特に自分に関係はないのに、なぜか呼ばれてしまった退屈な会議。内容に興味が持てず、無為に時間ばかりが過ぎる。で、ふと気がつくと手帳のページのあちこちに、なにやら不可解な図形や幾何学模様の作品が広がっていること、あるだろう。
電話を受けながら、半ば無意識にペンを動かしてぐしゃぐしゃと描いているため、退屈な時間に比例して作品のスケールは巨大化する。30分もあればページ全体に広がるほどの大作も見られるはずだ。
ところで、この無意識のいたずら書き。実は脳科学の分野においては、かなり大事な働きがあるとする研究がある。英国プリマス大学のアンドレード教授の研究によると、「いたずら書きする人は、しない人に比べて、退屈しながら受け取った情報をより長期間憶えている」というのだ。
人間の脳は、極度の退屈状態にあると白昼夢(非現実的な空想)を見るようになる。これは脳の処理能力を大量に必要とし、集中を妨げる。いたずら書きをしても脳のリソースを使うが、その量は集中力を失わせるほど多くはない、とアンドレード教授は結論づけている。それで脳の集中を保てるのであれば、いたずら書きをした方が良いはずである。
といこうとで、今回はより積極的にいたずら書きをしていくための文房具を紹介してみたい。
機械的ないたずら書き量産ノート
パリのデザインブランド、ATYPYKが作ったノート「KILL TIME NOTE」。“KILL TIME”とは、文字通り時間つぶしの意味。つまり、時間を潰すいたずら書きに特化した、いたずら書き専用ノートなのだ。
ATYPYK
KILL TIME NOTE
実売価格:2160円
ノートを開くと、ページ全体にすでに小さなイラストがびっしりと配置されている。このイラストに自分で書き込みを加えることで、いたずら書きを完成させるという仕組みである。
自動車がずらっと並んでいるページでは、上段右端の自動車だけマフラーからもくもくと排気が印刷されている。これを見本として、「好きな排気煙を書き込もう」というのがこのページのテーマとなっている。車は70台以上並んでいるので、好きなだけもくもく、もくもくと排気を書き込むことができるだろう。
他にも、鼻のない女性の横顔が並んでいるページに思うまま鼻を書き込んだり、無地の葉っぱに葉脈を好き放題書き込んだりと、全部で60種類のいたずら書きが楽しめるようになっている。
「13」という数字で紙面がびっしり埋め尽くされているページは、3の空いてるところに線を足して「18」に書き換えるだけというバカバカしさ。とはいえ、こういうくだらないいたずら書きを一心不乱に行うことで、逆に集中力が保てるのである。気合いを入れていたずら書きしていこう。
少し高度ないたずら書きノート
「KILL TIME NOTE」では機械的すぎる。いたずら書きにももっとクリエイティビティを発揮したい! という人向きにオススメしたいのが「大人のための落書き帳」だ。
ディスカヴァー・トゥエンティワン
大人のための落書き帳
実売価格:1296円
「会議が長すぎる。講義がつまらなすぎる。そんなときにはノートをとるふりして、コレ!」というキャッチコピーのもと、会議などの退屈を潰すために作られたノートである。ページのあちこちに、すでに稚拙な絵柄でちょこちょこといたずら書き的な絵が印刷されている。ここに自分で書き込みを加えて、いたずら書きを大きく展開させていこう、というものだ。
例えば、不気味な怪物っぽい足だけ印刷されているページには「未決書類入れモンスターってどんなんだろう?」とある。このように印刷された絵にはそれぞれテーマが決められているので、そこを足がかりにいたずら書きをしていくのだ。
「蛍光灯を取り替えるのにペンギンは何羽必要?」や「コーヒーマシンを歯車だらけにしてみましょう」という黙々と書き込む系のものや、「仕事から逃げ出すのに、どんな逃亡車を使いたい?」といった想像力を試されるものなど、いたずら書きのタイプはいろいろ。
ここまでくると、必要な脳のリソースは白昼夢を見るのとそんな変わらないんじゃないかという気もしてくるが、ひま潰し兼アイデア出しの練習として楽しむには良さそうだ。
より機械と化して書き込みたいならコレ
逆に、いたずら書きにクリエイティブは必要ない。脳を一切使わずただ機械のようにぐりぐりと落書きがしたい、という人もいるだろう。そちらにオススメしたいのが「スピログラフ」だ。
ビバリー
スピログラフ トラベル
実売価格:1728円
スピログラフという名前を聞いただけでピンと来る方もいるだろう(デザイン定規、おしゃれ定規という名前でも流通していた)。昭和40年代に流行った、歯車とテンプレートの組み合わせで美しいトロコイド曲線の幾何学模様が描ける道具である。
昔懐かしい……という文脈で紹介されることも多いが、実はまだまだ現役の製品。最新版の「スピログラフ トラベル」は、テンプレート筐体・用紙・ペン・6種類の歯車をセットにして持ち運びやすくしてあるため、会議室にこっそり持ち込むのも容易だ。
付箋のような粘着材のついた用紙を筐体にセットしたら、あとは歯車にペンを挿し込んでテンプレートに沿って回すだけ。
ただ、手を機械的に動かして歯車を回すだけなので、集中力を削がれることもない。白日夢を阻止しつつ会議に参加できて、気がついたときには無意識でぐしゃぐしゃと描いていたものよりも滑らかに美しい幾何学模様ができあがり、である。
今回紹介した3点の文房具、どれも会議の最中に使用しているのを見つかると上司から怒られる可能性も否めない。集中力を維持するためとはいえ、あくまでも自己責任で会議に臨んでいただきたい。