思えば、アンテナを目にする機会がずいぶん減っている。クルマのボンネットやルーフに生えていたアンテナはいつしか無くなっているし、ラジオはスマホで聴くのが普通になった。昭和男子の大好物、ラジコンだってもはや2.4GHz通信となってからは伸縮自在のロッドアンテナを使わない。だから銀色のアンテナという物体を意識する機会はなくなってしまった。

対抗するかのように、ワイヤレスデバイスは増殖の一途だ。スマホはもちろん、家庭内Wi-Fi、トゥルーワイヤレスイヤフォンに、スマートウオッチ。黒モノ家電のみならず、冷蔵庫や照明、洗濯機やエアコンなど白モノ家電も“つながる”家電になっている。見えなくても電波は飛んでいるし、電波が飛んでいる以上、実はアンテナも存在し続けているのだ。

「直近2019年からの世界のIoTデバイス数の推移・予測を見ますと、モノの大小、用途の屋内外を問わず、年10%程度の伸びを見せています。パナソニックエレクトリックワークス社(以降EW社)でも、出先から、宅内からを問わずに操作できる“家のスマート化”の仕組みづくりを推進しています」
と語るのは、同社無線システム開発課の竹田真理さんだ。

たとえばEW社の家庭用燃料電池「エネファーム」もインターネットの天気予報をもとに発電スケジュールを組み立てることで、より高い運転効率を狙っている。またオフィス照明をIoT化することにより、省エネで快適な空間づくり、働きやすい職場づくりを実現するという。気づけば暮らしのワイヤレス化は、粛々と、しかし着々と進行中なのだ。
無線とは? 電波とは?
無線を実現するには電波を用いる。その電波は周波数帯によって扱える情報量や直進性が異なり、それぞれに応じた無線機器やアンテナが求められる。
トゥルーワイヤレスイヤフォン等でもおなじみのBluetooth通信は2.4GHz帯を、Wi-Fiなら5GHz帯を使用する。ちなみに日本では、AMラジオは531kHz~1602kHzを、FMラジオなら76.1~94.9MHzとなり、周波数が低い方が建物や障害物の裏まで回り込んで届きやすい(直進性が低い)が、送り出せる情報には限りがある。これがAMラジオ。対してFMは情報量が多いためステレオ放送ができたが、直進性が強いため受信環境をしっかり整えないと(アンテナを張らないと)受信しづらくなる。

では今回EW社が発表した「金属ロバスト性を有するアンテナ設計」とはなにか?
「金属ロバスト」といったお初のワードを耳にすると、ヒーローの必殺技なのか? との妄想を抱いてしまうが、もちろん、そうではない。これは夢の世界の話ではなく、いまの世の中で実際に役立つ技術の名称である。
「今回開発した金属ロバスト性をもつアンテナは、『金属内蔵』『金属近接』を共に実現するアンテナのことです」とは、同・無線システム開発課の武居厚志さん。

続けて、
「EW社においては、身近なものでは火災報知機や飲食店などで使われるワイヤレスコールなど、アンテナを内蔵した商材を展開しています。
一般に知られてはいませんが、アンテナ開発にはふたつの大きな問題があります。それは『金属に内蔵できない問題』と『金属近接に設置できない問題』です。たとえばオフィスや工場などで金属の構造部材とアンテナを近接すると本来の性能が発揮できませんし、家庭用燃料電池「エネファーム」もアンテナを内蔵できないためその部分だけが飛び出して樹脂カバーに覆われています。これら諸々の『問題』を解消すべくたどり着いた答えが、アンテナをスロット付きキャビティ(筐体)に収める設計でした」

キャビティのスロットに交差するようアンテナを内蔵することで発生する共振現象によって、キャビティそのものをアンテナとして動作させることができるというのだ。むろんこのスロットの長さには規定があり、波長のおよそ半分の長さが必要とされる。たとえばBluetoothの波長は10cmだからスロット長は5cm見当となる。

実際のところ「何の役に立つ」のか
ここまでお読み頂いた皆さんが抱く当然の疑問、それは「メリットは何か?」だろう。
「金属内蔵について事業者メリットで言いますと、金属の難燃性・放熱性・耐久性の高さを始め、板金製造ができ金型不要であることから製造コストダウンがあげられます。またユーザーメリットとしてはサーフェスのフラット化により、デザイン性の向上が見込まれます」
なるほど。では金属近接の方はというと、
「ユーザーメリットは同様のものとなりますが、事業者向けとしては従来のアンテナでは避けていた、金属製の壁面・天井の近くでも気にせずに設置できることが挙げられます」

昭和時代の体育館や公民館、工場やオフィスなどの「プレ・ワイヤレス時代」の金属構造建築であっても、比較的手間なく、すっきりした見た目でワイヤレス化できるというわけだ。
パナソニックEW社ではこの基盤技術を2019年「LEDスポットライト」として発売済み。
今回新たに920MHz商品と2.4GHz商品の金属筐体の共通化(従来の無線部は個別設計だった)を実現。これにより両周波数帯の商品の見た目や施工手順の統一化を達成。この「金属ロバストアンテナ」を搭載した「LED高天井用照明器具」は、2026年中の発売予定となっている。


この日の発表内容は主としては事業者向けだが、巡り巡って利用者たる僕らのメリットとなるはず。
「住まい、ビル、インフラの隅々まで無線ネットワークを張り巡らせて安心・安全で健やかな社会を実現する」というEW社の未来ビジョンを知れば、竹田さん、武居さんが口を揃えて「金属ロバストアンテナ技術は未来ビジョンのカギとなる技術だと自負しています!」と言うのも、なるほどと思えてくる。
快適な“つながり社会”の縁の下の力持ち。パナソニックのアンテナ技術の近未来には期待するところ大だ!