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2021/8/12 19:15

人が食べ物を噛む音が気になる? あまり知られていない「ミソフォニア」の脳科学的な特徴が判明

誰にでも不快な音があるもの。ガラス窓や黒板を爪で引っ掻く「キーキー」した音には、多くの人が嫌悪感を覚えるでしょう。しかし、他人が咀嚼する音や呼吸する音などに対して過敏に反応してしまう場合、それは「ミソフォニア」かもしれません。

 

ミソフォニアとは?

↑他人の食べ物を噛む音が不快で堪らない

 

私たちは、人が呼吸する音やあくびの音、ごはんを噛む音など、さまざまな音に囲まれながら暮らしています。そんな日常生活の特定の音に過敏に反応する症状をミソフォニアと呼びますが、よく知られた症状ではないことから、患者がミソフォニアについて医師に相談することも、医療者側が尋ねることも少ないそうです。

 

以前に英国で行われたミソフォニアに関する実験を見てみましょう。ミソフォニアの症状がある20人と症状のない22人が3種類の音を聞き、不快レベルを評価しました。3種類の音は、食事の音や呼吸音などの「トリガー音(引き金となる音)」、赤ちゃんの泣き声や人の叫び声などの「雑音」、そして雨音などの「ニュートラルな音」です。

 

その結果、雑音とニュートラルな音については、ミソフォニアの症状の有無を問わず、不快レベルの評価は同程度でした。しかしトリガー音は、ミソフォニアの症状がない人は不快度が低かったのに対して、症状がある人は高い不快度を示しました。この種類の音は主に他人によって発せられる音であり、ミソフォニアの症状がある人はトリガー音に大きく反応する傾向があるようなのです。

 

また、音の不快感が感情面に影響を与えることもミソフォニアの特徴の1つ。例えば、人の咀嚼音を聞いた途端に腹が立ったり、子どものあくびを見て、「闘争・逃走反応」(不安、恐怖、興奮などのストレス反応)が生じたりするなら、ミソフォニアの可能性があるかもしれません。

 

脳科学的には?

一方、2021年6月に英国・ニューカッスル大学の研究チームが発表した論文で、ミソフォニアの症状には脳科学的特徴があることがわかったのです。

 

この研究チームはfMRI(磁気共鳴機能画像法)を使い、ミソフォニアの症状がある人とない人の脳の反応を比較しました。すると、ミソフォニアの症状がある人はトリガー音を聞くと、脳の聴覚野と前運動皮質の信号が増加したことが判明。音を聞く中枢と、顔や口、喉などの運動に関わる領域で、一般にはない異常な信号のやりとりが行われているようなのです。

 

さらに、ミソフォニアの症状がある人の脳では、視覚領域と運動領域の間でも同じような信号の増加が観察されました。同研究チームによると、これは他人の行動を見て、自分も同じ行動を取っているかのような反応をする「ミラーニューロン」が働いていることを示唆しているとか。例えば、ミソフォニアの症状がある人は、他人が咀嚼する様子を見たうえで、その音を聞くと、自分の身体の中でも同じ咀嚼音が発生しているような感覚に陥り、強烈な不快感を感じている可能性があるそうです。

 

今回の研究結果を受けて、ニューカッスル大学は、ミソフォニアを治療するためには脳の音に関する領域だけでなく、視覚や運動の領域についても考慮する必要があると考えています。まだまだ研究が少ないと言われるミソフォニアですが、より多くのリサーチが求められています。

 

【出典】Sukhbinder Kumar, Pradeep Dheerendra, Mercede Erfanian, Ester Benzaquén, William Sedley, Phillip E. Gander, Meher Lad, Doris E. Bamiou, Timothy D. Griffiths. Journal of Neuroscience. 30 June 2021, 41 (26) 5762-5770; DOI: 10.1523/JNEUROSCI.0261-21.2021