夏の風物詩の花火大会。だんだん寒くなってきたこの時期には無縁のようにも感じますが、日本煙火協会の河野晴行さんによれば「花火大会のメインシーズンは確かに夏だが、それ以外の季節でも、各地で行われている」と言います。
しかし、冬場の花火大会って想像がつかないだけでなく、花火を打ち上げる花火師さんたちがどうやって過ごしているのかも気になるもの。ここでは河野さんに、オフシーズンの花火大会にまつわる率直な質問をぶつけさせていただきました。
花火大会は夏だけでなく、年間を通して行われている!
――花火大会は夏の風物詩ですが、冬の間、花火師さんはもちろん、花火にかかわる方々はどうやって過ごされているのでしょうか。
河野晴行さん(以下、河野) 確かに夏はシーズンですから、それ以外の季節は何をしているんだろう……と思われるかもしれませんが、夏場ほど多くはないものの、秋冬も花火大会は各地でありますからね。クリスマス前後に打ち上げるイベント花火もありますし、カウントダウンでの花火もありますし。
真冬でもスキー場でやるスノーカーニバル、春には春のイベントがありますから、夏だけでなく年間を通してどこかしらで打ち上げ花火というのはあるものなんですよ。だから、夏だけでなく、結構忙しいものです。
また、花火屋さんというのは、「花火を作って、それを自ら打ち上げる」……これが本当の花火師さん。一般の方は花火を打ち上げる人を花火師さんの技術の見せどころと思われることもあるようですが、製造が本当の匠の腕。ただ、この作業そのものは各地の花火大会が多い夏場にはできませんので、こういったポツンポツンとイベント花火などがある秋から春にかけて翌年の夏の仕込みをしているという感じですね。
――だいたい花火ができるまでどれくらいの時間が必要なのでしょうか?
河野 だいたい1か月ぐらいで、ずっとこれの繰り返しです。夏場は確かに多いですから、春先に作り始めることが多いですね。
――作り置きはできないものなのですか。
河野 冬場に作っているところもありますが、花火は乾燥させないといけないので、雪が降っているところは難しいんです。それでも、新潟や秋田でも乾燥できるような設備を整えて、冬場に花火を作っているところはありますけどね。
こういった問題もあるので、だから花火作りの気候に適しているのは春先から梅雨が来る前の5月頃。製造はこの時期に集中することが多いです。
一発ごとでは打ち上げ花火の値段は算出できない
――花火師さんは製造と打ち上げをやってこそ……と言われましたが、これらが別々の場合もあるのですか?
河野 花火大会で言えば、打ち上げだけをやる人、製造だけをやる人、製造と打ち上げ両方をやる人の大まかに3種類のパターンがあります。これに加えて、オモチャ花火業者さん、あとは特殊効果と言って、舞台やコンサートで花火を使う人など、一口に「花火業者」と言っても実に様々な方がおられます。
――よく耳にする「この花火は一発打ち上げると、何万円」といった金額換算です。夏場の花火大会の目玉となるような打ち上げ花火ですと、相場はいくらくらいなのでしょうか。
河野 これは言い切れないですよ。その花火の種類、大きさにもよりますし、あと、立地条件が変われば当然付帯経費が一発ごとの花火に被さってきますので。たとえば、小規模で近場の花火と大規模で手間がかかる花火とでは金額が異なります。これは運送費や人件費移動費などがふくまれるからなんですね。
また、花火というのは玉ごとに自由に売り買いできるものではなく、大会ごと打上げ作業一式で花火業者さんが請け負うんですね。だから、一発ごとの金額というのは、算出しにくいものなんです。
――また、数か月間必死な思いで仕込み、迎えた花火大会の日、天候が悪くて中止になった場合は、花火師さんはどうなるんでしょうか。
河野 大会との契約ではだいたい、天候不良の際の取り消し手数料というものも決められていることが多いので、全くゼロということではないですが、それでも花火業者さんにとっての経費と手間はかかっていますからね。様々な仕掛けをして迎えた大会当日に、たとえば雨が降ったら、一度仕込んだ玉を全部発射台から抜いて持ち帰らないといけないわけですから、これは結構大変なんですよ。
花火の発祥は日本ではなかった!
――日本は花火大国だと思うのですが、外国でこれだけ花火に対して人気がある国はありますか?
河野 それはありますよ。特にイタリアはもともと近代花火の発祥とも言われていますしね。歴史的な話になりますが、火薬というものが中国で生まれて、それがシルクロードを経由し、中近東からヨーロッパへ渡りました。それがだんだん軍事的に使うものと、鑑賞として使うものとに分けられはじめました。その観賞用の花火を使って、近代花火を作ったのがイタリアなんです。復活祭のときに、山車を引っ張ってきて、そこから花火がビューっと打ち出されるという。
この影響で、ヨーロッパ全土に広まっていきながら、おそらくイタリア系移民がアメリカに渡ったことで、アメリカにも独立記念日なんかに打ち上げるようになったんですね。
対して日本の場合は「記念日だから打ち上げる」というより、江戸時代から続く夏の風物詩として打ち上げることが多かったんですけどね。花火そのものが俳句の季語になっているし、日本人の心に根付いていて、多くの方から支持を得ているわけですけど、この辺の事情は諸外国とは確かに違う。でも、「花火」そのものは世界各国で人気もあり、支持もされているものなのです。
冬の花火大会の探し方、楽しみ方
――最初に「冬でも花火大会がある」とおっしゃいましたが、この冬おすすめの花火大会はありますか?
河野 12月2日、3日に行われる秩父の夜祭とか。あとはクリスマスや年越しイベントの花火大会、温泉地で行われる小さい花火大会など。これは、ぜひご自身で調べていただきたいと思っているんですよ。冬の花火大会を探しながら、同時に近隣の探訪も出来たら楽しいじゃないですか。
私どもの協会で出している年間の花火大会の情報は比較的規模の大きい花火大会が230くらいあります。でも、会社によってどういった尺度で選んでいるのかはわからないですが、だいたい1000~1500か所の花火大会を紹介しているようですしね。こういった様々な情報をもって、自分ならではの花火大会の見つけ方、楽しみ方を満喫して欲しいですね。
河野さんご自身が花火を愛し、そして楽しまれているかのようにお話をしてくださいました。オフシーズンと言われる冬だからこそ、たまの休みに各地の花火大会を目指して探訪するのも楽しいかもしれませんよ!