家電
2021/5/1 17:30

「シンプルさのさじ加減」が開発のカギ。サンコーが考える「面白くて役に立つ」ヒット家電の作り方

手ごろな価格で性能十分な家電を多数手がける“バリューブランド”のルーツや、製品開発にかける想い、アプローチ方法についてインタビューを行う企画。本記事は、サンコーのヒット商品をピックアップしながら、同社の成長の経緯とモノ作りの哲学に迫る!

※こちらの記事は「GetNavi」 2021年6月号に掲載された記事を再編集したものです。

【サンコー基本DATA】

社名:サンコー

創業:2003年

本拠地:東京都千代田区

ヒット家電第1号:シワを伸ばす乾燥機 アイロンいら〜ず

世の中にないレアな家電や雑貨を毎週2個、年間約100アイテム発売。「面白さ」と「役に立つ」を兼ね備えた製品の企画開発をモットーとする。社員数35名ながら、2020年の売り上げは約30億円(予測値)と成長を続けている。

 

【今回ピックアップする家電】

約14分でできあがり! どこでもアツアツごはんが食べられる

↑SPEC●消費電力:185W●最大炊飯量:1合●炊飯時間:約14分(0.5合)、約19分半(1合)●機能:保温機能、空焚き防止機能●ケーブル長:1.4m●サイズ/質量:W240×H80×D100㎜/840g

サンコー

おひとりさま用超高速弁当箱炊飯器

実売価格6980円

0.5合なら約14分、1合なら約19分半でごはんが炊ける小型炊飯器。底面の強力ヒーターが側面まで高火力でムラなく加熱することで、おいしいごはんに。茶碗によそうことなくそのまま食べられ、使用後は丸洗い可能だ。

↑電源ケーブルに炊飯用のスイッチを搭載。ユーザーから「電気コタツのスイッチ」とも呼ばれるほどのシンプルさが魅力だ

 

【インタビューに答えてくれた人】

サンコー 広報部 部長

﨏 晋介(えき・しんすけ)さん

2015年に営業職として入社。2か月後にはリリース作成を兼務し、以後同社のメディア対応を1人で担当する。

 

海外工場での開発において水も米も日本と同じ環境を再現

おひとりさま用超高速弁当箱炊飯器は、中国の工場で開発。炊飯テストでは日本の水と同じ成分の水を使い、米は日本から送り、納得できる味になるまで食味テストを何度も繰り返した。ちなみに、炊飯器が弁当箱型なのは開発の過程で四角形状が最適とわかり、「それならいっそ弁当箱型に」というアイデアを具現化した。

↑おかずも調理できる2段式弁当箱炊飯器も好評発売中。レトルトや冷凍食品などの温めを炊飯と同時に行え、1万台を売り上げるヒットに

 

「10億円の壁」を超えるため家電開発に打って出た!

サンコーは、串が自動で回る焼き鳥メーカーやミストが出る日傘など、独特なコンセプトの製品で常に話題を集めている。創業当時はPC周辺機器などの輸入販売を行なっていたが、海外の工場との取引のなかで「オリジナル品を作りたい」と考えるようになり、2005年に製品開発を開始。PC周りの製品を主力として着実に売り上げを伸ばしていた同社が生活家電を手がけるようになった最大の理由は、“10億の壁”を突破するためだったという。

 

「それまで順調に売り上げが伸びていましたが、10億円目前の15年に伸び率がガクンと落ちました。生活ツールの中心がPCからスマホに変わったことで、商品展開が苦しくなり始めていたのです。このままではいけない、『面白くて役に立つ』というコンセプトは家電分野でもウケるのではないかと考え、生活家電にチャレンジしました」(広報部・﨏 晋介さん)

 

その甲斐あって16年の売り上げは10億円を突破。そして、最初にヒットした自社開発の家電は、アイロンいら〜ず(※1)だ。当初は市販のふとん乾燥機を風力源として、それに取り付けるエアバッグのみの開発を考えていたが、風量が足りずに保留へ。のちに風力源部分も自社製造する方針に切り替えて、完成までこぎつけた。

 

全社員でアイデアを共有し企画開発を進めていく

同社では新製品を毎週2アイテム発売。商品の提案はアルバイトを含むスタッフ全員で行うという。

 

「『こんなことに困っている』『この製品がこんなふうになったら便利』など、ちょっとした日常の悩みや気づきからアイデアを出し合います。そこから製品化するものが決まると、企画部が『どういう構造にするのか』『本当にそれは世の中から求められるものか』を深掘りしていきます。当社では、いわゆるお金をかけるようなマーケティングリサーチは行なっていません」(﨏さん)

 

20年にはおひとりさま用超高速弁当箱炊飯器がヒット。従来モデルでは50分かかった炊飯時間を最短約14分と大幅に短縮してリニューアルした結果、売り上げ9万7000台を記録した(21年3月現在)。さらに同年、ネッククーラーNeo(※2)も24万台以上の大ヒットを記録。14年発売の初期モデルはPCのCPUの冷却技術を応用したオモシログッズという位置付けに過ぎなかったが、いまや熱中症から〝命を救う”製品へと進化した。

 

製品の目的と関係ない機能は基本的には必要ない!

同社の製品開発のカギは「シンプルさのさじ加減」である。最初に「これは何のための製品か」を考える。製品はその目的を叶えるためのものなので、ほかの機能は基本的に必要ないという考え方だ。

 

「例えば、紙パックスーパーコールドボックスは紙パックが冷えれば良いので電源スイッチしか付いていません。弁当箱炊飯器も時短でおいしくごはんが炊ければ良いので予約機能はなしです!」(﨏さん)

 

サンコーの20年の売り上げ予測は30億円で、19年から約1.7倍の伸び率を記録した。

 

「今後は、ネッククーラーのような『ないと困る』製品も積極的に作っていきたい。寝転びながらPCなどの操作ができるゴロ寝デスクのように、当社らしいユニークな製品も引き続き作っていきますのでご期待ください!」(﨏さん)

 

【サンコーの注目アイテムたち】

(※1)シワを伸ばす乾燥機アイロンいら〜ず

2017年発売。人型の乾燥バッグにシャツを着せ、下から温風を送る。バッグがパンパンに膨らみパリッとシワが伸びて乾く。

 

(※2)ネッククーラーNeo

CPUの冷却にも使われるペルチェ素子と連携したアルミプレートで頸動脈・静脈を冷やす。発売から約40日で10万台のセールスに。

 

糖質カット炊飯器

2018年発売。米を炊く際に溶け出した、糖質を含む汁を排出し、糖質を33%オフ。一時は数か月待ちの人気商品に。

 

【コラム・バリューブランドの神髄】電子掲示板で企画提案! 採用されたら金一封も

製品の企画提案は社内の電子掲示板に書き込む。スタッフ全員が毎週必ず1案以上提案するルールで、企画書のようなしっかりした体裁もあれば、思いつきレベルの書き込みでもOKだ。さらに、誰かの意見について毎週最低2回書き込むのもルール。製品化につながった提案には報償金が支給される。提案に対する意見にも、企画につながれば報償金がもらえる。

↑「商品企画委員会」という掲示板に商品企画を書き込む。気軽なアイデアや日常の困りごとでもOK