Vol.155-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はメタのスマートグラスについて触れる。過去何度か登場しては普及せずに消えたスマートグラスが多いなか、メタの取る普及への戦略は何か。
今月の注目アイテム
メタ
Meta Ray-Ban Display
799ドル(約12万3000円※。日本での発売は未定)
※1ドル=約154円で換算(2025年10月31日現在)

メタは2023年秋から「Ray-Ban Mata」を発売している。日本では未発売なのであまり認識されていないが、世界的にはかなりのヒット商品だ。
現在メタは、Ray-Banとコラボレーションした「Ray-Ban Meta Gen 2」と、ディスプレイ搭載の「Meta Ray-Ban Display」、そしてオークリーとのコラボモデルである「Oakley Meta HSTN」「Oakley Meta Vanguard」の4モデルに広げ、積極展開している。
メタはこれらの製品とスマホ上で動作するアプリでのAIサービスを連携させ、「AIグラス」という呼称を使っている。ただ、メタがAIグラスという呼称を積極的に使い始めたのは最近のことだ。
というのは、Ray-Ban Metaを発売した当初は、AI機能よりも「カメラ」をウリにしていたからだ。目に近いサングラスの右端(Oakley Meta Vanguardの場合には眉間の部分)にカメラが付いていて、主観視点で写真・動画が撮れるのは楽しいものだ。
実際、AI機能は後付けに近く、AI機能自体の実用性もそこまで高くない。AIに風景を教えてもらう、という機能がメインなのだが、それを頻繁に使う人は正直少ない。今も昔も、メタのスマートグラスにとって主軸の機能はカメラと言っていい。
ただし、AI機能にまったく価値がないか、というとそんなことはない。マイクと音声出力を生かした「翻訳機能」は、日本語こそ使えないが実用的なものだ。画像を認識する機能も、単なる画像検索なら使い道は少ないかもしれないが、今後はもっとスピードも回答の内容の質も上り、価値を持ってくる。
AIが人間の役に立つには、人間が見ているものを理解する必要がある。それをスマホのカメラにやらせるのは、操作の面で大変だ。だがメガネなら、スマホから手を離し、自然に使える。音声による対話も、今なら難しいものではない。ただ、音での会話だけでなく、内容を表示してくれたほうが便利なのは間違いない。
本誌版でも述べたが、ディスプレイ付きのMeta Ray-Ban Displayが登場したひとつの理由には、“撮影した写真をすぐに見たい”というニーズがあった。筆者も体験したが、撮影した写真が目の前に浮かんで表示され、指先の動きでズームできるのはたしかに便利で面白い。
スマートグラスのような製品には“手堅いニーズ”が必要だ。そのニーズがカメラであり、そこから徐々に拡大していく形でAIの価値が広がる。AIグラスというのは多少誇張も入った表現だが、正しい表現ではあるのだ。
では、メタも手掛けていて、他社も開発してきた「ヘッドマウントディスプレイ(HMD)型」はどうなるのだろうか? その点は次回解説する。
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