今年8月、回転寿司チェーンのくら寿司が日本の外食チェーンで初めて米国法人「くら寿司USA」の株をナスダックに上場するなど、アメリカでの日本食人気は高まる一方です。そのなかでもラーメンの勢いが止まりません。カリフォルニアでは、一風堂USAや大勝軒など日本発のラーメン店が次々に進出中。そんななか「ラーメン×IT」の新発想でアメリカに挑んでいるラーメンECのスタートアップ「Ramen Hero(ラーメンヒーロー)」が急成長を遂げています。
こだわりの本格ラーメンを全米に
Ramen Heroのサービスは、言うなればラーメンのミールキット販売。インターネットでメニューを注文すると、食材とレシピカード入りのミールキットが自宅に届くという仕組みです。
麺は専門業者のものを使用。自社製造のスープと具材を冷凍して、個別梱包したものをセットにして顧客の玄関先まで送り届けます。
アメリカの多くのラーメン店では限られた流通商品を使うため、どこも似通った味になってしまうのが現状。Ramen Heroでは良質な素材、オリジナルの製法、味にこだわるなど、プロダクト開発にも力を注いでいます。
お湯を沸かして麺やスープを温めるだけなので、簡単に調理が可能。地方にいても、お店に並ばず本格的なラーメンが手軽に食べられる利便性が受け、昨年度の売上高は1000万円を超え、顧客数は1900件を突破しました。
Ramen Heroを立ち上げたのは、東大卒の30歳、長谷川浩之氏。日本人で初めて米国の著名アクセラレータ「AngelPad」のプログラムを卒業し、投資家からも注目される日本人若手起業家です。長谷川氏はビジネスの構想を思いつくと、日本のラーメン専門学校に通い、試作を重ねながらRamen Heroを事業化。2018年から本格的にサービスを開始しました。
口コミで徐々にコアなファンを増やしていき、サービス開始当初は限定していた販売エリアも現在では全米に販路を拡大。アラスカとハワイ、一部地域を除くほぼアメリカ全域に展開しています。
アメリカ特有のラーメン事情を商機に
日本に暮らしていると、このようなラーメンECのニーズがどこまであるのか、ピンとこないかもしれませんが、Ramen Heroが支持される背景には、アメリカ特有のラーメン事情があります。
アメリカでラーメンを食べる場合、インスタントの安い乾麺か、ラーメン店の1杯18ドル(約2000円)近くする高級ラーメンの極端な2択しかないのが現状です。
高級ラーメンの代名詞「Ippudo (一風堂)」は、併設されたバーでおしゃれをしたカップルがカクテル片手にデートするような人気スポットにもなっています。日本で気軽に口にできるラーメンチェーンの味は、アメリカでは「正真正銘、本物のラーメン」というちょっとした特別感があるのです。
ニューヨークから始まったこの本物志向のラーメンブームで、アメリカにも日本のラーメンの味を知る人が少しずつ増えてきました。「インスタントとは違う、美味しいラーメンを食べたい」というニーズは高まるばかり。都市部には先述の通り日本からの新規進出が相次いでいますが、全国レベルで見ればまだまだです。
この状況をチャンスと捉え、商圏が制限されないミールキット事業でラーメンショップを立ち上げた長谷川氏。ゆくゆくは、アメリカでラーメンを提供する専門店などに自社商品を販売するBtoBビジネスも見据えていると言います。高級ラーメンが受け入れられる素地が整ってきた米国市場で、一般向けだけでなく、業務用領域への進出を考えるのは、自然な流れなのかもしれません。
Ramen Heroを実食!
筆者は、1食16ドルするラーメンが4食入ったバラエティパックを注文してみました(送料無料)。店頭で食べると税金・チップを含めひとり当たり20ドル以上かかることを思えば、多少割安と言えるかもしれません。
宅配された段ボール箱の内側にはドライアイスとパットが入念に敷き込まれ、到着後はすぐに冷凍庫に入れるよう注意書きがありました。焼豚、紅生姜、きくらげ、なると、海苔の1枚までが丁寧に個別包装され、食べる直前に凍ったスープと一緒に湯煎で温めるようになっています。豚骨や醤油などベースのスープによってストレート麺かちぢれ麺か異なり、具材も変わるというこだわりよう。
筆者がいただいた豚骨ラーメンは、昨年秋にRamen Heroの製造拠点となっているシェアキッチン(Kitchen Town)で試食したときより、スープのコクや旨味がアップして格段に味が良くなっていました。スタートアップが地道に研鑽を重ね、プロダクトの向上に努めた成果を実感します。
「好きなラーメンはRamen Hero」と言われるようなブランドを目指し、挑戦は始まったばかり。今後の発展に注目です。