冒頭の写真は、富士山に向かって走るJR東日本の189系電車。富士急行線内に週末、「ホリデー快速富士山号」として乗り入れていたときの“雄姿”である。だが、もうこの姿を見ることが出来ない。「あずさ色」の189系M50編成が1月25日のラストランを最後に引退してしまったからだ。
2017年から2018年にかけて、多くの新車が導入された。その一方で、“古豪たち”が舞台から去っていく。新車が増えるということは、引退する車両の増加にも結びつく。この春、静かに消えていく“古豪”に注目した。
1.いまや希少な国鉄形特急電車189系も残りわずか
JR東日本の189系は、高い位置に運転台がある国鉄形特急電車の姿を残す貴重な車両である。前述したように「あずさ色」のM50編成がすでに引退。残る189系は6両×3編成となった。気になる今後だが……。
残る189系は国鉄原色塗装のM51編成、グレードアップあずさ色のM52編成、もう1編成はあさま色のN102編成のみとなった。
残る3編成の気になる今後だが、JR東日本八王子支社のニュースリリースによると、「ホリデー快速富士山号」にはM51編成が3月11日まで、M52編成が3月16日まで使われる予定。3月25日にM51編成とM52編成による新宿駅〜甲府駅間の団体臨時列車が運行されることが発表されている。
残念ながら数少ない189系の活躍の場でもあった「ホリデー快速富士山号」には3月17日以降、E257系が使われることになった。3月25日以降の189系はどうなってしまうだろう。いまのところ発表は無い。1970年代から40年にわたり走り続けてきた強者たちの今後が気になるところだ。
2.誕生してから25年で消えるE351系「スーパーあずさ」
JR東日本の車両形式名の多くには頭に「E」の文字が付く。EASTという意味で付けられたこの「E」。最初に付けられた車両がE351系だった。中央本線の優等列車、特急「スーパーあずさ」として活躍してきた車両だ。E351系は1993(平成5)年に登場し、車歴は25年と、それほど長くない。ところが、このE351系も2018年3月のダイヤ改正で消えてしまう。
筆者は制御付き自然振子装置を取り付けたE351系「スーパーあずさ」の軽やかな走り、カーブで適度に傾斜して走る時の感覚や乗り心地が好きだった。まだ四半世紀しか走っていない車両だが、通常の車両よりも複雑な制御付き自然振子装置を備えるだけに、整備の手間や諸経費が問題となったようだ。廃車と報道されているが、車歴が浅いだけにちょっと惜しいようにも感じる。
3.関東ではいよいよ見納めとなるJR東日本の115系
115系は1963(昭和38)年に誕生、寒冷地用、急勾配路線用に2000両近くが造られた。いわば国鉄時代の近郊形直流電車としてはベストセラー的な車両で、多くの路線で活躍してきた。
115系は上越線や信越本線などがある高崎地区でも長く活躍。なんと54年にもわたり輸送を支えてきた。そんな115系もこの3月中旬で定期運行が終了する。3月21日(祝日)に走る団体向け専用列車が最後となる予定だ。
関東地方周辺の115系は、今後も新潟地区や、しなの鉄道で走り続けるが、お馴染の湘南色で、半世紀にわたり走り続けてきた車両が消えてしまうことには、一抹の寂しさを覚える。
4.独特の形状“スラントノーズ”の特急形気動車が消える
関東地区の車両の話題が続いたが、次は北海道の車両の話題。JR北海道の特急として35年にわたり活躍してきた特急形気動車に、キハ183系という車両がある。この基本番台は運転席が高い場所にあり、ノーズの形状が独特で“スラントノーズ”と呼ばれ親しまれてきた。
すでに通常塗装のキハ183系基本番台の定期運行が終了。3月25日をもってキハ183系を使った「旭山動物園号」も運転終了となる。残るキハ183系は後期形のみ残るが、こちらは前面が平坦なタイプ。石北本線を走る特急「オホーツク」「大雪」のみでの運用となるが、こちらも2019年度での運用終了がすでにJR北海道から発表されている。
このキハ183系基本番台だが、クラウドファンディングによる寄付を募り、貴重な車両を保存しようという運動が行われている。1両は道央の安平町に2019年にできる「道の駅あびらD51ステーション」での保存が決定した。さらにもう1両を「安平町鉄道資料館」に保存しようという運動も高まりをみせている。
5.静かに消えていきそうな東急の通勤電車
特急車両のように注目を浴び、惜しまれつつ消えていく車両がある一方で、静かに消えていきそうな車両もある。たとえば東急電鉄の田園都市線を走る2000系と8590系がその一例だ。
東急電鉄の田園都市線の主力車両といえば8500系。1975(昭和50)年に誕生した古参ながら、いまもなお多くが活躍している。この田園都市線に2018年春、2020系という新車両が登場する。
この新車の増備につれて引退すると見られるのが2000系や8590系だ。両車両とも8500系に比べて生まれてからの車歴は浅いものの、車両数が少ない。保安機器の関係で東武伊勢崎線への乗り入れができないこともあり、現在は、朝と夕方の混雑時間のみ田園都市線と東京メトロ半蔵門線内のみを走っている。
乗ったり見たりする機会が少ない車両だが、もし出会ったら注目しておきたい。
6.鉄道ファン注目の都営新宿線10-000形も消えていく
1978(昭和53)年の都営新宿線の開通時から走ってきた10-000形(いちまんがた)。徐々にスタイルを変えつつ1997(平成9)年まで製造された。その最終盤に造られた10-000形8次車の世代で、最後に残った10-280編成も、この1月から「さよならステッカー」を付けて走り始めている。都営地下鉄新宿線と、相互乗り入れする京王線が2月22日の同じ日にダイヤ改正を行うことから、これを機会に引退となりそうだ。
都営新宿線の10-000形だが、一部の鉄道ファンからは消えるのを惜しむ声があがっている。その理由は10-000形8次車がチョッパ制御と呼ばれるシステムを使った、国内最後の新造車両だったため。チョッパ制御自体の説明は避けるが、中央線などを走ったオレンジ色の201系が採用した当時の最新技術で、その後の電車の制御方法の礎(いしずえ)となった技術でもある。
現在のVVVFインバータ制御が一般化する少し手前の、車両開発のいわば過渡期の電車と言っても良いかもしれない。
7.そのほかの今後が気になる車両を紹介
ここまでは、この春にほぼ引退が決定的、または予測される車両をあげてみた。ここからは、今後が気になる車両をあげておきたい。
■小田急電鉄LSE(7000形)
新ロマンスカーGSE(70000形)が3月に走り始める。ロマンスカーが増便されるために、しばらくの間はLSE(7000形)も走るとされているが、製造してからすでに30年以上を経ている車両だけに、気になるところ。現在、11両×2編成が残っている。新型GSE(70000形)の第2編成目の導入が2018年度中に予定されているので、その後に何らかの動きがあるかもしれない。
■JR西日本103系ほか国鉄形通勤電車
JR西日本は、ほかのJRグループ各社よりも、比較的長く車両を走らせる会社として知られている。国鉄時代に生まれた通勤電車103系や、113系、117系などがいまも京阪神を中心に走り続けている。車両の更新工事を受けているものの、JRグループが生まれてすでに30年以上。さすがに国鉄時代に生まれた車両のなかには引退する例も目立ってきた。
いま、気になるのが103系、昨年、大阪環状線と阪和線を走っていた103系が消え、大和路線(関西本線)を走る103系の定期運用が1月24日に終了、阪和線の支線・羽衣線の103系も春までに消える予定だ。
残っているのは奈良線、和田岬線など。東京や大阪など多くの路線を走った国鉄形通勤電車の姿を今も留める103系だけに、今後の動向が注目される。