〜〜希少な国鉄形電車の世界その5「113系」〜〜
日本国有鉄道が直流近郊形電車として製造した113系。都心と郊外を結ぶ近郊形電車を代表する形式として各地を走り続けてきた。そんな113系にも淘汰の波が迫りつつある。
今回は近郊形電車を代表する113系を紹介した。JR西日本のみに残る113系の現状を見ていこう。
【はじめに】近郊形電車として最大勢力を誇った113系
113系はどのような電車だったのか、まず概要から迫っていきたい。
首都圏で近郊形電車が活躍する代表的な路線といえば東海道本線。113系の先代にあたる111系はまずこの路線を念頭に開発された。戦後の混乱期を乗り越え、大量輸送時代が訪れた当時の東海道本線を走っていたのが80系や153系だった。この両形式はデッキ付き2扉スタイルだったが、多くの人が乗り降りすると、どうしても時間がかかる。停車駅で遅延が生じやすかった。
4扉の101系はすでに開発されていたが、近郊形には3扉デッキなしが良いだろうと考えられた。そして生まれたのが111系である。正面はいわゆる“東海型”と呼ばれる形で、中央に貫通扉が設けられた。111系はさっそく湘南電車の基地、大船電車区と静岡運転所に配置された。1962(昭和37)年のことである。
◆主電動機の出力を強化した113系
デビューして利用者の評判も良かった111系だったが、非力さが問題となった。そこで、主電動機の1時間定格出力を120kW(111系は100kW)にパワーアップした新しい電車が造られた。
この新しい電車こそ113系である。先代の111系が製造された期間はごく短期間で、1963(昭和38)年からは113系と115系の製造が主流となっていく。今も制御車に「クハ111」といった車両がある。111という数字は残るものの、現在は「クハ111」を含め113系と呼ばれている。
ちなみに115系は113系と主性能は同じで、投入した路線に合わせて急勾配に対応した設備を持ち、耐雪耐寒装備を施した形式を115系とし、区分けしている。115系の詳しい紹介は次回に譲ろう。
113系は1963(昭和38)年から1982(昭和57)年にかけて製造され、計2977両が造られたとされている。現在、113系はすでにJR各社から姿を消していき、残るのはJR西日本のみとなった。残る車両数は128両(2020年4月1日現在/※吹田総合車両所日根野支所の4両は2020年3月で運用を終了したので除外しました)で、3000両近くの車両が造られたが、今残るのはわずか4%あまりだ。
さらに、JR西日本からは「113系、117系 約170両を新製車両に置換計画あり(投入予定時期2022〜2025年)」という発表も行われている。あと数年で状況は大きく変わりそうである。
【113系が残る路線①】湖西線・草津線を走る抹茶色の113系
残る113系の現状を路線ごとに見ていこう。多く走るのが湖西線と草津線だ。
◆車両の現状:64両が湖西線、草津線の普通列車として走る
湖西線、草津線を走る普通列車の多くに使われているのが113系だ。吹田総合車両所京都支所に4両×16編成の計64両が配置されている。ベースとなっているのは湖西線向けに用意された耐寒耐雪装備を持つ700番台で、その後に110kmの最高時速に対応できるように高速改造を施した時に、113系の5700番台となった。
さらに7700番台の113系が走るが、こちらは草津線が1980(昭和55)年に電化された時に増備された113系で、当初は2700系だったが、高速改造を施したことから、5000をプラスした7700番台となり走っている。
ここ数年で塗装変更が完了し、現在は京都地域色の緑単色で塗られていて目立つ。京都に宇治という茶の産地があるせいか、鉄道ファンからは“抹茶色”とも言われるカラーだ。
64両の113系を見ると、それぞれの編成ごと姿が微妙に異なる。オリジナルな姿をかなり残した編成がある一方で、体質改善工事が進められ、屋根が張上げタイプ、また側面窓をステンレス枠にした車両、正面の窓周りのステンレス部分が太くなった編成など、細部が編成ごとに異なっていて、なかなか興味深い。
◆湖西線での運用:京都駅発の湖西線列車の6割が113系で運用
湖西線は京都駅〜永原駅間を走る区間限定列車の多くに113系が使われている。京都駅〜山科駅間は東海道本線を走行、湖西線では近江今津駅まで走る列車が多い。
この区間の普通列車には他に117系と221系も使われているが、同区間の普通列車の約6割が113系で運用される。対して117系は6両編成ということもあり、朝夕を中心に使われている。ちなみに113系も朝夕の運行では2編成つなげた8両で走る姿が見られる。また同線には221系の入線もあるが、本数は少なめで全体の2割程度にとどまっている。
◆草津線での運用:5割は113系だが、草津線内のみでの運用が多い
草津線の運用は湖西線と共通運用で、抹茶色の113系が走る。この草津線でも113系の運用が盛んだ。5割は113系での運用で、草津駅〜柘植駅(つげえき)間、もしくは草津駅〜貴生川駅(きぶかわえき)間の運用が目立つ。残りは221系での運用で、117系も朝夕を中心に走る。湖西線に比べて京都への直通列車が少ない。草津線のみでの運用が多いことがちょっと残念なところだ。
【113系が残る路線②】山陰本線、舞鶴線、宮福線を走る
湖西線、草津線とは使われる電車が異なるものの、京都府と兵庫県を走る他路線でも、抹茶色の緑単色塗装の113系が走っている。こちらの運行状況も見ておこう。
◆車両の現状:2両編成化した113系がローカル輸送に従事
京都府の北部、福知山駅を起点に113系が残り走っている。配置は福知山電車区で2両×6編成、計12両が残っている。車両は山陰本線の園部駅〜福知山駅間が電化された1996(平成8)年に導入された5300番台だ。この車両に耐雪ブレーキなどを取り付けられている。6編成のうち2編成は1車両にパンタグラフを2基搭載した車両で、先頭車にもかかわらずパンタグラフ2基というユニークな姿で目立つ存在となっている。
なお福知山電車区には115系6000番台が2両配置されている。こちらの編成は中間車を先頭車化するにあたり、平坦な顔立ちに改造されている。この115系の先頭車化に関して、なかなか興味深い改造しているので次回に紹介したい。福知山地区では113系と同じ運用に入り、113系と連結して走ることも多いので、ここで一緒に走る路線の状況を見ていこう
◆運用の傾向:地域限定ながら朝夕を中心に多くの運用を担う
福知山電車区の113系が走るのは次の3路線だ。
○山陰本線:福知山駅〜城崎温泉駅間
○舞鶴線:綾部駅〜東舞鶴駅間
○京都丹後鉄道宮福線:福知山駅〜宮津駅間
3路線共通での運用なので、一緒に運用の傾向を追っていこう。113系の運用が多いのは舞鶴線で、列車は福知山駅〜東舞鶴駅間を走る。ダイヤを見ると約7割程度の普通列車が113系で運用されている。残りは223系だ。
山陰本線での113系の運用は少なめで、昼から4往復が主に福知山駅〜豊岡駅間を走る(曜日により城崎温泉駅まで走る列車もあり)。京都丹後鉄道の宮福線へも113系が乗り入れている。福知山駅発14時22分と17時26分発で、戻りは宮津駅発15時33分と18時30分発だ。これらの列車は2020年度の一般的な運用のため、例外で変る日もあるのでご注意いただきたい。
このように福知山駅周辺では、舞鶴線での運用が目立つ。福知山駅〜綾部駅間では山陰本線も走る。このあたりが、同エリアの113系の注目ポイントと言って良いだろう。
【113系が残る路線③】岡山地区を走る113系の運用範囲は
JR西日本の113系が残る路線は、ほか岡山地区のみとなっている。岡山地区の113系はどのような路線を走っているのだろうか。岡山を走る113系の経歴を含めて追ってみたい。
◆車両の現状:B編成の計52両が岡山駅を中心に走る
岡山地区の113系は全車が岡山電車区に配置されている。4両×13編成、計52両で、0番台および2000番台が使われている。車両の色はすべて中国地域色の濃黄色一色の塗装だ。
岡山への113系の導入は早い。宇野線の快速列車として1973(昭和48)年から走り始めている。その後、他の電車区からの借用車などでやりくりした時期が続いたが、現在は下関総合車両所広島支所からやってきた車両のみで構成される。全編成がB編成という編成名で、正面のガラス窓に「B」の文字があれば113系と分かる。
◆運用の現状:伯備線の山岳地区を除く区間を幅広く走る
岡山電車区の113系が走る範囲は以下のとおりだ。115系とほぼ共通運用される地区が多いため、走ってきた車両の形式名およびB編成の名前で、ようやく113系と分かることが多い。
○山陽本線:姫路駅〜福山駅間
○伯備線:倉敷駅〜新見駅間
○赤穂線:全線
○宇野線:全線
運用のメインは山陽本線で、一部の運用は岡山県内だけでなく兵庫県の姫路駅や、広島県の福山駅まで乗り入れている。ほか路線の運用は少なめで、伯備線では、倉敷駅から新見駅までで、備中高梁駅行きを含めて3往復のみしか走らない。新見駅から先の山岳区間を通り抜ける列車は115系で運行されている。また赤穂線では全線を走るものの、路線を通して走る列車が無い。宇部線も朝と夜に2往復があるのみとなっている。
岡山地区の113系は、115系とほぼ共通運用される区間が多い。そのために、走ってきた電車の正面のガラス窓に「B」の文字があるかどうかで、判別するしかない。あまり目立たない存在と言って良いだろう。
◆ちょっと寄り道、113系のタイフォンに注目してみた
ここでは113系の興味深い改造ポイントに注目してみたい。
113系には貫通路の隣に丸い形状の“何か”が付いている。これはタイフォンと呼ばれる。タイフォンとは警笛の一種で、空気笛とも呼ばれる。113系、115系の場合には、改造されていなければ貫通扉の両横にタイフォンがついており、通常時は蓋がしまっている。警笛を鳴らす時に、この蓋が空いて空気笛を鳴らす仕組みだ。ちなみに113系、115系はAW-5形というタイフォンが装着されている。
この113系と115系のタイフォン。国鉄時代の車両には特急形を含めて多くに装備されていた。いま走る113系と115系を撮影してみると、タイフォンの部分を改造した車両に出会う。多いのはフタをかぶせたもの、さらにタテ長に空気穴が空いた形状のものもある。フタをかぶせたものは警笛を移設したこともあり、こうした加工が行われたようだ。
鉄道に興味のない方には、そんな違いなんて……、と思われるかも知れない。だが、それぞれの改造スタイルにより、微妙に姿が変っていて、なかなか面白い変更ポイントだと思うのだ。
◆紀勢本線ではこんな113系も2020年春まで走っていた
最後にちょっとユニークな姿の113系に触れておこう。吹田総合車両所日根野支所に4両の113系が配置されていた。紀勢本線の一部区間で定期運用されていた113系2000番台で、2両×2編成(HG201とFG202)が残っていた。車体はオーシャンカラー1色で塗られていた。
この113系。筆者も出会ったことがある。見た瞬間、「あれ〜?こんなところに103系が走っていたかな」と疑問が涌いた。形式名を拡大してみると113系だった。前後とも平面な正面に改造されていて、運転席の窓が広く横長に開けられていた。外見からは103系を彷彿させる姿だったのである。
2020年3月中旬までは運用されていたが、残念ながら2編成とも4月中旬に廃車回送されてしまった。このように普通列車用の電車は、特に引退を発表されることもなく消えていくことが多い。鉄道ファンにとってつらく悲しい現実でもある。