イタリアのミラノ市はサステナブルな町づくりを目指し、長く放置されていた旧鉄道エリアや旧工業地帯エリアの再開発を始めました。2026年2月に開催される「ミラノ・コルティナ冬季オリンピック大会」に向けて選手村も建てられており、大会終了後には住宅になる予定。ミラノ市が取り組む、3つのサステナブル住宅プロジェクトを紹介します。
1: ゼロカーボン住宅に取り組む「リネスト」
現在、イタリア初のゼロカーボン住宅を建設中の「リネスト」は、都市再開発に関する国際コンペティションで数年前に優勝したことがあるプロジェクトの1つです。旧鉄道の貨物ターミナルとして使われていたミラノ北東のスカログレコ ブレダ地区にある約7万平方メートルの敷地に、約400戸の住宅と約300戸の学生住宅を建設。これらは再生可能エネルギーにより稼働し、2050年までにゼロカーボン化を目指しています。
特に注目を集めているのは「第4世代地域暖房(4GDH)」のシステム開発で、自然エネルギーや廃熱を利用した温水を建物の給湯や暖房に使うのが特徴。雨水を再利用してかんがい用水として使用するほか、周辺地域はCO2を吸収するために、面積の60%を緑地化する方針です。リネストは専用アプリを開発し、住民は自宅のエネルギーと水の消費量をリアルタイムで確認することができます。
ミラノ市内の道路は平坦で自転車での移動が便利なことから、リネストは1200平方メートルの駐輪場を設置することで、自転車の利用を促進する予定。住戸ごとの駐車場は用意せず、自家用車の大幅削減を目指します。市内にはCO2を排出しない電気自動車のカーシェアリングサービスがあるため、10台分の充電エリアを用意する計画も。
このような取り組みを通して、リネストは温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させる「カーボンニュートラル」を30年以内に実現する予定です。
2: 選手村を建設予定の「ボスコナヴィリ 」
旧鉄道エリアのサン・クリストフォロ地区では、約90戸の集合住宅「ボスコナヴィリ」が建設中です。外壁に多くの植物が植えられ「垂直の森」と呼ばれる、ミラノで有名な高層建物「ボスコ・ヴェルティカーレ」を手がけた建築家ステファノ・ボエリ氏が設計。このエリアは運河沿いにレストランやバーが並ぶ観光地としても人気のエリアで、2024年までに運河に近い9000 平方メートル以上の敷地に「ボスコナヴィリ」をはじめ、3階建てヴィラなどを建設予定です。
ボスコナヴィリは住宅の屋根を太陽光発電パネルで完全に覆い、地熱エネルギーを使用することで、夏は涼しく、冬は暖かくなるように設計されているとのこと。スマートモビリティにも対応しており、住民共有の電動自転車とスクーターを設置することで、CO2の排出を抑えます。
敷地を囲む樹木や植物は、騒音や微粒子状物質(PM2.5)に対するバリアの役割を果たすと同時に、CO2を吸収することが期待されています。雨水を収集して再利用する自動かんがいシステムも導入されます。
さらに、旧ポルタ・ロマーナ駅エリアには、冬季オリンピックの選手村を建設予定です。この地域では都市化や公共緑地化の計画が進められており、大会終了後には選手村を学生たちが使える公営住宅にする計画です。
3: イタリア最大の都市再開発プロジェクト「ミラノセスト」
イタリア最大の都市再開発プロジェクトといわれている「ミラノセスト 」は、150万平方メートルの広大なセスト・サン・ジョバンニ旧工業地帯を持続可能な都市へと再生させる計画です。タワーオフィス、商業施設、ホテル、病院、大学、住宅など7つの建物が建設され、住民や在勤者、訪問者などの利用者数は1日約5万人を想定。第1フェーズとして、2025年までに住宅や商業施設がオープンします。
ミラノセストは、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の考え方に基づきながら、建物に使う資材や原材料を決めているほか、かつて工場があった場所を含めて、本計画の対象地域全体に1万本の木を植える予定。これにより、年間48トンのCO2が吸収されるそうです。さらに、周辺での車両使用を削減するために、10kmの歩行者専用道路と自転車専用道路が建設されるとのこと。
本プロジェクトでは、歩道橋の上には太陽光発電パネルを設置し、使用するエネルギーの50%を再生可能エネルギーから生み出します。緑地化とクリーンエネルギーの活用により、CO2の排出量を5500トン抑制することを目指しており、これは2万1000台のクルマが1年間に排出する量に当たるそうです。
町の中心には歴史を感じさせる古く美しい建物や景観をそのまま残し、その一方で持続可能な都市へと生まれ変わる再開発にも力を入れているミラノ。国や州、市の総力を結集した今回のサステナブルプロジェクトは、未来を見据えた挑戦としてイタリアの歴史に刻まれていきそうです。
執筆者/Shiho Yamaguchi