【西田宗千佳連載】電子ペーパーの利点と欠点とはなにか

ink_pen 2025/9/16
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【西田宗千佳連載】電子ペーパーの利点と欠点とはなにか
西田宗千佳
にしだむねちか
西田宗千佳

モバイル機器、PC、家電などに精通するフリージャーナリスト。取材記事を雑誌や新聞などに寄稿するほか、テレビ番組などの監修も手がける。ツイッターアカウントは@mnishi41。

Vol.153-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はAmazonの電子ペーパー端末「Kindle」のカラー化について考察。これまで向かないとされた電子ペーパーをカラー化する狙いとは何か。

 

今月の注目アイテム

Amazon

Kindle Colorsoft

3万9980円

↑16GBのストレージ、素早いページめくり、色調調節ライトや白黒を反転させる「ページの色」機能などを搭載。32GBのストレージと画面の明るさ自動調整機能を備えるシグニチャーエディション(4万4980円)も発売されている。

ディスプレイ技術といえば、液晶や有機ELを思い浮かべる人も多いだろう。一方で、電子書籍専用端末に使われることが多いのが「電子ペーパー」技術である。電子ペーパーとはいうものの、当然紙とはなんの関係もない。表示の特性が紙の印刷物に近い、という意味合いを持つ。

電子ペーパーを紙の印刷物に近づけるために重視されるのは、主に3点の要素だ。

ひとつは「反射型」であること。液晶にしろ有機ELにしろ、さらには過去のCRTにしろ、ディスプレイの大半はディスプレイから光が出て、それを我々が見る形式だ。一方で紙は、周囲の光を反射したものが目に入る。反射型ディスプレイは光を発せず、紙と同じように反射した光で表示を見る。だから、紙と同様に「光が目に入る」感じがなく、より見やすい印象になる。

もうひとつは「消費電力が低い」こと。発光するディスプレイはその分エネルギーを消費するが、反射型はエネルギー消費が減る。その分、バッテリーなどでも長く動作する。

3つ目は「表示が持続する」こと。液晶や有機ELは、電源を切ると表示が消える。しかし電子ペーパーの場合には、一旦表示されると、別の表示でリフレッシュされない限り、電源を切っても表示が続く。消費電力を下げるにも効果的だ。

こうした要素を実現する技術は複数あり、実は液晶でも似たことが可能だ。だが、特に現在“電子ペーパー”という場合には、E Ink社の使っている「マイクロカプセル」を使った方式を指す。

表が白、裏が黒になっている小さなカプセルが大量に並んでいて、そこに電気をかけることでカプセルの表裏が反転する。反射型であり、再度電気をかけなければ表示も変わらない。2000年代末には存在した技術で、歴史も意外と長い。電子書籍専用端末への利用がすぐに思い出されるが、消費電力の少なさから、店舗の値札やデジタルサイネージでの利用も多い。

課題ももちろんある。

1つは色だ。電子ペーパーは紙のように白黒のコントラストがはっきりしているわけでもなく、若干灰色っぽい色合いに見える。これはカラー版についても同様で、彩度の浅い表示になりやすい。E Ink社の電子ペーパー技術の特性と考えて良い。

表示の書き換えが遅いのも課題だ。本のようにページをめくるなら問題ないが、動画の表示には絶望的に向かないし、ウェブのようにスクロールさせるときも書き換えの遅さを感じる。過去にはページ送り時に残像のようなものが残ることもあったが、これはかなり改善された。

また、反射型であることは良し悪しもある。暗いところでは全く見えなくなってしまうのだ。そこで現在は、コントラスト向上と寝室などでの見やすさを考慮し、薄型のフロントライトを内蔵する場合が増えた。Kindleも、現在のものはフロントライト内蔵だ。

これらのことから、電子ペーパーは向き・不向きがはっきりしたディスプレイと言える。電子書籍専用端末は“向いた用途”のひとつだが、これまではカラー対応のデバイスは少なかったのが難点でもあった。

もっともメジャーな電子書籍端末であるKindleにカラー版が登場したことは、大きな転機とも言える。一方で、液晶のように鮮やかなカラー表示ではないので、それを良しとするか否かは、相当に好みが別れるだろう。

実のところ、カラーの電子ペーパーを採用したデバイスはKindleが初ではなく、むしろKindleは後発である。

Kindle以外のデバイスがどうなっているかは、次回のウェブ版で解説する。


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