家電
2021/9/1 18:15

「避難所」の先進エリアは群馬にあり! 発電・蓄電・省エネの進化がわかる最新施設見学ツアー

近年、夏から秋にかけて各地で大雨や台風による被害が頻発しています。この2021年も既に、静岡や中国地方、九州地方で大雨による甚大な被害が発生しており、多くの地域で避難指示が発令されました。

 

災害時に発電・電力供給を可能とする設備工事に政府が補助金を交付

避難所は市民体育館や自治体庁舎といった公共施設、公立学校の体育館などが利用されており、緊急時のために水や食料などの備蓄も進められています。被災した住民、被災の危険性にさらされた住民の命を守る重要な拠点なのですが、この避難所の運用に関して数年前にひとつの大きな動きがありました。

 

きっかけは、2018年9月に発生した北海道胆振(いぶり)東部地震。地震発生後わずかな時間で北海道全域が停電、ブラックアウトの状態に陥ったのは記憶に新しいところです。病院のように自家発電設備を持つ施設は難を逃れましたが、避難所の多くはそういった設備を持たないため、避難してきた住民の多くは真っ暗ななかで不安な夜を過ごしました。

 

しかし、そのような中でも、厚真町(あつまちょう)の中学校では既設の太陽光発電設備により電源確保ができたことで、避難所として機能することができたのです。また、同年の台風21号による停電時にも、北海道の一部の自治体庁舎が太陽光発電により電源を確保し、災害対策本部として機能しました。

↑全国公立小中学校の95%が避難所に指定されており、そのうち6割が非常用発電機を備えているが、ほとんどが消火栓ポンプ用の電源のため、火災時にしか使えない

 

こうした取り組みを全国に拡大すべく、政府は平成30年度(2018年度)の補正予算から令和2年度(2020年度)までに、「地域の防災・減災と低炭素化を同時実現する自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業」を実施しました。

 

この長い名前の事業を簡単に言うと、「災害時に避難施設となる公共施設または民間施設において、平常時は省エネ・省CO2化を実現しつつ、災害時には独立して発電・電力供給できるようにする設備工事に補助金を交付する」というものです。国からの補助率が総事業費の最大75%と高く、さらに、不足部分を借入金で賄う場合は地方債を100%充当し、返済時にはその半分を交付税で措置できるため、実質的な自己負担額は事業費の1/8に抑えられるという、地方自治体にとっては非常に使い勝手のよい補助事業です。

↑環境省が中心となって実施した補助事業の概要。平常時には省エネ設備として、災害時には自立・分散型エネルギーとして活用できる再エネ設備と、エアコンやヒートポンプなどの高効率機器の整備に補助金を拠出

 

群馬県吾妻郡に導入事例を見に行った

今回、同事業の導入事例を見学するため、群馬県吾妻郡に行ってきました。吾妻郡は群馬県西部に位置し、中之条町・長原町・嬬恋村・草津町・高山村・東吾妻町の4町2村で構成されています。人口は約5万人。山間部に集落が点在しており、台風などの大雨時には崖崩れなどの自然災害に見舞われる危険性をはらんでいます。実際、全国に甚大な被害をもたらした2019年の台風19号では、郡中央を流れる吾妻川流域の複数箇所で崖崩れが発生し、川がせき止められて氾濫。複数の集落が孤立しました。また、域内には活火山の浅間山と、2018年に噴火した草津白根山が存在しており、常時警戒が必要なのです。

 

さて、最初に訪問したのは吾妻郡東部に位置する高山村の保健福祉センター。保健・福祉業務事務所とデイサービスセンター、児童館・保健所が入居する複合施設で、供用開始から20年が経ち、設備の老朽化で修繕費がかさんでいたとのこと。また、高山村の中で2番目にエネルギーコストが高い公共施設だったため、もともと改修計画が立ち上がっていたところでした。政府の補助事業がまさによいタイミングだったわけです。

↑高山村の保健福祉センター。補助事業を活用して屋根一面に90.4kWの太陽光発電パネルを設置。発電した電力はすべて施設内で消費する

 

設備の更新により、3か月で約30%の光熱費削減に成功

同センターは従来、電気と灯油、太陽熱がエネルギー源でしたが、新たに太陽光発電システムと蓄電池を追加導入。灯油ボイラーは廃し、エネルギー効率が高く省エネでCO2削減にもなるLPガスによる空調、GHP(ガスヒートポンプ)エアコンを導入しました。導入したGHPは停電時にも自立運転し、発電による電源供給も行えるタイプのもの。さらに天井照明はすべてLEDに変更しました。

↑保健センターの設備更新前(左)と更新後(右)の比較。CO2排出量の多い灯油ボイラーを廃し、CO2排出量の少ないLPガスによる空調および発電に変更。太陽光発電システム・蓄電池も導入

 

↑敷地内にLPガスの貯蔵タンクを設置。災害時には約2日間稼働できる

 

↑パナソニック製電源自立型空調GHP。停電時でも自らガス発電した電力で、空調と照明機器等への電力を供給する

 

↑太陽光発電で給湯するエコキュートはダイキン製。全体的なシステム構築はパナソニック・ライフソリューションズ社の手によるものだが、施設の状況に応じて最適な機器構成を組むよう心がけており、他社製品も導入している。手前は3000Lの貯湯タンク

 

↑蓄電池がずらりと並ぶ様は壮観

 

これらのリニューアル工事は昨年12月末に終了し、今年1月から稼働を開始しており、この結果、光熱費は大幅に削減されました。具体的には、今年1~3月の電気代は過去11年間の平均から26.5%減の146万7046円、ガス代はGHPエアコンの導入で増えて2.75倍の33万6115円となったものの、灯油代(過去平均45万5000円ほど)がゼロになったこともあり、合計約180万円で約30%減、約80万円の削減となりました。

 

いままでは1年を通じて約900万円のエネルギーコストがかかっていましたが、職員や利用者の節電意識を高めつつ、今後は約640万円以下まで削減することを目標としているとのことです。

↑保健福祉センターでは年間約260万円のエネルギーコスト削減、CO2排出量は約100tの削減を目指す。なお、今回のリニューアルにより、災害時にはスマホ240台の充電が可能

 

もちろん、平時でのエネルギーコスト削減だけでなく、災害時や緊急時における自家発電機能も備えています。今年6月に高山村にて停電が発生した際に、早速役に立ったケースがあったとのこと。

 

「新型コロナワクチンをマイナス75℃対応のディープフリーザーで保管していましたが、停電が発生したときに保健福祉センターの非常電源に接続。超低温を保つことができ、貴重なワクチンを無駄にせずにすみました」(高山村役場の割田信一課長)

↑「新型コロナワクチンの超低温保管にも今回の自立発電が役に立ちました」と高山村の割田課長

 

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