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2025/4/5 19:00

ベトナムに“昭和のイケイケ感”を見た! 未来に賭けた東急が「鉄道に頼らない街づくり」をホーチミン郊外で展開中

2024年1月、人口が1億人を突破したと発表されたベトナム。特に、ベトナム南部に位置する都市・ホーチミンは都会化が進み、都市圏も拡大中だ。

↑ホーチミンの街中。筆者が訪れたタイミングが旧正月前だったため、街には多くの飾りが出ていた。

 

そのベトナムに、いち早く注目していた日本企業が東急である。東急といえば、東急田園都市線や東急東横線などの鉄道のイメージが強いが、それを基盤にした街開発こそが同社の大きな強みだ。

 

東急はいま、ベトナムに新都市をつくる大規模プロジェクトを進めている。その場所は、ホーチミンの中心からおよそ30km離れたビンズオン。大規模な工業団地があるビンズオンだが、都市としての開発はまだ途上にある。

 

東急はこの地で、マンションに加え、ショッピングモールなどの商業施設やバスのような交通手段の整備までをも含めた、総合的な街づくりを進めている。同社がベトナムを選んだ理由やプロジェクトの全容、できつつある新たな都市の姿を現地で取材した。

 

現在のベトナムは、高度経済成長期の日本に似ている

東急がベトナムに進出したのは2012年のことだ。現地のベカメックス社をパートナーにして、現地法人・べカメックス東急を設立。現地政府が進めていたビンズオン新都市の開発プロジェクトに参画した。同社の資本金は525億円だそうで、その数字からは東急の本気度がうかがえる。

 

べカメックス東急の釣 佳彦さんは、「2012年当時、ベトナムでのライバルとなる日系企業はほぼいませんでした。ほかの企業からすると『東急は騙されているんじゃないか』というような温度感だったと思います」と語る。だが東急の目論見通り、ベトナムは大きな経済成長を遂げ、それは現在も続いている。

↑べカメックス東急の釣 佳彦さん。

 

東急がベトナムを選んだ理由は、同国が「高度経済成長期の日本に似ている」からだ。似ているポイントは2つ。人口の質とGDPである。

 

ベトナム国民の平均年齢は33歳と若い。年齢分布は15歳から65歳が全体の約67%を占め、5歳から17歳の若年層も20%以上。そのグラフは理想的な三角形を描いており、持続的な人口増が見込める。この人口の質の高さが、高度経済成長期の日本に似ているというわけだ。またベトナムのGDPは、1970年代の日本と同程度。東急は、かつて日本が実現したのと同じような成長曲線をベトナムも辿るであろう予想したのだ。

 

そんなベトナムにおいて、ホーチミンは人口900万人を超える国内屈指の大都市だ。人口密度は約4500人/km2で、日本の福岡市と同程度。2024年12月には同国初の地下鉄が開通するなど、急速に発展が進んでいる。

↑ホーチミンの道路には、多数のバイクが行き交う。高層ビルが多く建ち並び都会化は進んでいるものの、公共交通機関などの交通インフラには弱さがある。

 

一方、東急が街づくりを進めるビンズオン省は、ホーチミンの30km北に位置する、いわば都市郊外。大規模な工業団地こそあるが、ホーチミンとの間を結ぶ鉄道もなく、都市としての開発はこれからだ。

 

ビンズオン省の中央に位置する「ビンズオン新都市」の面積は、約1000haにおよぶ。その開発プロジェクトには東急が参画しており、同社は約100haの開発を担当。100haは、東京ドーム21個分以上の広さだ。

↑ビンズオン省のマップ。中央の赤い部分がビンズオン新都市だ。

 

↑ビンズオン新都市の完成後の模型。多くの建物と緑が調和した街になっている。

 

ビンズオン新都市の開発は途上にあり、完成にはまだ10年以上の歳月がかかる。釣さんによると、「べカメックス東急が開発を手がけるエリアにおける現在の竣工率は約2割。当社が手がけるエリアでの住宅の戸数は、最終的には1万5000から2万が目標」だという。

↑ビンズオン新都市のなかにある、べカメックス東急が手掛けるマンションの模型。

 

マンションの部屋からもわかる、ベトナムの生活水準の向上

今回の取材では、すでに竣工したマンションの部屋やモデルルームを見ることができた。ビンズオン新都市に建つマンションのなかでもミドルレンジにあたるMIDORI PARK The GLORYの部屋の特徴は、ダイニング・リビングが玄関と同じ空間にあること。日本では見慣れない間取りだが、釣さんによるとベトナムではこれが好まれるのだそうだ。

↑MIDORI PARK The GLORYの建物。

 

↑MIDORI PARK The GLORYのダイニング。玄関のドアを開けてすぐのところにある。

 

部屋の天井が高いのも、ベトナムならではの特徴だ。この部屋の天井の高さは2.85mあり、日本のマンションよりも余裕が感じられる。MIDORI PARK The GLORYの一戸あたりの価格はスリーベッドルームなら日本円で2500〜3000万円で、この部屋の天井の高さは、ベトナムの同価格帯の物件と比べて同じ程度だという。また、バルコニーの奥行が1.8mも確保されている点は、日本ではあまり見られないポイントだ。

↑書斎も広々としていた。ここでなら、ゆったりと作業に励むことができそうだ。

 

一方、2024年2月に着工した最高級マンション・MIDORI PARK The TENのダイニング・リビングは、自然配光が採用され、温もりと高級感あふれる空間に仕上がっている。その天井の高さは3.5mで、ミドルレンジの物件と比べてさらに高い。釣さんも「ここより天井の高い部屋はベトナムでも見たことがありません」と語る。

 

価格は、ベッドルームが3部屋のタイプで、日本円にして約6000万円。こういった高級な住居が生まれていることからも、ベトナムの経済が成長し、生活水準が上がっていることがよくわかる。

↑MIDORI Park The TENのダイニング(写真はモデルルーム)。什器による印象の違いもあるが、The GLORY以上の高級感を感じる。

 

ところで、日本における東急といえば、鉄道を敷設して、それを中心とした街づくりを行うイメージが強い。それに対して、ビンズオン新都市では、まだ鉄道が敷設されていない。だが釣さんは、「東急田園都市線を敷設したときは、鉄道を作る前から住宅などの開発用地獲得を進めていたという過去があり、ビンズオン新都市の環境もそれに似ています」という。

 

そもそも、ベトナムでは鉄道がそれほど発達していない。南北の主要都市を結ぶ鉄道こそあるものの、都市と近郊を結ぶ路線はほぼ未整備だ。2024年12月には、ビンズオン省近くのホーチミンで同国首都初となる地下鉄が開通したが、その開発はまだ途上である。

 

釣さんは「ビンズオン新都市は、将来ホーチミン周辺の鉄道網が発達したとき拠点になるような場所であり、鉄道が誘致できるような街をいまから作りたいと考えています」と語る。この将来予測があったからこそ、東急は2012年という他社に比べてかなり早い時期に、ベトナムへの進出を決めたのだ。

 

釣さんによれば、「東急の本業は街づくり」。住宅や鉄道の開発は単体のビジネスに過ぎず、それらを包括した街の開発こそ、同社の本質なのだ。

 

ショッピングモールには日系企業が多数進出

ビンズオン新都市での開発も、東急の本質に則ったものとなっている。べカメックス東急は、マンションだけにとどまらない街づくりを手掛けており、ショッピングモールのSORA gardens SCもその一環だ。

 

この商業施設には多くの日系企業が入居している。入口にはイオンやユニクロ、ニトリのロゴが掲出されており、ここがベトナムであることを感じさせない。

↑SORA gardens SCの入口。

 

入口をくぐると、イオンや無印良品の店舗が目に入る。両店舗の看板は日本で展開されているものと同じだし、イオンでは寿司などの日本食も多く売られているから、ここが日本ではないかと見紛ってしまうほどだ。この内観を見ただけでも、多数の日系企業がビンズオン新都市に進出していることがわかる。

↑SORA gardens SCの内部。右手に無印良品、左手にイオンの店舗が見える。

 

このほか、当地ではファミリーマート、すき家、三菱地所レジデンス、ALSOK、パナソニックなどがビジネスを展開。特にパナソニックは、べカメックス東急と深く連携している。

 

同社は、べカメックス東急が手掛けるマンションには配線器具を、モデルルームには家電を提供。また、べカメックス東急が催す新都市の住民を招いたイベント・森のシンフォニーのスポンサーにもなっている。釣さんは「東急1社だけでは、街の魅力を発信できません。パートナーと組んで、ビンズオン省内に新都市や日本の魅力を広めています」と語る。

↑マンション内に設置された、パナソニックの配線器具。

 

ホーチミンを歩いていると、日系企業の看板がしばしば目に入る。そのデザインは先述のSORA Gardens SCで展開されているものと同様、日本で見かけるのと同じものばかりだ。日系スーパーで売られている商品には、日本語のパッケージにベトナム語のシールを貼ったものが少なくない。ベトナムの人々にとって、それだけ日本が身近な存在になっている証左といえよう。

↑ホーチミンでも有数のショッピングモールで見かけた焼肉ライクの店舗。ロゴを漢字とカタカナのまま掲示している。

 

開発が進んだホーチミンはもはや完全な大都会だが、対するビンズオン新都市の開発はまだまだこれからだ。ここでのべカメックス東急による街づくりは、ベトナムの郊外にまで日本の魅力を伝える取り組みでもあるといえるだろう。