コクヨは2017年11月に、“座るから解放する”オフィスチェア「ing」を発売しました。「ひと言で言うと安定したバランスボール」と開発担当者が述べる、新しい感覚のオフィスチェア。その座り心地を、実際に借りて試してみました。
日本人は座りすぎ! だからイノベーションが必要だった
11月7日に行われた製品発表会で、コクヨの代表取締役・社長執行役員の黒田英邦氏は、「日本の座位時間は最長である」という調査データを提示しました。その調査では、「世界20カ国における平日の総座位時間」で、420分と日本が最長!
黒田氏は「姿勢の固定化が“健康”と“知的創造性”への弊害になっています。人の身体は動くために設計されているため、同じ姿勢を取り続けることは心身への負担。“座る”にイノベーションを起こしたいと思っています」と語りました。同社では今まで、立ったまま会議が行えるオフィス家具や環境を提案してきましたが、今回は新たな選択肢としてオフィスチェア「ing」の発売を決めたと言います。
グライディング・メカにより360度の動きを実現
まずメカニズムを確認してみましょう。
「ing」は“身体の動きを止めない”オフィスチェア。そのキモは、座面の下に360度動くグライディング・メカです。2層のメカを搭載しており、前後左右に身体が動くと、座面が自然にその身体の動きに沿って動くようになっています。
「安定したバランスボール」と開発担当者が謳うのは、バネを使用していない重力メカにより、バランスボールのように、動かすときに身体に無駄な力を入れる必要がないためです。動いた後はブランコの揺り戻しと同様に、自然にスイングし戻ります。
また、体圧分散を行う「3Dポスチャーサポートシート」や、座面奥行きの調整がいらない「フロントフリーチルト」、体を揺らすときに肘を支える「グリップアーム」など、グライディングを楽にする機能も装備されています。ちなみに、「ing」を揺らしたくないときには、「グライディングストッパー」という座面横のレバーで止めることもできるので安心。
コクヨは「ing」を使用した実験も行っています。それによると、体の動きに関しては、「ing」に座っているだけで“肩と腰の筋肉が活動している”ことがわかったそうです。また「ing」で揺れながら4時間デスクワークをすると、ウォーキング約1.5kmの運動に相当し、カロリーに算出すると約85kcalを消費したとのこと。
一方、頭の動きに関しては、「ing」で60分揺れることでリラックス状態のときに計測されるα波、活発な思考や集中に関連するといわれているβ波の増加を確認できたといいます。また、京都大学大学院教育学科の野村理朗准教授から技術指導を受けた「創造性テスト」では、創造的で有用なアイデアの発想数が13%もアップしたことが認められたとか!
はじめは独特の浮遊感、やがて自然な感覚に
さて、いよいよ試用してみます。
レビュー用にお借りしたのは、ラテラルタイプ。背もたれが低めの、一般的な形状のイスです。今回は一週間に渡って、長いときで8時間、短い日は数時間使用しました。
実際に座ってみると、ふわふわと浮遊しているような独特の感覚がありました。普通のイスでは感じられない、正直、最初は少々気味の悪いような感覚です。その動きに慣れることはないのでは、と思いましたが、30分も座っているとそれは当たり前のように思えてきたから不思議。シートのクッショニングも、堅すぎず柔らかすぎず、ちょうどよく体を支えてくれます。
私は普段、布張りタイプの安価なオフィスチェアに座り、長時間パソコンの前で仕事をしています。ノートパソコンを使うときは前屈みになってキーを打つことが多いのですが、その動きにも座面がぴったり追従してきます。また、気分転換に後ろに体を反らせて伸びをしたり、机の横にある棚から物を取ったりと、イスに座ったまま行う動作は意外と多いものですが、そんなときも安定してイスが支えてくれました。
私は以前、バランスボールでのパソコン作業にチャレンジした経験があるのですが、あまりの疲労感に仕事への集中力を欠き、1日でやめてしまいました。ところが「安定したバランスボール」とコクヨが表現する「ing」は、揺れるときと安定するときのバランス加減が絶妙です。
はじめの頃は何も考えず座っているだけでしたが、仕事が終わって立ち上がると、腰回りに運動した感触がありました。「もしかするとダイエットにつながるのかも!?」と考え、アイデア出しなどパソコンへの入力作業でないときは意識して揺らすようにしました。残念ながら……ダイエット効果を確認するには期間が短かったようですが、確実に筋肉の疲労を覚えました。体幹を鍛えたい人には向いているかもしれませんね。
ゆらゆら揺れると気分転換にもなり、リラックス効果も感じられます。仕事に行き詰まったときになんとなく体を動かすと、楽しい気分にもなりました。肘掛けをつかめばイスから落ちることもありません。
また、姿勢に応じて座面の前部が折れ曲がる「フロントフリーチルト」の感触も良かったです。慣れた頃には、通常のイスに座ったときに太ももの裏側に座面が当たることに違和感を感じるようになっていました。体の小さな女性でも座面の奥行きを気にすることなく使用できると思います。
「ing」はラテラルタイプが88,000円〜、背もたれが高いバーチカルタイプが9万5040円〜、ヘッドレスト付きタイプが11万6640円〜で販売されています。体験してみたい人は、コクヨのWebサイト(http://www.kokuyo-furniture.co.jp/products/office/ing/)に「ingの体験場所」が掲載されていますので、足を運んでみてはいかがでしょう。