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2021/7/7 6:00

いまこそ進化のとき! 新時代の「形」を求めるイタリアのパスタ事情

イタリア人は食に関して保守的とよく言われますが、パスタも例外ではありません。それぞれ好みの形状のパスタがあり、その嗜好にはとても忠実です。日常的に食するパスタは家庭や個人で定番があり、それ以外のタイプにはあまり手を出さない傾向が強いのです。しかしそんな文化に、イタリアのある大手パスタメーカーが挑戦状を叩きつけました。同国のパスタに何が起きているのでしょうか?

 

コロナでパスタの嗜好があらわに

↑このパスタの形は何と言ったっけ……?

 

日本でパスタと言えば、一般的にはスパゲティを指しますが、イタリアではショートパスタを好む人が多くいます。イタリア人にその理由を尋ねると、「ショートパスタの穴にソースがよく絡むから」という答えが返ってきます。

 

2020年の春から始まったロックダウン中、イタリアではスーパーでパスタを買いだめする動きが目立ちました。小麦粉や砂糖が軒並み品切れしたことはよく知られていますが、パスタの棚も空になるという現象が各地で見られたのです。ところが、表面に溝がなくソースが絡みにくいタイプのショートパスタだけは売れ残り、イタリア人のパスタに対する嗜好があらわになりました。

 

バリラやディ・チェコなど大手パスタメーカーの商品には、パスタの形状によって番号が付与されています。もちろんリガトーニやペンネといったパスタの名称も記載してあるのですが、太さやサイズの種類が多いため、番号で識別しないとわかりにくく、ゆで時間を間違えてしまう可能性があるのです。同じ形でも1番違いで調理時間や食感が微妙に異なり、夫婦げんかの原因になることもあると言われています。

 

リガトーニやマカロニ、ペンネといったおなじみのパスタの形状や名称は、日本でもよく知られていますが、イタリア人が国内を旅行して、馴染みのない土地のレストランに入ると、イタリア人でさえも「それはどういうパスタ?」と従業員に尋ねなくてはならない状況は珍しくありません。それほどパスタの種類が多いのです。

 

地方によって独自の形状や名称のパスタが存在し、場合によっては方言で名づけられていることもあります。そのため、外から来た人間には「名前を聞いただけではパスタの形が想像もできない」ということが頻繁に起きます。また、同じ名前でも場所が変わると異なる形状のパスタを指していることもあり、パスタのあらゆる形をすべて知るのは、かなり困難とされています。

 

長い歴史があっても分類はない

↑歴史が長過ぎて分類できない

 

小麦の生産で有名な南イタリアは典型的な地中海式気候であり、さんさんと降り注ぐ太陽と乾いた空気によって乾燥パスタが広がりました。一方で、南イタリアほどは日照時間に恵まれない北イタリアでは、卵を使った生パスタが主流となって発展してきたという経緯があります。

 

ただ、イタリア全土にわたりパスタはとても種類が豊富ですが、パスタの形状や名称については特に正式な分類が存在していません。

 

そもそもパスタの歴史は大変古く、古代ローマ時代には美食家のアピシウスが、ラザニアの先祖と思われるメニュー「laganum」の記述を残しています。1154年にシチリア王に仕えていたアラブ人の地理学者イドリースィーは、スパゲティに関して世界初の著述を残しているそう。マカロニについては、13世紀初めにジェノヴァの公証人が初めてその名を文書に残しました。

 

しかし、こうした知名度の高いパスタについては名称も形状も定着はしているものの、厳密な分類ルールがあるわけではないのです。

 

では実際に、イタリア国内にはどのくらいのパスタの形状が存在するのでしょうか? パスタ関連のサイトによってもその数字はまちまちであり、だいたい250~300種類というのが一般的な見解です。イタリアの大手パスタメーカーであるバリラ社は、公式サイトをざっと見るだけでも、乾燥、生、ロング、ショート、ミニなどさまざまなタイプのパスタを120種程度は生産しています。その点を考慮すれば、およそ300種類という数字はあながち誇張ではないのかもしれません。

 

新時代の新しいパスタの形は?

↑新しい形を募るバリラ社のパスタ

 

2021年春、そのバリラ社が「バリラ・ニュー・パスタ・シェイプ」というキャンペーンのもと、新しいパスタの形状を一般から募集しました。応募条件は成人していて「創造力があること」のみで、今回は乾燥パスタに限られています。パスタ100gに対して、水1リットルと塩7mgで茹でた場合に食用可能になる、という条件をクリアすること。調理後もその形状が崩れないことや、あらゆるソースとよく絡むことも条件のひとつになっています。

 

形状だけでなく原料についても、肥満ぎみのイタリア人向けにヘルシー志向にマッチするようなアイデアを求めています。セモリナ粉やデュラム小麦を使用した従来のパスタにとどまらず、スペルト小麦やそば粉、トウモロコシや豆類の粉などを使用したものが特に推奨されています。当然ながら添加物の使用は禁止。

 

賞金として4000ユーロ(約52万円※)が支給されるだけに、バリラ社も真剣。「消費者の興味を引き、創造性を喚起するような革新的な形」であることが応募条件の一つとして挙げられていました。募集は2021年6月4日で締め切られ、コンテストの勝者は2021年7月の終わりに発表される予定です。

※1ユーロ=約131円(2021年7月4日現在)

 

パスタの好みが保守的なイタリア人に、ひと目見ただけで「このパスタはぜひ試したい!」と思わせるような新たな形状が誕生することを、バリラ社は待ち望んでいるようです。果たして、イタリア国民に長く愛されるようなパスタの新しい形は生まれるのでしょうか?