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2021/1/4 18:30

EVブランドへと舵を切ったボルボ、「V90クロスカントリー」の実力は本物か? ロングドライブで検証

オーディオなどの快適装備もアップグレード! シャシー性能も熟成の域に到達

飛騨に直行する場合、ルートは中央道から上信越道に入り松本ICまで利用するのが普通ですが、今回は諸般の事情から岡谷ICで降りて一般道から上高地をかすめて高山、飛騨に至る国道158号線を目指しました。東京を出発してすでに数時間。雑談のネタも尽きてきたのでオーディオのBGMで気分転換を図りました。

 

試乗車にはオプションのB&Wプレミアムサウンド・オーディオシステムが装備されていたのですが、出てきた音に早速反応したのが音楽好きの担当編集氏。実は今回のマイナーチェンジで、B&Wのシステムもアップデート。ウーファーのコーン素材が変更されたほか、ツィーターも新しいダブルドームに。さらにアンプが強化されDSPのモードも一層充実したものとなっています。その昔、カーオーディオの別冊を作っていた筆者の場合、その変更内容は理解できても従来型と比較して音がどう変わったのかは分かりかねたのですが、とりあえず走行する車内でもクリアな音質で、かつ聞いていて気分を高揚させる音作りであることは確認できました。また、装備面ではワイヤレス・スマートフォン・チャージも標準化されたので、Apple CarPlayなどのリンク機能を活用すれば手持ちのライブラリーを気軽、かつ高音質で楽しめるようになったことも朗報といえそうです。

↑現行ボルボらしい、上質にして清潔感を漂わせるインパネ回り。基本的なレイアウトに大きな変更はありませんが、PM2.5粒子の最大95%を排出できる「クリーン・ゾーン-アドバンスト・エア・クオリティ・システム」を搭載。室内の空調環境がアップグレードされたほか「ワイヤレス・スマートフォン・チャージ」を標準装備するなど、快適性に磨きがかけられました

 

国道158号線は典型的な山越えの国道、ということで、その折々で今回は操縦性も簡単にではありますがチェックしました。クロスカントリーも含めたV90シリーズは、ボルボの主力プラットフォームである「SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)」を採用。電動化や自動運転時代に対応するとともに、シャシー性能もそれ以前のボルボ車より大幅に底上げされたのですが、新しいV90クロスカントリーでは洗練度も着実にアップしていることが確認できました。

 

以前、SPAを採用した初期のXC90に試乗した際は十二分な剛性感が確認できる一方、ステアリングに伝わるフィードバックなどに粗さを感じたものですが、それももはや昔の話。いざ乗り手がスポーティに振る舞おうと思えば、それに応えられる能力はしっかりと備わっています。また、ベースとなるV90より大幅に地上高を高めたクロスカントリーですが、ロールを筆頭とする挙動は基本的にナチュラル。B6搭載車のタイヤは45扁平の20インチという好戦的なサイズですが、乗り心地もプレミアムなSUVとして満足できる仕上がりでした。

↑ボタン類が整理されたステアリングのACC回り

 

↑タブレット風インターフェイスとなるセンターディスプレイは、現行ボルボに共通する仕立て

 

↑B5とB6のAWD Proのウッドトリムは、今回のアップデートでラインナップされた「ピッチドオーク」(写真)と「グレーアッシュ」の2タイプ

 

十二分な存在感を発揮しながら、日本の風景にもマッチするフォーマルさも両立

さて、そんなロングドライブのひと区切りとなる飛騨市に到着したのは昼を大幅に過ぎた時間帯。遅めの昼食を済ませ、早速“フォトセッション”に突入したのですが古風な飛騨の町並みとの相性はご覧の通り。ボルボによれば、V60をステーションワゴンの本流とするなら、このクルマのベースとなったV90はスタイリッシュな風情を重視したスペシャルティ系ワゴンとのことですが、そこにSUVテイストをプラスしたV90クロスカントリーは個性派でいながらフォーマル性も兼ね備えた仕上がりといえるでしょうか。

 

ワゴンベースのクロスオーバーとしては異例に高い地上高(本格SUVに匹敵する210mmもあります)と、天地が薄く、そして前後に長いボディの組み合わせは好き嫌いがはっきり分かれるであろう“攻めた”佇まい。ですが、存在感を主張しつつも決して悪目立ちする造形ではないことは飛騨市内に佇む写真からも明らかです。いまやSUVはコンパクトからプレミアム級まで選択肢が豊富ですが、それだけに単にSUVというだけで個性的な選択にはなり得なくなっているのも事実。その意味では、サイズ(とクラス)相応の落ち着きを確保しつつ、普通のSUVとは明らかに違うカタチのV90クロスカントリーは狙い目の1台といえるでしょう。

↑たっぷりとしたサイズのシートは、優れた快適性にひと役買っている出来映え。シート表皮はグレードを問わず本革が標準ですが、上級グレードのProはパーフォレーテッド仕様のファインナッパレザーとなります

 

↑ボルボはステーションワゴンの老舗だけに、荷室は容量、形状ともに優れた使い勝手を実現しています。後席と荷室を隔てる、しっかりした作りのラゲッジネットが備わる点も本格派らしい美点のひとつです

 

残る行程、飛騨から金沢まではせっかくなので後席に居場所を移しました。一般的な乗用車の場合、前席と後席を比較すると純粋な乗り心地は前後のタイヤから距離が取れる前席が勝るというのが普通。そこで、巨大でロープロファイルなタイヤを履いたV90クロスカントリーではどの程度の落差があるのかという、少し意地悪な視点で試してみたのですが結果的には十分に快適でした。

 

大ぶりなサイズ、なおかつワゴン用としてはホールド性にも優れたリアシートは秀逸な座り心地で、心配されたタイヤからの入力も許容範囲内。長いホイールベースの恩恵でフラットなライド感が満喫できました。ファミリー層を筆頭に、この種のモデルは後席の使用頻度が高くなるはずですが、この出来映えなら後席に座る家族から不満が出ることはないでしょう。

↑リアシートもサイズに余裕があり、かつ広大な足元スペースと相まって極上のリラックス空間です

 

……と、後席のツッコミどころをあれこれ探している間に目的地である金沢へは夕食前のタイミングで到着。ほぼ1日中走り続けの状態で、普段の新車試乗会と比較すれば格段に長い時間をクルマと過ごしたわけですが、結果的には定評あるボルボの長所ばかりが目立ったというのが正直な感想です。

 

ちなみに、全行程を通じた燃費は11km/L弱。カタログのWLTCモード燃費が11.3km/Lであることや、なにひとつ燃費を考慮した走らせ方をしなかったことを思えば秀逸な結果です。日本では軽油がガソリンより圧倒的に安いので、純粋な燃料費で依然ディーゼルが優位なのは確か。ですが、おそらくV90クロスカントリーを選ぶユーザーにしてみれば、その差はもはや誤差の範囲内といえるかもしれません。

↑5m近い全長と1.9mを超える全幅とあって、狭い場所だとそのボリュームを意識させられるのは事実。とはいえ、スクエアなボディ形状は見切りに優れるのであまり持て余しません。個性的なSUV仕立てながら、悪目立ちする心配のない佇まいは古風な日本の風景とも不思議とマッチしています

 

ボルボのディーゼルを所有する担当編集がB6に乗って思ったこと

担当編集・尾島の愛車はボルボのディーゼル車です(2019年式)。近い将来ボルボのラインナップからディーゼルが落ちると聞きつけ、「これはなんとしても手に入れておかねば」と清水の舞台から飛び降りる勢いで購入しました。泉のごとく湧き出るトルク、優秀な燃費、ランニングコストの安さからディーゼルにはとても満足していたわけですが、そんな折、ついにボルボのラインナップからディーゼルがなくなる日がやってきました。

これはぜひとも今後ボルボの主役となる48V電装搭載ガソリンハイブリッドを試さねばなるまい、となかば使命感から参加した今回の試乗会(なんなら、やっぱりディーゼル買っておいてよかった~と思いたかったのです)。実際に試乗して何を感じたのかというと、静粛性とそれがもたらす終始高級車然としたふるまいの上品さ。ディーゼルも乗り込むうちに音や振動はあまり気にならなくなりますが、いざ乗り比べればガソリンハイブリッドの圧倒的な静粛性が際立ちます。加えて電動スーパーチャージャーを追加しているB6はパワーもトルクの厚みも充分で、踏み込めばハッキリと速い。その気になればこの大柄で重たいボディを実に機敏に走らせます。

燃費とランニングコストはディーゼルに軍配が上がりますが、この価格帯のプレミアムカーを購入する層はそこまで目くじらを立てないだろうとも思われ、むしろワインディングをがんがん走った今回の試乗でも11km/Lを余裕で上回る燃費をたたき出すのだから経済性だって合格点。これはガソリンハイブリッド、ありだなぁと思った次第です。ボルボを検討中の皆さん、ディーゼルの不在を嘆く必要はなさそうですよ!(尾島信一)

 

撮影/神村 聖

 

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