家電
掃除機
2018/3/30 20:10

「思い出すと、温かい気持ちに…」ダイソン創業者、日本への愛と最新モデル「Dyson Cyclone V10」を語る

 

コードレススティックは「掃除機の未来」であると信じている

――いま日本では、多くの掃除機メーカーがダイソンをひとつの目標として製品を開発しています。実際、国内メーカーの方とお話しをすると、「ダイソンは……」という話題がよく出てくる。そして、日本のメーカーは、まだコード付き掃除機の開発は続けるでしょう。こうした日本のメーカーについて、どのような考えをお持ちですか?

 

ダイソン氏 あまり考えたことがないです。もちろん、私たちはまだコード付き掃除機は製造してはいますが、開発はやめてしまいました。開発の労力はすべてコードレススティック掃除機に、そしてモーター、バッテリーに充てています。なぜなら、私たちはこれが掃除機の未来であると信じているから。それ以外にも、世界中のどこの国でも、我々のコードレススティックを買った方は、それ以降、家にあるコード付き掃除機を使わなくなっているんです。そういうお客様の声を聴きながら方針を決めているわけで、競合メーカーについては、我々が何かを申し上げることはできません。我々は、自分たちのなすべきことをやるだけです。

 

掃除機で培った技術を応用し、自動車業界の既成概念を“破壊”する

――ダイソン社は2020年を目処にEV(電気自動車)への参入を表明しました。今回Dyson Cyclone V10 コードレスクリーナーに投入された技術の中にもEVに応用できる技術はたくさんあるんでしょうか?

 

ダイソン氏 もちろん! バッテリーの開発もデジタルモーターの開発もそうですし、ロボット掃除機「Dyson 360 Eye」のために開発したナビゲーション技術「360°ビジョンシステム」もEVに応用できます。ほかにも空気清浄機の空気を処理する技術や空気を冷却・温める技術など、多くの技術が応用できると考えています。

↑同社のロボット掃除機「Dyson 360 Eye」は、360°を一度に撮影できるカメラを本体上部に搭載

 

そういう意味では、私たちがEV開発に着手することにしたのは自然の流れでした。また、より広い視点で見ても、自動車産業はいま「変革の時代」「変化の時代」を迎えています。私たちの参入は、自動車業界の既成概念を“破壊”する、良いタイミングだったと思っています。

 

初来日を思い出すと、温かい気持ちになる

――ちなみに、ダイソン氏が開発した掃除機の初号機「G-Force」を取り扱ったのは日本の商社、エイペックスだそうですね。当時を振り返ってどんな思いが湧き上がってくるか、語っていただけませんか?

ダイソン氏 当時のことを考えると、とても温かい気持ちになります。というのも、私は1985年に初めて日本に来たのですが、来日当日に私が訪れた会社は、私が作った掃除機をすべて分解して、そのひとつひとつの部品について、すごく愛情を込めて語り始めたんです。そんな光景を、私はほかのどの国でも見たことがなかった。

 

私はエンジニアであり、デザイナーでもありますが、エンジニアでない普通の人々までそういう技術を理解していて、なおかつ愛していた、という新しい経験に感銘を受けました。私は日本語を喋れませんが、昔から日本には「心地いい国」というイメージを持っていますし、日本に来ると、いつも「モノを愛して、技術を理解している人たちの中にいる」と実感します。

 

それと、私が思うに、イギリス人は日本人と似ていますね。私たちは思っていることを表に出しません。世界中を見ても、イギリスと日本だけが思っていることをちゃんと言わないんです(笑)。でも私は、それはいいことだと思いますよ。

 

――日本人の「職人気質」に通じるものがあると?

 

ダイソン氏 そうですね。モノに対する、モノの「美」「機能」「素材」に対する愛情、熱意が素晴らしい。例えば、私は日本のスチールは世界最高だと思っていて、私たちの作るデジタルモーターの中でも日本のスチールを使っています。

 

自分にはかなり「日本人的」な感覚がある

ダイソン氏  まあ、私は典型的なイギリス人ではないし(笑)、自分自身をちょっと変わった人間だと思っています。だから、’85年に初めて来日したときは、まるで“仲間”のもとに戻ってきた気持ちがしましたよ。

 

――いま、ご自分のことを「変わった人間」とおっしゃいましたが……。

 

ダイソン氏 はい。私はモノが好きで、エンジニアリングが大好きで、モノがどういう風にデザインされているかについて、すごく興味を持っています。また、モノに触ったときにどんな感触なのか、そういったことにも強い興味があります。それはかなり「日本人的」な感覚だと思いますね。

 

――ダイソンさんは、日本市場を大変重視してくださっていますが、初来日での体験が影響を与えている部分もあるのでしょうか。

 

ダイソン氏 はい、もちろんです。(日本の方は、)技術、デザインをちゃんと理解してくれているみなさんですから。日本の製品を見るとそれが明らかで、他の国にはそういう特徴はないんです。また、日本は私たちにとってトップマーケットのひとつでもあります。ある意味、私たちの最大の成長の理由はアジア、日本や中国、韓国にあるんです。それに、私たちの会社は、イギリスらしくもないし、アメリカやドイツらしくもない。むしろアジアの、日本らしい企業だとも思っています。

↑若き日のダイソン氏(左)と掃除機の初号機「G-Force」(右)

 

――ダイソンさんにとって日本は“第二の故郷”とも言えると?

 

ダイソン氏 おっしゃる通りです。もうイギリスに少し近かったら良かったんですが(笑)。ところで、UKがEUから離脱しましたね。私は「ブレグジット(Brexit)派」(※)なんですが、これによって自由貿易が可能になり、日本ともより近い関係になれると思っています。ブリュッセル(EUの本部がある場所)経由ではなくて、英国が直接日本とやりとりできるのはうれしいことです。

※ブレグジット(Brexit)……Britain(英国)とExit(離脱)を組み合わせた造語。ブレグジット派はEU離脱に賛成という意味

 

「納得のいく製品ができなければ発売しない」スタイルは今後も続ける

――今後、掃除機以外、EV以外で挑戦したい分野はありますか?

 

ダイソン氏 もうそれで十分じゃないですか?(笑) ほかにも照明や、ハンドドライヤー、ヘアドライヤーなどにはすでに参入していますし。ただ、私たちはたくさんの多様化したポートフォリオを持とうとは考えていない。私はそれよりも集中することが好きで、いまは「EV」という集中できる対象ができたのをうれしく思っています。

 

――たしかに、十分かもしれませんね(笑)。さて、いま「集中」とおっしゃいましたが、今回のDyson Cyclone V10 コードレスクリーナーのサイクロン部分でも2500以上のプロトタイプが作られました。「フラフィ」(ソフトローラークリーナーヘッド)の開発にも12年をかけられたとか。ダイソンさんは本当に妥協を許さない方ですね。

ダイソン氏 おっしゃる通り、妥協は許しません。私たちは商業的なプレッシャーがあっても、うまく機能する製品でなければ発売しない。というのも、我が社には株主がいないから。私が唯一の株主なので、株主を喜ばせる必要もない。私たちがやりたいことをやり、しっかりと製品ができたときに発売する、というやり方でずっとやってきました。それはすごくラッキーだったと思いますね。もっとも、最初に起業したときに誰も投資してくれなくて、結果的に私が投資するほかなかった…という面もあったのですが(笑)。

 

――このスタイルは今後もずっと続けていくんですか?

 

ダイソン氏 そうですね。いまは一緒に仕事をする息子がいて、彼も私と同じ考えなので、 そのやり方は続けていくと思います。

こうして、ダイソン氏へのインタビューが終了。時間にして30分程度でしたが、新製品の開発秘話から、コードレスへの強い思い、EV開発を含めた今後の展開まで、たっぷりと語っていただきました。印象に残ったのが、日本への深い親愛の情。特に、初来日の様子を語るときの本当に懐かしそうな表情を見て、それを強く実感した次第です。同時に、自らを「日本的」と語るダイソン氏が職人魂を込めて作りこんだ「Dyson Cyclone V10 コードレスクリーナー」。改めて、その性能を確かめてみたくなりました。

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