文房具
2021/7/26 19:15

文房具はただの道具から楽しむ趣味へ! 文具ソムリエールが解説する「女子文具沼」の世界

文房具は、物を書いたり工作したりするための“道具”。仕事でもプライベートでも、暮らしに欠かせない存在です。これまでは、機能や性能に裏打ちされた実用性を追求する文房具が注目を浴びがちでしたが、最近では女性をターゲットにした“カワイイ”文房具=女子文具がたくさん登場しており、もともと文房具に興味がなかった人からも、熱い視線を浴びています。

 

文具ソムリエールの菅未里さんに、最近の文房具トレンドと“女子文具”の魅力について教えていただきました。

 

カラーバリエーション豊かな文房具の時代へ

「文具女子」という言葉が登場したのは、2010年代頃から。もともと万年筆など趣味性が高い文房具ではデザイナブルなものがありましたが、一般的には何かをするための道具にすぎなかった文房具が、この頃を境にシフトチェンジしていったそう。

 

「『文房具が好き』っていう気持ちが理解されない時代があったんです。文房具というと、好きとか嫌いとかいう感情のあるものではなくて、“必要だから買うもの”でしょう? と。『ボールペンが好きで集めているなんて、不思議だね』というところから、少しずつ“文房具を趣味で集める”という感情が世の中に受け入れられていったのが、2010年代後半あたりから。それに呼応するように、“女子用はピンク、男子用は黒か青”と決まりきったカラーリングしかなかった文房具の色に、バリエーションが増えていきました」(文具ソムリエール・菅未里さん、以下同)

 

機能や見た目もさることながら、この10年でもっとも変化があったのは文房具の色。もともとピンクといえばやや子どもっぽい薄ピンク一種類しかなかったものが、グレーピンクやサーモンピンクなどと細分化されていきました。

 

「ピンク色は、もともと人気がありますし、たしかに文房具としても売れ行きのいい色なんです。でも、ひと昔前までは『とりあえずピンクにしただけ』と感じる色味しかなく、物足りないものでした。近年は、メーカーさんが『ピンク色にもさまざまな色味がある』ということ理解して商品を開発されています。たとえばオフィスでも使えるような淡くて柔らかく、あまり目立ちすぎないピンクもあり、仕事の場においても気持ちが明るくなる文房具を選べるようになりました」

 

慣例に逆らって生まれた爆発的ヒット

菅さんが文房具のカラーリングで印象に残っているのは、2016年に発売されたプラスの「Pasty(パスティ)」というクリアファイルシリーズだそう。それまで原色ばかりだったファイルに、淡くかわいらしいパステルカラーのファイルが登場したのです。

 

「女子高生にアンケートを取って商品化したもので、パステルカラー8色で展開されました。ファイルに原色系しかなかったのは、実は商品の陳列棚に大きな関係があるんです。新商品のうちは“面出し”といって、表紙がよく見えるように陳列してもらえるのですが、しばらくたつと棚に背表紙を見せるように並べて販売されます。その際、淡い色では目立ちにくく消費者に選んでもらえない、という懸念から、ファイルは強い色で作られてきたんです。

 

そんな従来の常識を覆したPastyは、女子高生の間で人気となっただけでなく、医療機関からの支持も大きかったといいます。病院や薬局などの内装は淡い色が多いので、その雰囲気に合うファイルとして選ばれたんですね。展開色の選び方も独特で、ピンクもピーチピンク、ラズベリーピンク、チェリーピンクと3色ありました。カラーペンでは数種類のピンクが用意されることがあっても、ファイルで3種類のピンクを発売するのはとても珍しく、画期的な試みだったと思います」

 

2017年に始まった「女子文具博」は右肩上がりの大盛況

↑文具女子博公式サイトより

 

「女子文具博」は、日本最大級の文房具の祭典で、おしゃれな最新文房具を出展メーカーが即売するイベント。2017年にスタートし、今年で5回目となりました。従来、文房具の流通にはメーカーと消費者の間には“問屋”が存在するので、消費者とメーカーがダイレクトにつながる場の創出は、実は業界的に難しいものだったといいます。

 

「そんな中での船出でしたが、1回目から大きな注目を集めて大成功を収めました。2回目からは大手メーカーも参入するようになり、イベントの成功に呼応するように、ますます熱が高まってきています。はじめこそ文房具好きの間で話題になる程度にすぎませんでしたが、今ではもともと文房具が好きだった方以外からも、ただかわいいから集めたい、使いたい、という声が上がっているんです。“文房具が好き”という感情が理解されなかったときを知っている者としては、最近『わたしも文房具好きなんです』って声をかけられることがうれしくて。時代が変わってきたんだなという実感があります」

 

若い世代は文房具とデジタルツールを上手に使い分けている

文具女子博には20~40代くらいの女性が多く足を運んでいるそうですが、気になるのはデジタルネイティブと呼ばれる世代の若年層でも、文房具に注目している人が増えている点です。

 

「文房具の競合はデジタルツールだと思われがちなんですが、実はそんなことはないんです。もちろんスケジューリングやSNSなど、デジタルテクノロジーを難なく使いこなせる年代だと思いますが、一方で文房具にしかない楽しみも知っているんですよね。たとえば仕事の予定などの実用性が必要な部分はデジタルで管理していても、プライベートな予定や日記は手帳に書いたり、シールを貼ったりして楽しんでいることもあります。また、買ったものや“推し”ている文房具を写真に撮り、SNSにアップして共有する……ということもたくさんの方がされていて、文房具というアナログの世界とデジタルを上手に使い分けていらっしゃるんです」

 

2021年の最新「女子文具」トレンド10

それでは今、文房具を楽しむ女性たちの間では、どのような文房具が流行しているのでしょうか? 注目の商品とともに傾向をまとめていただきました。

 

1. 何といっても「メロンソーダ柄」が人気!

2年前あたりから人気色となったのがミントグリーン。“女子なら暖色系”という常識を覆し、現在はグリーンが映えるメロンソーダ柄がトレンドなのだそう。「昭和レトロ柄に流行がきていて、食のトレンドでも純喫茶やレトロな風合いに加工した写真が人気です」

 

マインドウェイブ「マスキングテープ ダイカット メロンクリームソーダ」
360円+税

「トレンドのメロンクリームソーダ柄が、波打つダイカットでさらにかわいくなった商品です。手帳や封筒、便箋などに貼ってデコレーションするのが楽しそう」

 

カミオジャパン「めくってかわってFUSEN クリームソーダ」
380円+税

「24枚入りの付箋は、さまざまな色の絵柄で構成されていて、飽きのこない作りになっています。淡い色でレトロな雰囲気が人気の理由です」

 

2. 各メーカーから出揃った「パン柄」も引き続き好調

トーストのアレンジやメロンパン、あんぱん、フルーツサンドなど、パンをモチーフとした付箋やシールなどが、各社から発売されています。「パン柄の文房具だけを集めている方もいますし、とにかくあらゆるものが発売されています。ちょっとしたメモ帳もパン柄だとうれしくなりますよね」

 

figpolkadot(フィグポルカドット)「パンをスライス出来るカード パンの朝食セット」
365円+税

「イラストレーターやがわまきさんのオリジナルステーショナリー。いろいろなパン柄のものがありますが、パンをスライスできるお楽しみつきがかわいいカードです」

 

figpolkadot(フィグポルカドット)「フルーツサンドラッピングペーパー」
370円+税

「こちらもfigpolkadotのもので、ラッピングに使ったりブックカバーにしたり、さまざまな用途で楽しめるペーパー。ぽってりとしたクリームといちごがおいしそうですよね」

 

3. 和名、くすみなどの「ニュアンスカラー」がブーム

これまでにあったいわゆる色鉛筆のような色味から、くすんだものや複雑な色合いが引き続き根強い人気となっています。
「万年筆のインクブームに象徴されるように、カラーの豊富さは文房具への熱をより高めています。彩度が低く渋みのある和名の色や、絶妙な色が多く、個性がありながらも仕事場でも持ちやすいのがメリットです」

 

カミオジャパン「日本の色見本帖付箋 じゃばら折り」
450円+税

「さまざまなサイズの付箋がひとつにまとまっていて、使い勝手がよいアイテムです。柔らかい色味で仕事でもプライベートでも使えるのがうれしいところ」

 

セーラー万年筆「SHIKIORI ―四季織― マーカー」(全20色)
200円+税(1本)

「春夏秋冬それぞれをイメージした5本のカラーが楽しめる水性マーカーです。春なら若鶯・桜森・夜桜・匂菫・海松藍と微妙で複雑な色合いで、手帳のデザインも楽しめそう」

 

シヤチハタ「いろもよう」(全24色)
650円+税(1色)

「色の名前を見ているだけでもうっとりしてしまうインクパッド。ブルーだけでも、水色、露草色、縹色、浅葱色、瑠璃色と5種類あります。くっきりと乾きやすいのもシヤチハタならではです」

 

4. クリアカラーで中身が見える作りにときめく!

中身が見えるタイプのペンケースは過去にもありましたが、“そうまでして見せたい文具がなかった”というところがこれまでとは違うところ。「今はかわいいペンや付箋などがたくさんあるので、透明なペンケースにして中身を見せたいという気持ちが強くなったんですよね。YouTubeで取り上げられたことから注目を集めています」

 

キングジム「チアーズ ツインペンケース」(全5色)
1250円+税

「人気のPVC素材で作られたペンケースは、マグネットでくっついています。中央からパカッと割るようにひらくことができる部屋構造になっているので、ペンと定規や付箋などを分けて入れられます。かわいい文房具をしまっておきたくなりますよね」

 

ぺんてる「エナージェルインフリー」(全10色)
200円+税

「インクの色が見えるクリアな軸を採用したゲルインクボールペンです。10色展開で鮮やかな色が多いのですが、色味によってはオフィス用にするなど使い分けられます」

 

5. ダイカットでこれまでにない新しいカタチに

ダイカットとは、金属板で作った型(ダイ)を使って、さまざまな形にくり抜くカット方法のこと。従来の直線や曲線で作られたものではなく、キャラクターや柄に合わせた複雑な形の付箋やメモ帳、シールなどがあります。「ダイカットの付箋やマスキングテープは、メモしたり貼ったりという機能的な使い方をするというより、手帳をデコレーションしたり集めたりして楽しんでいる方が多いようです」(写真右下は、前出のマインドウェイブ「マスキングテープ ダイカット メロンクリームソーダ」)

 

キングジム「KITTA トロミ」
480円+税

「マスキングテープですが、ロール状ではなく一枚一枚がカットされていて、使う時はぺたっとシールのように貼れるタイプ。ひとつに3種類のカラーがセットされています。しおり代わりにしたりチェックした部分に貼ったりするのにかわいいダイカットです」

 

ほかにもトレンドのトピックはいろいろ。引き続き菅さんに解説していただきます。

 

6. シリコン素材は汚れが気にならない

布や革製品が多いペンケースも、シリコン素材だとサッと拭きやすく、心地よく使えます。コロナ禍では除菌シートで汚れを拭き取りたい気持ちも現れているのかもしれません。「これまでは、ツルツルした素材で指紋や汚れが気になるものが多かったのですが、ホチキスカバーや穴あけパンチなどでも、指紋がつきにくい素材のものが増えてきています」

 

7. ペンは消えるタイプが優勢!細く描きやすいものがおすすめ

ペンはここしばらく、“消せる”タイプのボールペンが主流となっています。ボールペンというと、以前は油性のイメージだったのが一変しました。「また、細い文字が書けるものが人気で、ペンの胴部分だけでなく、クリップや口金の部分までがクリアカラーになっているペンも人気があります。ペンをクリアカラーにすると、バネや接続部分が見えてしまうので、技術の向上がクリアカラーを実現させたのだと思います」

 

8. キッチン用文具が使い勝手がよく重宝

文房具は通常、仕事や勉強などで使うことを想定していますが、最近ではキッチンで使いやすく役立つ文具がさまざま登場しています。「たとえばお便りやハガキなどをまとめて冷蔵庫に貼れるファイルや、冷凍や冷蔵ができるラベルテープなど、机から離れた場所でも使える文房具が注目されつつあります」

 

9. 子育てをサポートする文具が日常を楽しくする

“書く、貼る”など文房具本来の機能に加えて、ここ3年くらいの間で“子育てをサポートしてくれる”という軸を持った文房具が開発されているそう。「子どもが忘れ物をしないようにするホワイトボードや、うまくスケジュール管理ができるような手帳やノート、お片付けがじょうずにできるファイルなど、お子さんの育ちをサポートする文房具が日々の生活に役立つと人気が出ています」

 

10. 好みのものを作る文具クリエイターにも注目

最近はオンライン販売できる場が多く、個人でも文房具を制作している方が増えてきています。機をとらえて、素早く小ロットで作ることができるのが魅力です。「ペンを作るのは個人には難しいのですが、紙ものやシールなどはデザイン系の方や趣味で作っている方もとても多く、人気のイラストレーターさんや作家さんもいらっしゃいます」

 

 

巣ごもりに在宅ワークと、ライフスタイルや働き方が変わるなか、プライベートはもちろん仕事でも、他人の目線を気にせず自分にとって快適な過ごし方をしたい、というマインドが高まっている昨今。デスクの周りにお気に入りの文房具を取り入れ、自分が満足できる空間や時間を手に入れてみてはいかがでしょうか。

 

【プロフィール】

文具ソムリエール / 菅 未里

大学卒業後、文具好きが高じて雑貨店に就職し文房具売り場担当となる。現在は、商品企画、売場企画、文房具の紹介、コラム執筆、企業コンサルティングなどの活動を行っている。著書に『毎日が楽しくなる きらめき文房具』(KADOKAWA)、『文具に恋して。』(洋泉社)がある。
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