【西田宗千佳連載】「Tensor G5」がTSMC製になった意外な理由とは?

ink_pen 2025/10/9
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【西田宗千佳連載】「Tensor G5」がTSMC製になった意外な理由とは?
西田宗千佳
にしだむねちか
西田宗千佳

モバイル機器、PC、家電などに精通するフリージャーナリスト。取材記事を雑誌や新聞などに寄稿するほか、テレビ番組などの監修も手がける。ツイッターアカウントは@mnishi41。

Vol.154-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はGoogleの新たなスマホ「Pixel 10」の話題。AIを用いた機能を大幅に強化したというが、便利に使える点、そして他社スマホとの差を探る。

 

今月の注目アイテム

Google

Google Pixel 10シリーズ

12万8900円~(Google Storeでの価格)

↑AI機能を強化したGoogleの「Pixel 10」シリーズ。

Googleは自社スマートフォンである「Pixel 10」シリーズのために、自社設計のプロセッサー「Tensor G」シリーズを使っている。今年のPixel 10シリーズでは「Tensor G5」になった。

Tensor Gシリーズはこれまで、製造パートナーがサムスンであり、設計もサムスンのExynosをベースにしている部分が多い……とされてきた。しかしTensor G5は、製造パートナーを台湾に本社を置く、半導体専業受託メーカーのTSMCに変更し、最新の3nmプロセスを使って作られていると見られている。

消費者から見れば、製造パートナーの変更はさほど大きな意味を持たない。プロセッサーそのものではなく、プロセッサーがもたらす結果である「処理能力」「消費電力」などが重要になってくる。

Tensor G5が複数の特徴を持っているが、もっとも大きいのは“消費電力の低減”だろう。「Tensor G4」まではサムスンで半導体を製造しており、サムスン開発の「4nmプロセス」が採用されていた。それがTensor G5からは、TSMCの3nmプロセスになる。

半導体の製造プロセスルールは「3nm」のような数字で表される。だが、実は各社基準がまちまちで、“サムスンの4nmがTSMCの3nmより1nm劣っている”という単純な話ではない。ただ実際の性能として、サムスンの4nmプロセスは、TSMCの3nmプロセスよりも、処理性能と消費電力の面で不利である。

サムスンも3nmプロセス導入にあたり、大幅な電力利用効率アップを図ろうとしたものの、生産性でも性能で、TSMCの3nmプロセスには敵わなかったようだ。今回は性能よりも生産量の安定の面でTSMCが有利であり、GoogleもTSMCで半導体を作るグループに入ることになった。特に生産安定性は、コスト低減以上に調達の安定につながる。Pixelの流通安定と利益率改善を目指すには重要な要素と言える。

現状、Appleの「Aシリーズ」はTSMCの3nmプロセスを使っている。多くのハイエンドスマホで採用されているQualcommの「Snapdragonシリーズ」も、さらにはMediaTekの「Dimensityシリーズ」も、ハイエンド製品はTSMCの3nmプロセスで生産されている。

ここにGoogleのTensor G5が加わることで、ハイエンドスマホ向けプロセッサーの多くがTSMCで作られる状況となっている。TSMCへの依存度は高まる傾向にあり、この状況は当面続くだろう。

同じところで生産するとプロセッサーの傾向は似てくる。だからこそ、その中でより良いスマホ用プロセッサーを作るには、プロセッサー自体の設計で差別化をする必要があるわけだ。

Googleはそこで、プロセッサーの処理性能と消費電力の最適化を「日常的なAI処理」に強くフォーカスしている。

それは具体的にどういうことなのか? それ以外の価値はどこにあるのか? その辺は次回のウェブ版で解説する。


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