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2022/9/8 19:15

過剰な節水は逆効果!? 日本人が知らない「水」という資源をめぐる現状と未来

水道の蛇口から出てくる水が、どこから来ているか知っていますか? また、使った水がどこへ流れていくか知っていますか? おそらく、ほとんどの人が答えることができないのではないでしょうか。

 

毎日のように使っていながら、滅多に考える機会のない「水」のこと。今、世界ではこの「水」が、大きな問題となっています。国連ニューヨーク本部 経済社会局 環境審議官を経て、現在はグローバルウォータ・ジャパンの代表を務める吉村和就さんに、今知っておくべき「水資源の現状と課題」について教えていただきました。

 

水の問題に目を向ける意味とは?

年々、関心の高まるSDGs。その中には、水に関するものとして目標6.「安全な水とトイレを世界中に」も含まれています。しかし吉村さんによれば、水資源とSDGsの関係はそれだけではないのだとか。

 

「水資源の賢い活用が17項目すべての達成につながると、私は考えています。なぜなら、かつて四大文明が川の近くから発展したように、水が人間生活の基本財源と言えるからです。貧困、飢餓、健康は、安全に飲める水や農業に使える水があれば、解消していくことができます。また、教育とジェンダーの平等には、不平等を強いられている子どもや女性の多くが、一日の大半を水汲みに費やしていることが問題のひとつです。そのため、近くに共同水栓ができれば、子供や女性の負担が減り、教育・雇用の機会が得られるのではないでしょうか」

「しかしSDGsに対する興味・関心が高まる一方で、水資源について深く考える人はそう多くありません。海に囲まれ、列島の真ん中に山が連なる日本は、水資源が潤沢です。そのため、日本人にとっては水の存在が当たり前になっているのです」(吉村和就さん、以下同)

 

地球上の水資源のうち、
生活に使える水はたったの0.8%

あまり深く考える機会のない水資源ですが、実は世界規模で考えるとさまざまな問題が起こっています。なかでもとくに問題視されているのが「水不足」。一体何が起こっているのでしょうか?

 

「正確に言うと、水の量は減っていません。地球上には14億立方キロメートルの水資源があり、それらは気体(水蒸気)、液体(海水と淡水)、個体(氷山)の3つに分けられます。それが、地球温暖化の影響で個体(氷山)が溶け、液体(海水と淡水)が蒸発し、気体(水蒸気)の割合が増加しているのです」

「水の状態は一定ではなく、地球の温度や自転によって変化します。これまでは気体(水蒸気)が雨や雪に変わり、液体(海水と淡水)と個体(氷山)へと戻っていました。そして私たちは、液体(淡水)を生活に使ってきました。しかし気体(水蒸気)が増えると、雨や雪ではなく局地的な大雨や台風などの異常気象による自然災害を引き起こします。その上、その水は生活に使うことができません。

 

その結果、いま地球上にある水資源のうち、生活に使える水はたったの0.8%しかなくなっています。地表面にあり、安全ですぐに飲むことができる水に限ると、0.01%しかありません。つまり水不足=私たちが生活に使うことができる水の量が減ってしまうということなのです」

 

水不足になって困ることは、
飲み水の不足ではない

2022年7月11日、国連人口基金は「2022年11月に地球人口が80億人を突破する」と発表しました。さらに「そのうち32億人(約40%)が水不足に直面する」と予想しています。日本に住んでいると少し縁遠い話のようにも感じますが、水不足になると具体的にどういったことが起こるのでしょうか?

「水と聞くと飲料水や生活用水を思い浮かべる方が多いと思いますが、実は世界における水需要の割合は、農業用水が70%、工業用水が20%、生活用水が10%です。そのため、水不足に陥った際、農業にもっとも大きな影響が出てきます。2番目に多い工業用水とは産業活動に使われる水のことで、なかでも電気などのエネルギーをつくる際は、蒸気や冷却水が欠かせません。さらに地球温暖化の影響で冷却水の温度が上がっているため、これまでよりも多くの水が必要になっています。このように、水不足が深刻化するとエネルギーの供給にも影響が出てきます」

 

日本も安泰じゃない!
水道事業が直面する3つの問題

水資源を取り巻く諸問題。それは日本も例外ではありません。実は、安全な飲み水が確保されている日本ならではの問題が、まさに今起こっているのです。

 

「日本の水道普及率は98%と、世界でもトップレベルを誇ります。しかし現在、日本の水道事業には『ヒトなし・モノなし・カネなし』という3つの問題が渦巻いています」

 

ヒトなし
高齢化によりベテランの水道技術者が退職。技術を継承する若手も不足している。

モノなし
日本の水道設備は、戦後の高度経済成長期にあたる1955~1973年に一気に普及。約40年が過ぎると老朽化していくため、交換が必要な設備が年々増えている。

カネなし
人口減少に伴い、水道料金の収入がここ10年で約2千億円減少。老朽化した設備を交換することができない。また、地球温暖化の影響で水道原水に微生物が増え、今まで以上にろ過に費用がかかっている。

 

「非常に厳しい状況が続く水道事業。追い打ちをかけているのが、節水機能のついた電化製品の普及です。実は水問題の観点から言うと、節水はあまり推奨することができません。というのも、使用する水の量が減ると、おのずと水道事業体に入るお金も減ってしまいます。水道には国費が使われておらず、すべてを水道料金でまかなっているため、水道料金による収入が減れば減るほど、設備の改修などに使えるお金も減ってしまうという側面があるのです」

 

未来の水資源のために
「水・食料・エネルギー」を三位一体で考えよう

これまで私たちは当たり前のように水を使ってきましたが、今後も同じ使い方をしていけば暮らしに影響が出てくる可能性も否めません。日本の水資源の未来のために、何をすべきなのでしょうか?

 

「水資源の未来を考える上で大切なのは“水と食料とエネルギーを三位一体で考えること”です。再生利用可能な資源をうまく循環させ、効率的に使うことが最高のSDGsと言えるのではないでしょうか。

例えば、国土交通省は2013年から『BISTRO下水道』を推進しています。これは再生水、汚泥肥料、二酸化炭素などの下水道資源を農作物の栽培に利用する取り組みです。『食べ物に下水を使って大丈夫なの?』と心配になる方もいるかもしれないですが、下水道資源には窒素やリンなどの農業に有用な物質がたくさん入っています。むしろ最高の肥料とも言えるのです。

また、私は水を地域で循環させることも、日本の水資源の未来を守る上で有効な策だと考えています。というのも、水は浄水場から管を通って各家庭へと運ばれていきます。当然、水を運ぶにはエネルギーが必要であり、エネルギーを使えば使うほど水資源も消費してしまいます。各地域で水をつくり、使い、処理することで、最低限のエネルギー消費に抑えられるのではないでしょうか。

実はこれをうまく行っていたのが、江戸時代なのです。当時は山や川を境目に地域が分けられており、雨が降ると、山の高低差や川の流れなどの自然の力で地域内を循環していました。エネルギーを使わずにきれいな水を使える、まさに地産地消として理想的な水循環の形です」

 

「そして、皆さん一人ひとりにも、水と食料とエネルギーを三位一体で考えていただきたいと思います。たとえ節水をしても、エアコンでエネルギーを消費すれば、結局たくさんの水を使ったことになりますよね。“点”ではなく“線”で物事を考えて、水を賢く使っていきましょう」

 

【プロフィール】

グローバルウォータ・ジャパン代表 / 吉村 和就(よしむら かずなり)

大手エンジニアリング会社で営業、開発、市場調査、経営企画に携わり、1998年より国の要請で国連ニューヨーク本部に勤務。環境審議官として発展途上国の水インフラの指導を行った。その後、グローバルウォータ・ジャパンを設立し、各種メディアや講演を通じて水問題について判りやすく解説している。著書に『世界と日本の水事情』(水道産業新聞社)、『最新水ビジネスの動向とカラクリがよ~くわかる本』(秀和システム)、『水に流せない水の話~常識がひっくり返る60の不思議~』(角川文庫)など。
グローバルウォータ・ジャパン HP

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