Vol.153-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はAmazonの電子ペーパー端末「Kindle」のカラー化について考察。これまで向かないとされた電子ペーパーをカラー化する狙いとは何か。
今月の注目アイテム
Amazon
Kindle Colorsoft
3万9980円

他社は数年前からカラーの電子ペーパーを採用し始めていたにも関わらず、Amazonは最近になってようやくカラー版のKindleを発売した。
Amazonはその理由をコメントしていないが、予想はつく。
カラーの電子ペーパーは液晶や有機ELのように、鮮やかで忠実な発色が難しい。発売された「Kindle Colorsoft」も、“ソフトな発色”と言いつつ、実のところ色がかなり浅い。品質的にはベストと言い難く、この点がAmazonに二の足を踏ませていた可能性は高いだろう。液晶を使ったタブレットである「Fireタブレット」もあり、カラーを重視するならそちらでもいい。
一方で、Kindleのニーズも大きく変わってきている。それは、世界的に「子ども向けコンテンツ」と「カラー版コミック」のニーズが増えているためだ。
カラー版コミックの増加は、スマホ上で読まれるコミックが増えているからでもある。ただ、長時間読みたい層はKindleのカラー版を求めていた。近年、カラーのコミックは単価も高く、売上も伸びている。
子ども向けコンテンツについては、AmazonによるKidsプランの存在が大きい。サブスクによる読み放題サービスだが、この加入者が増えればAmazonにとっては有利になる。子ども向けの本は大人向けに比べカラーが多いので、カラー版Kindleとの相性が良い。
ここで問題になるのは、Fireタブレットとの棲み分けだ。前出のように、カラーの品質では液晶を使うFireタブレットの方が良い。しかし読書家はKindleを好むので、そこは選択肢がある方がプラスである……という考え方なのだろう。特に子ども向けについては、年齢層が低い場合Fireタブレットを推奨し、小学校高学年以上の「文字をたくさん読むべき年齢層」になったらKindleを、という狙いもあるようだ。
手書きメモ機能を備え、大画面の「Kindle Scribe」も、比較的ニッチな存在だが単価が高く、他社に流れるニーズをカバーする存在である。カラー版Kindleも同じように、隙間を埋める存在である。
Kindleについては販売量がどんどん増えるというより、安定的なファン向けの市場になっている部分がある。その中で単価を上げることを目指しつつ、子ども向けという新しい市場を開拓する、というのが全体戦略と考えられそうだ。
ただ、カラー版Kindleは、わずかであるがモノクロの表示品質がモノクロ専用製品より落ちている。その点を考えると、本当に文字ものの本だけを読むなら、カラー版よりモノクロ版をお勧めしたい。
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