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2022/1/4 19:35

大学生が世界最高峰の大会に挑む! 東海大学ソーラーカーチームの強さの秘密

1987年から始まった「ブリヂストン・ワールドソーラーチャレンジ」(以下、BWSC。創設当初の名称は「ワールド・ソーラー・チャレンジ」)。オーストラリア北部のダーウィンを出発し、アデレードまでを結ぶ総移動距離3020キロメートルの砂漠地帯を南下。日の出から日暮れまでを太陽の力だけで、5日間走り抜けます。

 

この過酷な舞台で、過去に総合優勝2回、準優勝2回、3位1回と学生ながら世界の強豪チームを凌ぐ好成績をおさめてきた東海大学。その強さの秘訣とは? そもそもなぜ学生が世界的なレースに参加することになったのか? 1996年から東海大学のソーラーカープロジェクトを指導している木村英樹教授に、モータージャーナリストの御堀直嗣さんがインタビューしました。

 

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ソーラーカーレースは、メーカー競争からアカデミックな大会へ

手作りで完成した第1号車「Tokai 50TP」。安定性を重視した結果、2人乗り4輪の構造となった

 

御堀直嗣さん(以下、御堀):東海大学でソーラーカーに取り組もうと思われたのは、なぜだったのですか?

 

木村英樹先生(以下、木村):プロジェクトがスタートしたのは1991年だったのですが、翌年に東海大学創立50周年を迎えるというタイミングでした。海外で電気自動車への注目が集まり始めた時期だったため、松前義昭初代監督は電気自動車とは異なったアプローチを……と模索する中で、ソーラーカーに行きあたったのです。ここから研究がスタートしました。

 

御堀:その頃は、世界的にも地球温暖化への関心が一気に高まった時期でしたね。「ワールド・ソーラー・チャレンジ」(当時)に参加されたのはいつからでしょうか? 1987年から大会が始まり、GM(ゼネラルモーターズ)の「Sunraycer(サンレイサー)」が優勝したと記憶しています。

 

木村:はい、初代チャンピオンはGMですね。東海大学は1993年から参加していますが、当時はまだGMやホンダといった世界的な大手自動車メーカーも参加していました。ただ、アメリカのミシガン大学やスタンフォード大学、EU圏からも多くの大学が参加していたため、自動車メーカーの大会というより、アカデミックな分野としても注目されていたと思います。

「ワールド・ソーラー・チャレンジ」は今世紀に入ってからは2年に一度、奇数年に開催されているのですが、東海大学はプロジェクト発足以降、2009年と2011年に優勝、連覇を果たしています。次の2013年大会は準優勝でした。

 

1993年大会のホンダのマシン

 

こちらは、同年に初参戦した際の東海大学のマシン

 

初優勝を飾った2009年のマシンには、シャープのソーラーパネルを搭載。大会新記録を叩き出した

 

パナソニックのソーラーパネルを搭載した2011年のマシン。2位に1時間5分の大差をつけて優勝したのち、翌年の南アフリカ大会では3連覇を達成している

 

準優勝を獲得した2019年モデル。2021年現在も同マシンを使用しているが、外装には8月よりスポンサーに加わった大和リビングのロゴが追加に

 

御堀:直近で開催された2019年大会でも準優勝でしたね。

 

木村:はい。優勝したベルギーのルーベン大学とは、わずか12分差とあと一歩のところでした。

 

学生たちが主体となって進める“学生によるプロジェクト”に

2021年に秋田で開催された大会「ワールド・グリーン・チャレンジ」で、マシンを整備する学生たち

 

御堀:素晴らしい成績を残していますね。

 

木村:我々教授陣はアドバイザーとして関わっていますが、企業のエンジニアからも直接指導をいただき、さまざまなサポートを受けています。そのような環境の中で学生自ら役割を考え、チームを編成しているんですよ。

 

御堀:学生主体なんですか。東海大学のソーラーカーチームは、どのような役割分担で活動しているのでしょうか?

 

木村:壮大なプロジェクト活動の中で学ぶことを掲げた「東海大学チャレンジプロジェクト」の一つである「ライトパワープロジェクト」として、現在約60名の大学生・大学院生が活動しています。大きく分けると、戦略を考えるストラテジーチーム、運営や広報を行うマネジメントチーム、機械部分を担うメカニクスチーム、モーターやバッテリー・発電管理を行う電気チームに分かれています。しかし、機械学科だからメカニクスというように担当する分野を決めつけていませんので、SNSの運営などの広報活動も学生たちに任せています。縦割りの組織ではなく、学生も教授も学年の垣根も超えた、フラットな活動ができていますね。

 

御堀:ソーラーカーの研究を始めた1991年から、学生主体の取り組みだったのでしょうか?

 

木村:最初は大学としての研究プロジェクトとして発足し、その後、理工系の研究室が連携した取り組みでした。それが2006年から研究室の有志連合と学生サークルのソーラーカー研究会が合体し、学生主体のプロジェクトへ発展したんです。

 

東海大学工学部教授 / 木村英樹さん。東海大学工学部を卒業後、現在は東海大学工学部 電気電子工学科 教授を務める(2022年4月より東海大学 工学部 機械システム工学科に異動予定)。2006年から東海大学チャレンジセンターの立ち上げに関わり、ソーラーカーや高効率モーターの開発を推進している

 

大学は卒業しても、チームの卒業はない!

取材に参加してくださった東海大学ソーラーカーチームの学生のみなさん

 

御堀:卒業生との関係についてはいかがでしょう?

 

木村:「学校は卒業しても、チームの卒業はない」と学生たちには伝えています。理工系プロジェクトとしては珍しいかもしれませんが、大学野球や駅伝などの部活動と似ているかもしれませんね。社会人になってからも大会が近づいてくると卒業生たちもソワソワしてくるようで(笑)、手伝いにきてくれますよ。

 

御堀:「学校は卒業しても、チームの卒業はない」というのは、素敵な関係ですね。

 

木村:チームに所属している学生は大学院への進学率が高いので、長い学生は6年間ソーラーカーと関われます。毎年メンバーが入れ替わるので、経験と知恵を継承することは大変ではあるのですが、学生たちは4年もしくは6年間、真摯にソーラーカーと向き合ってくれています。

BWSCに向けて2年に一度新車を作る際も、学生のチームリーダーを中心にアイデアを出し合いながら取り組んでいます。毎年メンバーが入れ替わる中で活動を続けられているのは、柔軟な考え方で動ける学生主体の組織だからかもしれません。

 

御堀:チームに所属されている学生さんたちの就職率が100%と伺いました。ソーラーカーでの実績を残しながら人間として成長できるのは、本当に素晴らしい取り組みです。

 

モータージャーナリスト / 御堀直嗣さん。大学の工学部で学んだあと、レースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい

 

コロナ禍に負けず、経験と知恵を継承するには

御堀:2021年に開催される予定だったBWSCは、コロナ禍で2023年へ延期になりました。練習ができず苦しんだ時もあったのではないでしょうか?

 

木村:そうですね。自粛期間中の1・2年生とは基本的にはオンラインでのコミュニケーションが中心だったので、経験としての技術継承が難しい部分はありました。そんな中、なんとかBWSCに近い形で大会に参加できないかと考えていたところ、2021年8月に秋田県大潟村のソーラースポーツラインで「ワールド・グリーン・チャレンジ」開催が決定し、東海大学も参加して見事優勝することができました。久しぶりに実践的な挑戦ができてほっとしました。

 

「ワールド・グリーン・チャレンジ」を優勝し、胴上げされるアドバイザーのひとり、佐川耕平講師

 

御堀:それはおめでとうございます。ただ、本来BWSCに参加できるはずだった学生さんは卒業してしまいますね。

 

木村:そうなんです。コロナ禍では、「いま、何ができるか?」をひたすら考え続けていたように思います。悩む時間もありましたが、「ワールド・グリーン・チャレンジ」で優勝できたことで、やっと次の2023年大会へ向けてやっと動き出したと感じています。この経験をバネに次回のBWSCに向けて取り組んでいきたいですね。

 

知恵を集結させ、気持ちよくエネルギーを使う未来へ

平面のソーラーパネルをどうやって曲面の車体に貼り付けるか、御堀さんへ説明する木村教授、福田紘大准教授、佐川講師。この3名で東海大学ソーラーカーチームをバックアップ

 

ソーラーパネルの下は、配線がびっしり!発電の効率を高めるために、12個ものブロックに分かれているのだとか。世界的に見てここまで細分化しているのは、東海大学ぐらいだそうです

 

御堀:ちょっと話はそれますが、ドライバーになりたいという学生も多いのではないでしょうか? どのように決めているのですか?

 

木村:基本的には、日頃から運転している学生になりますね。たとえば、コックピットが狭いので体格条件をクリアした学生の中から、小田原厚木有料道路を設定時間内に、当時のマイカーだったプリウスで往復し、燃費効率がよかった学生を選出したことがありました。今は、秋田県大潟村のソーラースポーツラインという1周が25㎞のコースを走行させて、データを見ながら選出しています。

 

御堀:面白い選定方法ですね。

 

木村:センスの良い学生は、自然と道路状況や燃費効率を計算し、戦略を立てられるようなドライバーになっています。

 

御堀:これからの目標をお聞かせください。

 

木村:レースというのは次世代の技術を磨くために続けられてきましたが、ソーラーカーは、太陽が出ている間しか走ることができない、とても特殊な環境で大会が進行していきます。これまで実用化が不可能と言われてきた分野ではありますが、これがもし実用化できればカーボンニュートラル社会を達成することに貢献できます。今はまだ谷の底にいる状態かもしれませんが、いろんな技術を融合させることによって、谷から地上へと這い上がり、大地の上に立てる日がくると考えています。化石エネルギーを使わなかった江戸時代に戻ろう!というわけではありません。技術や文明を退化させることなく、知恵を絞りながらどのようにカーボンニュートラルを実現させるか。気持ちよくエネルギーを使える時代になればいいと考えています。

 

御堀:そうですね。ひとつでは解決できないことでも、さまざまな科学が融合することで、人間にも自然にも快適な環境が見えてくることもありますからね。これからソーラーカーに関わりたいと考えている学生さんたちに、なにかメッセージはありますか?

 

木村:変化の激しい時代ですので、学生たちが頑張って勉強していることも3年後には時代遅れ、なんてこともあり得ます。常に新しいことに関心を持ち、吸収し、判断して、問題解決できる力を身につけて欲しいと思っています。その学ぶ場として、大学を活用してもらいたいですね。

 

チャレンジセンターに設置された、これまで獲得したトロフィーを飾るケース。BWSCの優勝トロフィーのサイズに合わせて作られており、“主”の帰還を待っている

 

新型コロナウイルスによって2021年の大会が延期になりましたが、取材時にいた学生さんに話を聞くと「延期になったのは残念ですが、これまでの経験を後輩たちにしっかりと受け継ぎたい」と明るく答えてくれました。毎年メンバーが入れ替わる中でも、技術と知恵を継承し世界でもトップクラスの成績を残す東海大学のソーラーカーチーム。2023年に開催されるBWSCに、今から期待が高まります。

 

【プロフィール】

東海大学ソーラーカーチーム

大きなスケールを誇るチャレンジプロジェクトの一つである「東海大学ソーラーカーチーム」。東海大学に所属する大学生・院生の約60名のメンバーで構成されており、学生自らが組織運営するプロジェクトチーム。省エネルギー技術を駆使した電気自動車やソーラーカーの研究に力を入れながら、ソーラーカーの世界大会でもある「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」への参加、企業とのソーラーカー共同開発、学内外への広報活動にも取り組んでいる。また近隣の小学校を対象にしたエコカー教室を開くなど、地域貢献活動にも積極的。

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