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2020/3/10 22:00

ブンデスリーガの若きビジョナリー、ユリアン・ナーゲルスマンが「iPad」でサッカーを変える

世界で最も人気があるスポーツのひとつ、サッカー。ゴールラインテクノロジーやビデオ判定など最先端テクノロジーの導入に関しては、ラグビーやテニスなどと比べると、かなり慎重でしたが、それはもう昔の話。例えば現在、ドイツのブンデスリーガは新たなテクノロジーを積極的に導入しています。社会のデジタル化が進む今日、ドイツのサッカー界はどう変わりつつあるのでしょうか? 本稿ではその取り組みを紹介します。

↑サッカーもどんどんデジタル化

 

ブンデスリーガは全試合を細かく分析して、すべてのデータをクラブに提供していますが、クラブでも最新テクノロジーは使われています。例えば、練習中にドローンカメラで録画された各選手の動きがデジタルに変換され、すぐにコンピューターへ送信。その映像は様々な角度から分析されるうえ、上空から撮影した映像は戦術やフォーメーションを組み立てるときにも使われています。

 

最新テクノロジーを使った分析では、選手やチームのパフォーマンス(スペースの管理、プレスのかけ方、パス数など)だけではなく、各選手の調子や健康状態も対象になっています。ドイツ体育大学ケルンのメンメルト教授によると、人間が動画を解析すると6時間程度かかってしまうのに対して、コンピューターでは7秒以内に処理が終わるとのこと。このようなデータは、あればあるほどよいと言われています。

 

このようなビッグデータに基づいた分析から、最適なトレーニングメニューやフォーメーション、戦略を導き出すことも可能です。しかし大事なのは、各クラブがテクノロジーをテーラーメイドすること。クラブによってサッカーに対する考え方や選手、試合数などが異なるためです。全クラブが強豪バイエルンの真似をしたところで、バイエルンのようになれるわけではありません。

 

ブンデスリーガでテクノロジーを最大限に活用しているのは、わずか28歳で同リーグ最年少監督となった現在32歳のユリアン・ナーゲルスマン氏(RBライプツィヒの現監督)でしょう。彼は2016年に監督として初めて指揮したホッフェンハイムを、残留争いを演じるクラブから上位を争うクラブへと激変させたのです。

 

そんなナーゲルスマン氏がチームを立て直すためのソリューションとして注目したのがテクノロジーでした。彼が監督に就任する前から、ホッフェンハイムは最先端テクノロジーを使えるポジションにいたそうですが、それを使いこなそうとする監督やコーチが不在だったそう。しかし若いナーゲルスマン氏だけは、テクノロジーを生かしてチームを再建するプランを描いていたと言われています。

 

例えば、彼はパスの精度やボールタッチを向上させるためのトレーニング施設「フットボナウト」をホッフェンハイムに導入した一方、選手たちを指導するときにはiPadを使っています。コーチ陣は、iPadで操作できるカメラを練習場に4台設置し、そのライブ映像をiPadのスクリーンで流せるようにしました。iPadでは選手たちの動きをハイライトしたり、監督が伝えたいことを書き込んだりすることも可能。

 

さらに目を引くのが、ホッフェンハイムの練習場に6m×3mの巨大スクリーンを導入したこと。練習時に監督が指示を出すときは、いったんプレーを止めて、監督のところに選手たちを集めることがありますが、巨大スクリーンを使うことにより、選手たちにその場でフィードバックを送ることができるようになりました。

 

iPadや巨大スクリーンの活用でわかるように、ナーゲルスマン氏は視覚化することで目的を明確にすることを重視しています。ホッフェンハイムでは「インターアクティブ・データ・スペース」という会議室もあり、そこでは壁一面に広がる大画面や様々なガジェットを使って、選手たちをデジタル空間に“没入”させながらプレーを視覚化する取り組みも行われている様子。

↑ VRでプレーを視覚化

 

このように、ナーゲルスマン氏は現在広く普及したデバイスを使ってトレーニングにイノベーションを起こしました。ホッフェンハイムの元選手は「彼の練習方法はとても面白い経験だったし、これほど頭を使う練習は初めてだったよ」と述べています。

 

時代の流れとはいえ、ブンデスリーガで起きているデジタル化に対して疑問がないわけではありません。テクノロジーによって選手一人ひとりが細かく管理されているため、選手によっては息苦しさを感じるのではないか? 選手たちの感覚や創造力にはどのような影響を与えるのか? AIがビッグデータを操りながらコーチングをすることはあり得るだろうか?

 

テクノロジーは、従来ではサッカーと全く関係なかった人たち――IT技術者、統計学者、データアナリスト――もサッカー界に連れてきています。このような専門家たちは、ほかの業界でも大改革を起こしているキープレーヤーたち。上記の問いに対する答えは、科学技術の使者たちが明らかにするのかもしれません。

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