Vol.154-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はGoogleの新たなスマホ「Pixel 10」の話題。AIを用いた機能を大幅に強化したというが、便利に使える点、そして他社スマホとの差を探る。
今月の注目アイテム
Google Pixel 10シリーズ
12万8900円~(Google Storeでの価格)

Googleは自社スマートフォンである「Pixel 10」シリーズのために、自社設計のプロセッサー「Tensor G」シリーズを使っている。今年のPixel 10シリーズでは「Tensor G5」になった。
Tensor Gシリーズはこれまで、製造パートナーがサムスンであり、設計もサムスンのExynosをベースにしている部分が多い……とされてきた。しかしTensor G5は、製造パートナーを台湾に本社を置く、半導体専業受託メーカーのTSMCに変更し、最新の3nmプロセスを使って作られていると見られている。
消費者から見れば、製造パートナーの変更はさほど大きな意味を持たない。プロセッサーそのものではなく、プロセッサーがもたらす結果である「処理能力」「消費電力」などが重要になってくる。
Tensor G5が複数の特徴を持っているが、もっとも大きいのは“消費電力の低減”だろう。「Tensor G4」まではサムスンで半導体を製造しており、サムスン開発の「4nmプロセス」が採用されていた。それがTensor G5からは、TSMCの3nmプロセスになる。
半導体の製造プロセスルールは「3nm」のような数字で表される。だが、実は各社基準がまちまちで、“サムスンの4nmがTSMCの3nmより1nm劣っている”という単純な話ではない。ただ実際の性能として、サムスンの4nmプロセスは、TSMCの3nmプロセスよりも、処理性能と消費電力の面で不利である。
サムスンも3nmプロセス導入にあたり、大幅な電力利用効率アップを図ろうとしたものの、生産性でも性能で、TSMCの3nmプロセスには敵わなかったようだ。今回は性能よりも生産量の安定の面でTSMCが有利であり、GoogleもTSMCで半導体を作るグループに入ることになった。特に生産安定性は、コスト低減以上に調達の安定につながる。Pixelの流通安定と利益率改善を目指すには重要な要素と言える。
現状、Appleの「Aシリーズ」はTSMCの3nmプロセスを使っている。多くのハイエンドスマホで採用されているQualcommの「Snapdragonシリーズ」も、さらにはMediaTekの「Dimensityシリーズ」も、ハイエンド製品はTSMCの3nmプロセスで生産されている。
ここにGoogleのTensor G5が加わることで、ハイエンドスマホ向けプロセッサーの多くがTSMCで作られる状況となっている。TSMCへの依存度は高まる傾向にあり、この状況は当面続くだろう。
同じところで生産するとプロセッサーの傾向は似てくる。だからこそ、その中でより良いスマホ用プロセッサーを作るには、プロセッサー自体の設計で差別化をする必要があるわけだ。
Googleはそこで、プロセッサーの処理性能と消費電力の最適化を「日常的なAI処理」に強くフォーカスしている。
それは具体的にどういうことなのか? それ以外の価値はどこにあるのか? その辺は次回のウェブ版で解説する。
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