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2018/12/5 19:30

10年も違う! 貧富の差が「寿命」に与える深刻な影響

資本主義の発展に伴い広がる貧富の差。裕福な暮らしを送る人は、老後もゆとりのある健康的な日々を過ごすことができる一方、そうでない人は病気にかかっても満足に病院にも行けない。イギリスのある大規模調査はそんな実態を浮き彫りにしました。富裕層と貧困層の間には寿命においても大きな差があるんです。

 

広がる寿命の差

インペリアル・カレッジ・ロンドンが今年11月下旬に発表した最新の研究結果で、イギリスの富裕層と貧困層の間で、寿命に約10年もの差があることがわかりました。研究者たちは、2001年から16年のイギリス国家統計局のデータから死亡した765万人のデータを抽出。それらを分析した結果、16年の女性の寿命は貧困層が78.8歳に対して、富裕層は86.7歳と判明したのです。同様に、男性については貧困層が74.0歳に対して、富裕層は83.8歳でした。

 

さらに、裕福層と貧困層の寿命の差が、女性の場合は01年の6.1歳から16年には7.9歳へ、男性の場合は2001年の9.0歳から2016年の9.7歳へ、どちらも大きくなっていることがわかったのです。また、イギリスにおける貧困層の女性の寿命は2011年から短くなってきていることも明らかとなっています。

 

日本でも広がる健康格差

各家庭の経済事情が、これほど寿命に大きな差をつけていることの理由に、イギリスが抱える医療制度の問題がありそうです。イギリスには税金で運営されている国民保健サービス(NHS)があり、16歳以上の就労者であれば保険料の支払いを行い、それによって原則誰でも無料で医師の診察を受けることが可能。ただし、NHSの病院は常に激しい混雑に見舞われていて、患者が30時間以上待たされて心停止したり、救急救命科が救急患者の診療を立て続けに拒否したり、危機的状況であることが度々報じられています。

 

そんな背景もあり、経済的な余裕がある層は民間の医療機関で診察を受ける一方で、貧困層は病院すら行けず、診察を受けてもすでに病気が進行していたといったケースも少なくない模様。2016年における5歳未満の貧困層の子どもの死亡率は、富裕層に比べて2.5倍も高いことがわかっています。

 

これと同じようなことが近年の日本でも広がりつつあることが指摘されています。「健康格差 あなたの寿命は社会が決める」(NHKスペシャル取材班著/講談社現代新書)は、比較的裕福な生活をしている人が多い地域と、そうでない地域では健康寿命に明らかな差があったり、年収が低い人は具合が悪いのに医療機関の受診を控えた経験がある人が多かったり、「健康格差」が広がってきていると述べています。

 

テクノロジーで解決?

世界中の先進国で進む貧富の差。人類はこの問題にどう立ち向かうのでしょうか? 解決策の一つとして最近期待されているのが最新テクノロジーです。ポケモンGOのように、健康なライフスタイルや運動を促進させる要素をゲームに組み込んだり、エイズ患者向けに適切な服薬行動を促すアプリが開発されたり、テクノロジーの活用次第で社会の健康格差はまる可能性があると専門家の間で言われています。

 

医学界でもAIなどの技術革新が進んでいます。新しい科学技術で誰もが平等に健康でいられる社会が実現できるのかどうか。この分野の発展に要注目です。