのは、DIYということですか?
関 いえ、仕組みづくり、ですかね。「こういうコテージがあったら泊まりたい」というコテージを作り、それを全国、世界に展開させるにはどうすればいいのか、という事業をやっていたと思います。
──「多くの人に楽しんでもらいたい」という根底は、今と同じですね。
関 そうなんです。楽しんでもらいたいし、自分たちも楽しみたい。常にそれが一番です。
──そんな初期メンバー3人から、今は「マツダ家」のメンバーは何人いらっしゃいますか?
関 40人ほどですね(※2023年取材当時)
──志同じ仲間が集まったんですね。
関 振り切ったことをやっているからこそ、振り切っている人たちが集まってくれました。
──皆さんの動画作りには、プロ意識が働いているように思います。プロとしてのこだわりはどういったところにありますか?
関 動画を作る瞬間だけ頑張っても意味がないと思っていまして、動画のこと、広告のこと、クリエイターたちが発展していくにはどうしたらいいのか……ということを常に生活の中心に置いていられるかどうかが、プロ意識なのかなと思います。
TikTok広告代理店のパイオニアに
──最後にお聞きしたいのですが、今後、Tik Tokはどうなっていくと思いますか?
関 これからも広がり続けていくだろうし「TikTokで稼いでいます」という人がめっちゃ増えるだろうなと思います。今はまだそこまでできている人は少ないですが、TikTokはビジネスの可能性が無限にあります。僕たちの会社も、そんなクリエイターさんのお手伝いをさせてもらえたらと思っています。
──マツダ家さんのコンサル業もさらに需要が高まりそうです。
関 昨年から大きな変化を実感したんですが、ナショナルクライアントと直接仕事をするようになりました。これは少し前のTikTokではなかったことらしくて。僕らがお手伝いすることで目に見えた成果があり、大きな企業と直接やらせてもらえる機会が増えました。
──コンサル業も、始めてすぐに軌道に乗ったんですか?
関 そうですね。最初は仕事にするつもりも全くなく、タダでやっていたんですよ。「なんか詳しいって聞いたんですけど、僕のアカウントってどうすればいいですか?」という相談にアドバイスをしたりとか。そうしたら「めっちゃ伸びました!」という報告をいただき。そういったことが続き、「これ、仕事にしたほうがいいんじゃないか?」と。でもその時点では、企業と一緒にやることは想像していなかったです。TikTokでコンサルができる人たちは、世界中探してもあまりいないと思います。
──パイオニア的存在ですよね。
関 で、昨年から「TikTokで広告」の流れがきて。その頃から僕らがやっているのが、「このクリエイターさんで、こういったPR動画を作る」という業務で。
──まさに広告代理店の仕事ですね。
関 そうです。そのクリエイターさんが普段投稿している動画よりも、僕らが一緒にやったPR動画のほうが伸びがいいというケースがめちゃくちゃ出てきている状態なので、今後もっと広がっていくと思います。
──もちろんその次の展開も考えていらっしゃって。
関 もちろんです。次はクリエイターさんの支援ですね。TikTokのクリエイターさんはマネタイズが難しいので、「マツダ家と組むことによって新しいビジネスができる」という展望をお見せできればと思います。
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撮影/佐賀章広 取材・文/有山千春 構成/BuzzTok NEWS Buzz Tok NEWS公式HP https://buzz-tok.com/