【西田宗千佳連載】「オールアップル」で攻めるからできたAirPods Proのアップデート

ink_pen 2020/10/31
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【西田宗千佳連載】「オールアップル」で攻めるからできたAirPods Proのアップデート
西田宗千佳
にしだむねちか
西田宗千佳

モバイル機器、PC、家電などに精通するフリージャーナリスト。取材記事を雑誌や新聞などに寄稿するほか、テレビ番組などの監修も手がける。ツイッターアカウントは@mnishi41。

Vol.96-2

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「AirPods Proのアップデート」。毎年恒例のOSアップデートに隠れて起きていた要注目の動きとは?

 

前回の連載で解説したように、アップルは「AirPods Pro」のファームウエアをアップデートし、「空間オーディオ」やBluetoothの接続先自動切り替えといった機能を追加した。どの機能も非常に素晴らしいもので、AirPods Proの価値を高めるものだ。

 

他社もヘッドホンについてはファームウエアアップデートやスマホアプリのアップデートで機能アップ&音質改善などを行っている。よくあるのは、Bluetoothの接続性向上やノイズ減少といったものだろう。だが、これまでアップルほど大胆で大規模なアップデートを行ったところはなかった。

 

アップルはなぜここまで大規模なアップデートを行えたのだろうか? 理由は2つある。

 

1つは、OSを自分たちで作っている、ということ。汎用OSの場合、自社のヘッドホンに特化した機能をOS側に入れることは難しい。だが、アップルのヘッドホンはアップル製品、すなわちiPhoneやiPad、Macで利用することを前提としている。だから、接続先自動切り替えのようなOS連動が必須の機能を、ヘッドホンとの組み合わせとして入れることができたのだ。

 

 

Apple AirPods Pro/実売価格3万580円

 

もう1つは、ヘッドホンのコアになる半導体とソフトも、自社で開発しているという点だ。あまり意識されないが、ワイヤレスヘッドホンもまた一種のコンピューターで、ほとんどのヘッドホンは、半導体メーカーが開発したパーツをそのまま導入している。メーカーによってはソフトを色々工夫するところもあるが、自社のためだけに開発できるわけではない。アップルの場合は、自社製品で使う主要半導体を、ほぼ自社内で設計する。そこに連携する機能も、自社で選択して組み込めるわけだ。そうすると、ヘッドホンのファームウエアの奥底まで検討を加え、搭載センサーを活用し、面白い機能を追加していきやすくなるわけだ。

 

さらに、1つのヘッドホンを何年も売る、という点も他社との違いといえる。多くのメーカーは毎年、もしくは長くても2年程度で新製品を出す。ソフト開発はアップデートだけでなく、次の製品に向けても行う必要がある。そうすると、アップデートに新しい機能をどんどん入れていくよりも、次の製品に盛り込むことが優先になりやすい。一方、アップルは同じヘッドホンを長く売る。AirPodsの初代は3年販売された。そう考えると、AirPods Proも3、4年売られる可能性がある。ヘッドホン自体をプラットフォームとしてできるだけ長く売るためにも、ソフトのアップデートによって価値を高める……という戦略に出られる。

 

そういうことができるのも、自社製品利用者に自社製ヘッドホンの利用を推進する、という一体型のビジネスを展開しているがゆえだ。ある意味閉じたビジネスであるが、他社との差別化という点では有利である。

 

では、他社はこうした「ヘッドホンのモダン化」をどう考えているのだろうか? その点は次回のウェブ版で解説する。

 

 

 

 

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