文房具総選挙2025で大賞を受賞した、自分の“頑張り”を可視化するペン。前代未聞のIoT文具は、手痛い失敗と挫折をきっかけに得られた圧倒的な顧客理解がヒットの糸口となった。

●コクヨ イノベーションセンター IoT事業戦略ユニット やる気ペングループ中井信彦さん/大阪府出身。大学院で生物物理学を専攻、1999年シャープへ入社。液晶パネルの研究開発などに携わり、2013年にコクヨへ転職。以来、デジタル文具の企画開発を手掛けている。
【中井的ヒットの流儀】
1.「ユーザーがどう幸せになるのか」をイメージする。
2.そのイメージをゴールに設定しチームで共有する。
3.常識を疑い、常識を覆すテーマを考え抜く。
4.自分の可能性にワクワクできる人を増やす。
1年かけて構想したのにニーズがなかった……

「文具っていつの時代も、ユーザーたちを幸せにしている分野だなと思っていました」
中井信彦さんの前職は液晶パネルの研究。テレビからスマホまで、暮らしの隅々へ液晶が普及していった黄金期を支えてきた中井さんにとって、文具界のフロンティアを手掛ける未来は順当なようにも思える。しかし入社後数年は悶々とした日々。
「長らく研究畑にいたので、お客様の手に届く商品を作りたい思いが強かったのですが、配属はアプリを活用したサービスの開発現場でした」
当時はデジタル文具そのものが黎明期で、業績はふるわなかった。風向きが変わったのは2015年ごろ、IoTの言葉がメディアに踊り始めた時期だ。
「文具と家具に続く第3の柱を作るべく、デジタル製品に特化した部署ができました。そこで出てきたのが見守りペンというアイデア。共働き夫婦が増えるなか、子供が勉強しているか外から確認できるスマホアプリ連携のペンです。“世界初のIoTペン”を謳えたらキャッチーだろうとチームも盛り上がって」
すぐに構想をまとめ、1年かけてプロトタイプを制作。しかし、予想外の壁にぶつかる。
「小さなお子さんを持つ親に、子供の学習を見守れていますか?というアンケートを取ったら、ほとんどの親から『見守れています』って答えが返ってきちゃった(笑)。つまり、ニーズがなかった。社会課題を自分たちの都合の良いように解釈して、誰も欲しくないものを作ろうとしていたんです」
自信消失した中井さんは、あるビジネス書で“幸せな顧客”という言葉に出会う。
「成功するあらゆるビジネスモデルは、(未知の幸せに)気づいていない訪問者(顧客)がその会社の製品やサービスを体験し、その後幸せな顧客になると。これを読んだときにドキッとして。僕は見守りペンの企画で、誰が何のためにどう使うかという利便性の部分ばかり考えて、使った家族がどう幸せになるのかを全く想像していなかった」
テストの点数や昇進、目に見える結果ばかりが評価されるこの世界で、自分のがんばりを評価してくれる存在。『やる気ペン』シリーズは学習で得られる結果ではなく、その人自身のやる気にフォーカスしている。
「子供に楽しく学んでほしい、ガミガミ言わずに寄り添ってあげたい、そこに日々心を砕いている親御さんの気持ちと、子供の監視ツールにすぎない見守りペンのコンセプトはむしろ真逆。子供だって親が喜ぶ顔を見たいし、親も本当は我が子を怒りたくない。このすれ違いを解くことにチャレンジしたいという確固たる信念が、チームの中に生まれました


子供は毎日楽しんで書き、親はその成果を褒める。このサイクルを自然に生み出すツールとして、まず『しゅくだいやる気ペン』が生まれた。しばらく経つと、大人のユーザーも現れ始めた。特に資格勉強に使っているという声が多かった。
「さらにインサイトを探ると、学ぶ理由の部分は共通していました。それが、日々成長していないと不安になるという気持ちだったんです」
先行き不透明な時代に何かを勉強したいと思っても、大人には時間がない。勉強したところで、誰かが積極的に褒めてくれるわけでもない。
「大人が学びを続けるには、成長実感が持てたらいいのか? いやいや、そのもっともっと手前にある、何かをやってみようという1%の努力みたいなものだろうと。『大人のやる気ペン』の機能は、これをどう支えるかに全振りしています」

↑書くほどに溜まる“やる気パワー”でやる気の木が成長。スゴロクを進めると仲間に出会えたり、アイテムがもらえたり、勉強への取り組みを記録・分析する様々な機能で大人の努力を可視化し支持された。
望む結果さえ得られれば人は幸せになれるのか? やる気ペンシリーズ成功の鍵は、そんな常識を疑い、それを覆すテーマを見つけることにあった。
「情報やコンテンツが大量に手に入っても、現代人はそれを消化するのに精一杯。そこから何かを学ぶ実感や喜びはむしろ希薄化したように思います。これからは外側から何かを得るのではなく、自分の中にある可能性にワクワクできるような体験や実感が求められる時代。デジタルの力で今まで見えなかった価値を可視化するということに、僕はその重要なヒントがあるような気がしています」


コクヨ
大人のやる気ペン
9900円
わずか8gと軽量でコンパクトなデバイスを、ボールペンや鉛筆、スタイラスペンなどいつもの筆記具に装着するだけ。スマホと連携し、専用アプリに蓄積されたIoTデータで努力が可視化されることで、“大人の勉強”が陥りやすい孤独感からの脱落を抑制する。Makuakeで先行販売され、目標達成率は6900%に達した。
【ヒットした理由】頑張りを可視化してモチベUP!
書くほどに溜まる“やる気パワー”でやる気の木が成長。スゴロクを進めると仲間に出会えたり、アイテムがもらえたり、勉強への取り組みを記録・分析する様々な機能で大人の努力を可視化し支持を集めた。
※「GetNavi」2026年2-3月合併号に掲載された記事を再編集したものです。
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