ライフスタイル
2020/9/28 18:00

地球に優しいプラスチックはどっち?「バイオマス」と「生分解性」それぞれの真実

目指すのは、「生分解性」+「バイオマス」のプラスチック

政府は、2030年までに「バイオマスプラスチック」を約200万トン導入するという目標を掲げており、今後ますます注目が高まる新しいプラスチック。「何より大切なのは、それらを活用する意義や用途について、提供する事業者も、使用する消費者も、きちんと理解し使い分けること」と岩田さん。

 

「どういうプラスチックを、どういう用途で使っていくのか考えることが大切です。例えば、現在東京都では、プラスチックと他のごみを一緒に燃やしてしまっているのですが、これでは『生分解性』である意味がまるでありません。東京で『生分解性プラスチック』を流通させようと思ったら、ごみの回収システムにも目を向けなければなりません。そういった社会のインフラともリンクしているのです」

 

では、どのようなものが「生分解性プラスチック」に適しているのでしょうか?

 

「釣り糸や漁網、農業用のビニールなど、自然環境中で使われているものです。ゴルフのティーなどもいいかもしれません。外で使われているものは、切れたり、壊れたり、劣化したり、ロストしたりと環境中に放出され、すべてを回収することは難しいでしょう。そういったものを『生分解性プラスチック』に作り替えていけたら理想ですね」

では、「バイオマスプラスチック」の使用意義とは何でしょうか?

 

「とくに昨今は、コロナウイルスの影響もあり、プラスチックの需要はますます高まっています。例えば、病院で使われるマスクや医療用のエプロンや手袋。これらは、感染の問題がありますので、焼却処分する必要があります。そういった燃やしまうものこそ、二酸化炭素の排出量が増えない『バイオマスプラスチック』で作る意義があるのではないでしょうか。また、市中のマスクについてはポイ捨てされている現状もよく目にします。ポイ捨てされたものが土や海に流れ出てしまった場合、微生物によって分解される『生分解性プラスチック』であれば、環境問題の解決にもつながるかもしれません。つまり、一番の理想形は『生分解性のあるバイオマスプラスチック』なのです」

燃やしても二酸化炭素の排出量を増やさず、自然環境中に流れ出ても分解する……。二つのメリットを持ち合わせた「生分解性バイオマスプラスチック」は、現在も開発がすすめられており、今後活躍の場がどんどん広がっていくことが期待されています。

 

プラスチックと上手に付き合っていくために

「レジ袋有料化やコロナウイルスの状況もあり、プラスチックについて考えることが増えてきていると思います。プラスチックを完全に使わない生活をするのは難しいですが、意識して使用量を減らしていくことは重要だと思います」

 

プラスチックはけっして悪いものではなく、私たちの生活に欠かせないもの。現在、岩田さんは木材からとれるセルロース、ミドリムシが作るパラミロン、虫歯菌の酵素によって試験管で作る多糖類といった自然界に存在している「多糖類」を原料としたプラスチックの開発を進めており、これからもどんどん新しいプラスチックが生まれてきます。そうしたプラスチックを適切な用途で活用しながら、共存していくことが大切です。

 

【プロフィール】

東京大学大学院農学生命科学研究科 教授 / 岩田忠久

フランス国立科学研究センター・植物高分子研究所での留学を経て、京都大学大学院農学研究科林産工学専攻博士後期課程を修了(博士(農学))。2006年・繊維学会賞、2010年・ドイツ イノベーション・アワード ゴッドフリードワグネル賞、2019年・高分子学会 学会賞など受賞歴多数。現在は東京大学大学院農学生命科学研究科・教授として「バイオマスプラスチック」や「生分解性プラスチック」の創製に関する研究を続けている。

 

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