【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】
文房具をこよなく愛す、放送作家の古川耕氏。雑誌『GetNavi』で通算101回を数えた長寿連載「文房具でモテるための100の方法」を完走したのち、心機一転、「手書き」をテーマとした新連載をスタートする。デジタル時代の今だからこそ、見直される手書きツール。いったいどんな文房具の数々が披露されるだろうか。
第1話
三菱鉛筆
朱・藍鉛筆
792円(1ダース/12本入り)
赤(朱)芯と青(藍)芯を合わせた鉛筆。赤と青の比率は5:5と7:3の2通りある。久米さんが使われたのは、木の端材で作られた「リサイクル」鉛筆シリーズの5:5タイプ(写真下)。赤青鉛筆と呼ばれることも。
人によって削られた鉛筆の美しさを再認識
TBSラジオで13年以上続いた「久米宏 ラジオなんですけど」が、この6月に最終回を迎えた。久米さんの相方を務めていたTBSアナウンサーの堀井美香さんがその生放送直前、こんな文章を写真と共にツイッターに投稿していた。「真正面の久米さんはいつもこの風景でした。青エンピツ、チョコレート、紅茶。そしてきっちり揃えられた原稿」
久米さんは、番組当初から自分にしか読めないような文字を台本にちょこちょこ書き込んでいたらしい。テレビキャスター時代はテレビ映りを気にして高級ボールペンを使っていたそうだが、ラジオでは素朴な赤青鉛筆を好んで使い続けていたそうだ。
スマホでじっと写真を見つめているうち、たまらなくなって近所の店に出かけたら、赤色の比率と青色の比率が7:3の「朱藍鉛筆」があったので買ってみた。早速両端を削って使い始めたら、これが思った以上に……扱いづらい。印刷指定等に使う青鉛筆は、黒芯より筆滑りが悪く色が淡い。おかげで最後まで集中して書くので文字が少しだけ綺麗になった、気がする。結果、青のほうが消費ペースが速いというのは計算違いだったが、楽しみながら使っている。
最終回の放送でも久米さんは相変わらず明晰で、優しくて、写真に写った赤青鉛筆そのものだった。ボールペンでもサインペンでもなく、人の手によって削られたその鉛筆は、確かにとても美しかった。