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2020/10/31 17:00

年間42億個の卵を消費するキユーピーの「卵の殻」の意外な有効活用、とその覚悟

資源の100%有効活用で「捨てない・活かす」を目指す~キユーピー株式会社

 

日本でいちばん卵(鶏卵)を消費している企業を知っていますか? 食卓に欠かせない調味料のひとつ「マヨネーズ」でお馴染みのキユーピー株式会社です。日本の年間消費量のおよそ1割にあたる約25万トン、約42億個を使っています。

 

卵には捨てるところがない

一般的には、卵の殻、いわゆる卵殻はそのままゴミとして廃棄されます。再利用するより、産廃費を払って処分した方が企業としては手間がかからず、製造効率が上がるからです。ところが同社には、“もったいない”という精神が根付いていて、卵殻に限らず、未利用資源の有効活用策について古くから研究され続けているのです。

 

創業初期からの主力商品であるマヨネーズには卵黄を使用します。事業が拡大していく中、食品メーカーとして、資源や環境という観点からまず考えなければいけなかったのが、卵殻の再利用だったそうです。キユーピーで卵殻の有効利用が本格的に始まったのは1956年のこと。卵殻を天日で干し、土壌改良材(肥料)として農家へ販売しました。

↑卵殻を加工した土壌改良材を施肥する様子

 

「現在では卵を100%有効活用しています」と話すのは、廃棄物の有効活用を研究している、研究開発本部・機能素材研究部の倉田幸治さんです。

 

「弊社はさまざまな卵加工品を生産していますが、卵黄はマヨネーズに、卵白は、菓子類やかまぼこなどの練り製品の原料になります。そして通常は破棄される卵殻と卵殻膜について、より付加価値の高い活用法が研究されてきました。例えば、卵殻は土壌改良材だけでなく、カルシウム強化食品にも利用されていますし、卵殻膜は化粧品の原料にもなっています」

↑卵殻を有効活用したカルシウム強化商品「元気な骨」
↑卵の有効活用例

 

近年は卵殻粉の肥料を水田に利用

さらに4年前からは、東京農業大学と共同研究が始まり、さまざまな試験デザインを経て卵殻の水田への利用についての研究結果がまとめられました。

 

「元々の土壌改良材は、土の中のpHを矯正する肥料として使われてきましたが、それだけでは価値が低い。そこで、さらなる可能性について研究を進めた結果、水田にまくことで卵殻カルシウムが稲に吸収されやすく、稲の生育状況がよくなることが証明されました。つまり、天候不順時でも収量が安定する効果が期待できるのです。昨年、学会で研究発表を行い、今年の4月には特許出願しました。本格的に始まるのはまだこれからですが、今年は長い梅雨と8月の猛暑という天候不順な年でしたので、試験にご協力いただいた農家さんは効果を実感できるのではないかと思います」(倉田さん)

↑研究開発本部・機能素材研究部の倉田幸治さん

 

製造工程で出る野菜の廃棄部分も有効活用

また卵と同様、実はキャベツも日本での消費量が1位の同社。キユーピーグループのキャベツ消費量は年間約3万4000トン、1日あたり約95トン、数にすると約6万5000玉にも及びます。このキャベツでも、積極的に有効活用の研究が進められています。

 

「カット野菜の製造工程で発生するキャベツの芯や外葉を、私たちは“野菜未利用部”と呼んでいます。実は商品に利用できるのは中心の柔らかい部分だけで、1玉のうち3割程度は野菜未利用部として廃棄されてきました。それを“もったいない”と感じる従業員が多く、これまで工場ごとに個別で再利用の検討もされてきましたが、2015年に野菜未利用部を有効活用するための部署『資源循環研究チーム』が研究開発本部内に結成されたのです。2017年には、未利用部の乳牛用飼料化に成功し、乳業用飼料は『ベジレージ®』という商品名で昨年から酪農家さんに販売しています」(倉田さん)

↑野菜未利用部の有効活用(例:キャベツ)

 

野菜なら、加工しなくてもそのまま家畜の餌として使えそうですが、そんな簡単な話ではなかったそうです。

 

「野菜は腐りやすいため、そのまま譲ったとしても本当に近所の農家さんに限られます。しかもすぐに使用しなければなりません。また、実はキャベツなどの葉物野菜には硝酸態窒素という成分が含まれていて、牛が大量に摂取すると体調を崩しやすいのです。そこで、安全性や嗜好性を検証するため東京農工大学と共同研究を行いました。乳酸発酵させることで、結果的に品質を安定させ、嗜好性を向上させることができるようになったのですが、乳酸発酵の研究はもちろん、飼料として与える量の基準値や保管や輸送に関する検討に多くの時間を費やしました。

↑研究の様子。加工する段階で硝酸態窒素を減らすことに成功

 

『ベジレージ®』を牛に食べさせると餌の摂取量が増え、搾乳量も多いという声を酪農家さんからいただいています」(倉田さん)

 

一見、成功事例としてこれで完結したように思えますが、課題はあるそうです。

 

「(飼料や肥料は)副産物のため、所詮ゴミだという意識を持たれる方も中にはいらっしゃいます。だからこそ、資源としての価値を多くの人たちにきちんと伝えていかなければいけないと感じています。また、現時点で野菜廃棄物ゼロを達成しているのは、一部の工場(キユーピーグループ・株式会社サラダクラブ 遠州工場など)だけです。すでに達成した工場をモデルケースとし、全工場で2021年までに30%以上、2030年までに90%以上を有効活用することを目指しています」(倉田さん)

 

SDGsにも通じる創始者の想い

このように同社では、環境面での重要課題として「資源の有効活用」に取り組んできました。これは、同社のサステナビリティに向けての重点課題の1つでもあります。そもそも同社のサステナビリティの考え方には、創始者である中島董一郎氏の「食を通じて社会に貢献したい」という想いが詰まっています。その想いは、社会貢献、CSR、サステナビリティなどと時代に合わせて呼び方こそ変わっていますが、その精神は変わらず受け継がれ、SDGsに通じるものでもあります。サステナビリティ推進部・環境チーム・チームリーダーの竹内直基さんはこう話してくれました。

 

「SDGsが国連で採択されるだいぶ前から、当社は環境、社会活動を行ってきました。環境活動としては1956年の卵殻の活用、社会活動では1960年のベルマーク活動が始まりで、その後もさまざまな取り組みを行ってきました。その根底にあるのが創始者の“食を通じて社会に貢献する”という想いです。“食を通じて”という部分では、オープンキッチン(工場見学)も他社に先駆けて行ってきました(※現在は新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため見学を中止しています)。製造工場を一般の方に開放するという考えは、当時あまりなく、社内でも賛否があったようです。また、2002年からは『マヨネーズ教室(出前授業)』という食育活動を始めました。食を通じた社会貢献からもう一歩踏み込んで、“食育”というステージに入ったわけです。

↑食の大切さと楽しさを伝えるマヨネーズ教室の様子

 

こうした活動を進める中、SDGsの登場は1つのターニングポイントになったと思います。CSRや社会貢献活動は、それに携わる一部の人たちだけの活動でした。しかしSDGsによって社内はもちろんのこと、世界中で通じる、わかりやすい共通言語になったと捉えています」

 

CSR部からサステナビリティ推進部へ

17の目標が明確に示されたことで、「地球全体の課題」や「それに取り組む必要性」がイメージしやすいのは確かです。同社にとってもSDGsの登場は、サステナビリティについて改めて考えを整理し、活動が加速するきっかけになったそうです。

 

「今年、CSR部からサステナビリティ推進部へと組織体制の変更とともに部署名が変わりました。その際、改めてサステナビリティについて整理し、企業として未来を創造していくことがまず必要だと改めて考えました。しかし、『持続可能性』ですから、ただ創造するだけでなく、当社の経済性とともに、社会の経済性も考えなければいけません。つまり、事業活動を通じて、環境と社会の課題解決を目指さなければいけないということです」(竹内さん)

↑サステナビリティ推進部 環境チーム チームリーダー・竹内直基さん

 

サステナビリティに向けての重要課題

このような考えのもと、同社は以下の「4つ+1」の重要課題を掲げています。

 

・健康寿命延伸への貢献

・子どもの心と体の健康支援

・資源の有効活用と持続可能な調達

・CO₂排出削減(気候変動への対応)

+ダイバーシティの推進

↑サステナビリティに向けての重要課題の特定

 

「健康寿命延伸への貢献」では、高齢になっても元気で過ごせる社会を持続可能にするために、サラダ(野菜)と卵の栄養機能で生活習慣病予防や高齢者の低栄養状態の改善を目指します。また、スポーツジムとの協働や大学との共同調査、“食”をテーマにした講演会の開催、機能性表示食品の製造・販売などを展開。「子どもの心と体の健康支援」では、食を通じて子どもの心と体の健康を支え、未来を応援するために、オープンキッチン(工場見学)、マヨネーズ教室(出前授業)、フードバンク活動の支援ほかを実施。「CO₂排出削減(気候変動への対応)」では、原料調達から商品の使用・廃棄まで、サプライチェーン全体を通じてCO₂排出削減を進めているそうです。

 

大切なのは子どもの心と体の支援

これら重点課題については、それぞれにSDGsとの紐づけが行われています。また紐づけをしていく過程で、同社がめざす姿を実現するために「キユーピーグループ2030ビジョン」という長期ビジョンを策定し、2030年にあるべき姿がまとめられました。

 

「そのなかの1つ、『子どもの心と体の健康支援』は本当に重要だと考えます。これからの社会を担っていくのは子どもたちです。彼、彼女らがきちんと育っていかなければ、持続可能な社会の実現はありえません。ですから、子どもたちの心と体をしっかり支援していきたいと考えています。貧困問題として、3つの側面に注目しています。1つ目は『経済的な貧困』、次に『関係性の貧困』、つまり核家族が増え、子どもたちはかかわりを持つ人が減ってきていること。最後は『体験の貧困』です。先に述べたオープンキッチンやマヨネーズ教室など、そうした機会を通じて、心を豊かに育んでいく取り組みを行っています」(竹内さん)

↑「キユーピーグループ2030ビジョン」より

 

「小学生はすでに学校で教わっていますが、一般の人たちには、SDGsがまだ浸透しきれていません。食品ロスのうちおよそ半分は一般家庭が占めています。また、世界にはまだ多くの貧困の地域がありますが、遠い世界の話で他人事だと言う人も多いと思います。こうした社会課題を一般の方たちにも知っていただく活動にも力をいれていかなければと感じています」と、社会課題の啓蒙活動も重要だと竹内さん。

 

「今後は、さらに社会課題、環境課題が複雑化していき、一企業だけでは解決できない問題が増えることが予想されます。だからこそ、さまざまなステークホルダーとの対話を通じてのパートナーシップが大事だと考えています。これからは、より社外とも連携して取り組んでいきたいと思います」(竹内さん)

 

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