戦後、神棚は急速に姿を消した
戦前の日本では、住宅だけではなく、お店や会社、学校や役所などの公的な場所にも、当たり前のように神棚があったという窪寺さん。
「神棚にまつるのは、天を照らす神様である天照大御神。天照大御神は私たち日本人の総本家とも言える天皇家の神様です。『お天道様のおかげ』という言葉がありますが、これは日本人の謙虚さや信仰心を表した表現ですね。日本人にとって神様は、御先祖様と同様につながりのある存在で、神棚に手を合わせることは先祖代々続いてきた日本人の風習でした。
神棚が急激に減ったのは、1945年第二次世界大戦に敗戦したことが要因です。この年の12月15日にGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が『神道指令』を出し、公的な場に神棚をまつることを禁止してしまいます。今でもこの影響は残っており、公的機関では神棚を購入してまつることができません。警察署や学校などに神棚がまつってあるところもありますが、それはOBや有志が寄付したものなんです」
神棚は“小さな神社”として感謝と祈りを捧げる場所
そもそも神棚は、いつから日本人の生活に取り入れられるようになったのでしょうか?
「おそらく室町時代の頃から、自宅に神様をまつるという風習はあったと思います。庶民に定着したのは江戸時代頃で、明治以降の日本の住まいには欠かせない存在になりました。住居を建てるときに地鎮祭をしますが、これはその土地の氏神さまに家を建てることを報告して、見守ってもらえるように祈る儀式です。そして神棚は、大工さんから新築のお祝いとして施主さんに贈られるものでした。
2011年の東日本大震災が起きたときは、世界中から祈りが届けられましたね。あのとき、日本人の助け合いや譲り合う精神が注目されましたが、私たちには大いなる存在の神や先祖とのつながりを大事にする精神性が血肉に刻まれています。私は震災の3か月後に岩手の被災地に行きましたが、たしかにそこには、苦しい状況でも明るく、笑顔を交わしながら助け合う人々の姿がありました。無事に生きていられることへの感謝と、亡くなった方々や先祖を思う気持ち、復興に向けた祈りのある風景を見て、日本人の信仰心の尊さを感じました」
私たちの心が神棚を求めている?
神社へ行き、神様に手を合わせることは心が清められる行為です。近年、自宅の小さな神社とも言える神棚への関心が高まっているのはなぜでしょう?
「コロナ禍で気軽に神社へ足を運べない今、自宅で神様に手を合わせられる神棚を、日本人の遺伝子が求めているのかもしれませんね。GHQの政策により公の場から神棚がなくなってから70年ほど経過しましたが、日本人の暮らしに神棚が存在している2000年以上の歴史を思えば、一瞬とも言える年月であり、簡単に神棚が廃れることはないのではないでしょうか。
2013年には、20年に一度の伊勢の式年遷宮と出雲大社60年の節目が重なりました。この大きな出来事は、現代の日本人が神社への思いを強めたきっかけのように感じます。また、パワースポットブームも影響がありそうです。神社はパワースポットの代表的な存在だと認識されていますし、神社巡りはとても人気があります。神社が日本人にとってかけがえのない存在であることから、“自宅の中のパワースポット”とも言える神棚をまつりたいという気持ちにつながっているのではないでしょうか」
神棚のある会社は「儲かる」?
最後に、窪寺さんは『なぜ成功する人は神棚と神社を大切にするのか』(あさ出版)という本の著者でもありますが、神棚はビジネスに好影響を与えるというのは本当なのでしょうか?
「会社に神棚をまつったことでビジネスが成功したという事例が数多くあります。もちろん、神棚を取り付けたことで、神様が魔法をかけてくれて成功するというわけではありません。神棚の手入れを怠ることなく、毎日手を合わせる心がけが事業を好転させているのです。銀行の融資担当者が融資をするかどうかを決めるポイントの一つに、会社に神棚があるかどうかを挙げているという事実もあります。神棚をまつることは特定の宗教を信仰するものではなく、『おかげさま』と『ありがとうございます』の精神を持ち、大いなる存在への敬意と感謝を大切にする行為です。そのような信仰心を重んじる経営者は、志が高く、世のため人のために事業を発展させていくことができます。朝から襟を正して神棚に手を合わせる社長の姿勢は、社員にも好影響を与えます。社長の思いが社員に広がり、みなが謙虚な心を持ち、仕事に真心を込めて取り組めるようになっていくのです」
神棚には、正統派、省スペースタイプ、モダン神棚など、さまざまなタイプがあります。自身にぴったりの神棚を選び、神棚のある暮らしをはじめてみてはいかがでしょうか。目には見えないけれど、いつも見守ってくださっている神様や氏神様に手を合わせ、感謝しながら日々を過ごしたいですね。
【プロフィール】
神棚マイスター / 窪寺伸浩
クボデラ株式会社 代表取締役社長、東京神棚神具事業協同組合理事長。東洋大学文学部哲学科卒業。昭和21年創業の老舗木材問屋の3代目として、台湾や中国などからの社寺用材の特殊材の輸入卸を行う。昭和47年から台湾桧を使った神棚の販売を開始。神棚の見識を深める中で、神棚マイスターとしての活動にも力を注ぐように。『なぜ儲かる会社には神棚があるのか』『なせ成功する人は神棚と神社を大切にするのか?』(あさ出版)、『見えない力を味方にして成功する方法 すごい神棚』(宝島社)など、神棚にまつわる著書も多数。
HP=http://www.kubodera.jp
『あなたの部屋に神様のお家を作りませんか』(牧野出版)
1430円
神棚についての知識を深めたい初心者にオススメの本です。ひとり暮らし中の若い女性がふとしたきっかけで神棚を自宅に祀ることにした流れに沿って、わかりやすく解説されています。