家電
2020/3/17 19:30

「失われたプラズマテレビ」の技術が生きていた! パナが参入した「真空断熱ガラス」の背景に胸が熱くなる

PDPのマザーガラス多面取り技術を使い、空気を抜く孔をなくした

ではどこにPDPの技術が使われているのでしょうか。具体的に見ていきましょう。「PDPの技術転用により、ガラスに真空引きするための排気孔を無くすことができました」とハウジングシステム事業部 建築システムBU 新建材事業推進部 基盤技術開発課の瓜生英一課長は説明します。他社の真空断熱ガラスは、あらかじめガラスを商品サイズに切ってから真空引き(空気を抜きとる作業)をするため、ガラス1枚1枚に真空排気孔が開けられています。「排気孔を塞ぐ封止材はどうしても目立ってしまい見た目が悪い。孔のないきれいな断熱ガラスが欲しいというニーズがあり、PDPの製造技術がある当社だからこそ、そのニーズに応えられたのです」(木村部長)。

↑瓜生英一課長

 

その方法について瓜生課長は「当社のPDPの工場では、大きなマザーガラスから複数のディスプレイを切り抜く多面取り工法を採用していました。それを真空断熱ガラスに応用したんです」と語ります。具体的には、マザーガラスの切り出しサイズごとに一部隙間が空いたシールを入れ、1か所から空気を抜いた後に隙間を閉じ、2枚のガラスを同時切断するという方法(※)を採用。これにより、排気孔跡のない美しいガラスが実現できたというわけです。

※多面取りはPDP由来の技術ですが、2枚同時に真空引き・切り離しする技術は真空断熱ガラスのために開発したものです

↑PDP由来の多面取り工法により、真空排気孔を無くすことができました。なお、真空排気孔のある部分は廃棄します

 

2枚のガラスの四辺を貼り合わせる封着材もPDP由来です。中の真空層を守るために外気の流入を防ぐ封着材は鉛を入れることで接着時の温度調整がしやすく、生産性が高まるのですが、鉛は健康被害があるためEUではその使用が規制されています。その点、パナソニックではPDPを生産中にいち早く鉛を使用しない素材を開発して封着材に使用しており、今回、その技術が断熱ガラスにも活用されているのです。

↑封着材にはPDPで実績のあった鉛フリー素材を使用しています

 

冷凍冷蔵庫などでニーズがある強化ガラス仕様もラインナップ

薄い・軽い・断熱性が高いという特徴を引っさげ、パナソニックは昨年4月から欧州で生産を開始。協業パートナーであるAGCが「Fineo」ブランドで販売をスタートし好調に受注を重ねていますが、このほど、パナソニックも「Glavenir(グラベニール)」という自社ブランド名で販売を開始しました。

 

自社ブランドの確立に合わせて、バリエーションも増やしています。その1つが強化ガラス仕様(※)。先述の真空断熱ガラス(フロートガラス仕様)の4倍の強度があり、割れても大きな破片が飛散せず、粒状になって崩れ落ちるため安全性が高いのが特徴。

※強化ガラス仕様の場合、ガラスを切断することはできず、一枚一枚製造してから真空引きするため、真空排気孔が残ります

 

こちらは、主に業務用冷凍冷蔵庫やビルの窓ガラスとしてニーズが高い製品です。欧米でのニーズについて、瓜生課長は以下のように説明してくれました。

 

「欧米のスーパーでは大きなカートで買い物をする店が多いのですが、スーパーの冷凍冷蔵庫に買い物客のカートが衝突することがあり、一般的なガラスでは衝撃で割れてしまう危険性があります。一方で、1枚の強化ガラスでは断熱性が低いため冷気が逃げてしまい、電気代が高くつくデメリットがありました。真空断熱強化ガラスならばこれらのニーズに応えられるため、開発要望が高かったのです。欧米の大型スーパーではウォークインの大型冷凍冷蔵室を備えている店もあり、その自動ドアとしてもニーズがあります」

 

このほか、ビルの窓は台風時の風圧や地震時の耐久性から、強化ガラスの需要があるといいます。

↑強化ガラス仕様は真空引きのための排気孔が残るものの、ガラス強度も断熱性も上がります

 

↑パナソニックの完全子会社である米国の冷凍・冷蔵ショーケースメーカー、ハスマン社のスーパー、コンビニ向け製品には既に同社製の真空断熱ガラスが採用されています。他社からの引き合いも多いため、今後は積極的に外販していく考え

 

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