ライフスタイル
2020/9/9 17:30

本当に“使える”IoTって? ニューノーマル時代の家がコミュニケーションのハブになる

進化目覚ましいITの波に、我々の生活もIoT(Internet of Thingsの略。“モノのインターネット”と訳される。モノとインターネットをつなぐサービス等を指す)が入り込み、知らぬ間に便利さを享受しています。音声による家電操作を得意とする「スマートスピーカー」などが代表例ですが、実はIoTによる家電連携の分野は、そこまで普及していません。

 

ただ、新型コロナウイルスの蔓延により家にいる時間が増えたこともあり、インターネットを介して外の世界とつながる動きは加速度的に進むと思われます。そこでイチ早くIoTとAIの重要性を考え、サービスに取り組んできた大和ハウス工業の分譲地「セキュレアシティ藤沢 翼の丘」内にあるコンセプトハウスにお邪魔してきました。いや~、世の中本当に便利になってきているのを実感します!

↑神奈川県・藤沢市「セキュレアシティ藤沢 翼の丘」にある最新コンセプトハウス(6月6日オープン)。外見から分からないほど、中はハイテク化されたシステムが完備されている

 

なぜハウスメーカーがIoTに力を入れるのか?

小高い丘の上にあるモデルルームは、玄関からハイテク機器のオンパレード。IoTミラー、インターホン、自走式ロボット、コミュニケーションボード、2面にわたる巨大プロジェクターなど、種々様々です。一体なにができるのかワクワクしますが、大和ハウス工業の経営企画部IoT事業企画推進室・主任 齊藤邦久さんに聞いてみました。

 

「弊社は1996年からIoT関連(当時IT住宅)の研究を開始し、積極的に取り組んできました。ただ……実際のところ、国内のスマートハウス普及率は低く、例えば、スマートスピーカーの普及率はいまだ約6%と言われています。その問題点をしっかり考えたとき、導入のハードルの高さを解消したり家電メーカーを横断してパッケージングできたりするのは、やはりハウスメーカーであるという結論にいたりました」(齊藤さん)

 

なるほど、たしかにスマートハウスの導入・設定については「たかがテレビをオン・オフするのに、そこまで面倒なことをするほど困っていない」というのが本音のような気がします。

 

「ではどうすればいいのかというと、自宅を購入する際にある程度、最初からシステムとしてIoT機器が完備されていればいいわけです。家電メーカーは自社製品しかオススメできないし、IoT機器メーカーは建物に詳しくない、だからハウスメーカーが包括的にIoTを手掛ける意味がある」と、齊藤さんは言います。

 

IoT導入のメリットは「コミュニケーションを活性化させる」こと

さて家の中を見渡すと、一番目立つのがリビングにあるテレビ(?)です。

 

「これは『(仮称)α-board(アルファボード)』と名付けていますが、カレンダーやホワイトボード機能を活用して、家族で大画面を見ながら予定を立てられるなど、家族間コミュニケーションの活性化を目指したものです。また、IoT機器や電力の使用状況表示、制御インターフェースとしての利用も検討しています」(齊藤さん)

 

こちらはまだモック(見本)段階とのことですが、アプリも開発中らしく、今はスケジュール、ToDo、掲示板、通知などの情報が共有できます。こだわったのは、“モニターの大きさ”と“手書き”できるところ。同じことはスマホでも可能ですが、家族で使う場合はサイズが大きく全員が同時に見られることが大事とのこと。もちろんインターネットを介したテレビ電話もできて、その際もサイズ感が大きければ臨場感が増します。まるで、田舎にある実家の両親と一緒に食事をしている気分になるそうです。

↑コミュニケーションボードの「(仮称)α-board(アルファボード)」。50インチあり、どんな場所からも家族の情報が共有できる

 

また、手書きスタイルにこだわるのも、年齢によるデバイスの使い勝手の差をなくすためと、温かみを持たせるため。齊藤さんの場合は、子どもからの『パパ、早く帰ってきてね!』という手書きメッセージを受け取ったら仕事を張り切る模様。

 

↑連休の予定など、家族であれば誰でも書き込める。また手書き入力が可能なので、ITが苦手な人でも安心

 

スマホで撮った写真を転送して大画面で見ることができるので、家族で過去の思い出を振り返りやすくなります。こうしたIoT機器を使って、コミュニケーションを活性化させることがスマートハウス導入の目的なのだそうです。

 

↑リビングには、AIアシスタント機能を備えた自立走行するパーソナルロボット「temi」も設置。あらかじめ登録した場所まで自ら障害物を避けながら道案内したり、人の後を付いてきたりして、モニターによる外部とのコミュニケーションが可能だ

 

↑高齢者が動けない場合にtemiを呼び出して家族と連絡をとるなど、「移動型のテレビ電話」のような役割を果たす

 

外出する時間をカットし、自宅にいながらエンタメを楽しむ

また、気になるのがリビング横にある2画面のプロジェクター。大迫力のワイド画面が広がって、美しい風景の映像が流れています。

 

「IoT空間として、プロジェクター2基を使っています。サイクリングバイクを連動させてリアルな風景の中を走ったり、新型コロナウイルスで行けなくなった海外旅行もバーチャル体験できたりします。VRでも同じことは可能ですが、ヘッドマウントディスプレイをしたまま会話している姿は違和感しかない。やはり“家の中”ですから、コミュニケーションを大事にしたい。この大きさのプロジェクターであれば臨場感があるので、時空を超えたIoTサービスが提供できると考えています」(齊藤さん)

 

家にいながらオンラインでさまざまな体験ができるようになるので、旅行だけでなくスポーツ観戦・医療・ショッピング・遠隔授業・コンサートなど、外出するリスクや時間のロスも解消。たしかにスポーツ観戦は大迫力で、しかも2画面だから選手のTips情報なども表示され、より深く競技を楽しめるのが面白いと感じました。

↑自宅で実際に医師の方とコミュニケーションを取りながら、オンライン相談が可能になる日も近そうだ

 

↑遠隔授業であれば全国どこでも受講でき、親による送迎も必要がない

 

↑バーチャルショッピングをして、その中で店舗に入店してマッチングする洋服などを購入するサービスも検討中だ

 

家族の健康情報も“見える化”でチェック

玄関に置いてあるIoTミラーは、その日の天気や交通情報、家族からのメッセージなどが表示されていました。こちらもモック段階で、どのような情報が必要なのか調査中らしく、といっても未来を感じさせます。

 

「洗面所にも同様のミラーを設置していますが、健康に関する情報を表示しています。血圧、体重のほかテレビ画面なども。ただ実際にこれらの情報が本当にユーザーにとって有益なのかを考えなくてはいけません。可能だからといって何でもやるのは独りよがりになってしまいますから」(齊藤さん)

 

IoTはたしかに未来的ですが、必要ないテクノロジーは実装しても仕方ないということで重要性を精査しているそう。でも外出時に玄関で雨の予報に気がつけば、傘を忘れずに済みますね。これはちょっと欲しい……。

↑玄関のミラーには、時刻や天気、交通情報、家族からのメッセージなどを表示

 

↑ミラーに映す情報は思案中とのこと。「ユーザーにとって何が一番有益か」、それを考えるのがIoTにおいて重要だと齊藤さんは話す

 

↑洗面台は、子どもから大人まで身長に合わせて高さを変更することが可能。将来的にはセンサーを活用して自動で昇降させることを検討しているという

 

↑「ほこりセンサー」は室内のPM2.5などを検知。ゆくゆくは空気清浄機やエアコン作動のトリガーになるような使い方も検討されている

 

↑写真右側の「アトモフウィンドウ」は、IoTによってデジタル風景を映し、壁のない室内に窓を作るデジタルガジェット。3枚連なると活用の幅もより広がりそうだ

 

住む人に寄り添ったテクノロジーで新たな生活様式を確立する

「ユーザーにとって本当に必要な商品を提供するため、現在はコンセプトハウスで検証をしていますが、いかに住む人が快適かつ、コミュニケーションを増やせるかが目的。IoTは、そういった時間を作るために活用されるべきだと考えています」(齊藤さん)

 

遠隔地の家族と自然にコミュニケーションが取れたり、家事をテクノロジーが肩代わりすることで時間を生んだり、外出を避けてエンタメを楽しんだり……、まさに新型コロナウイルスによる新たな生活様式を叶えるためにIoTはうってつけですが、もともと推進していたからこそ、今の時代にマッチしたとのこと。ニューノーマルな住宅はますます進化を続けていきそうです。

 

取材・文/神谷たけし 写真/真名子