本・書籍
2018/8/8 6:00

プロランニングコーチが教える「正しい歩き方」とは――『体幹ウォーキング』

最近、右のくるぶしに違和感がある。原因はわかっている。通っているジムのグループレッスンでスケータージャンプ(スピードスケートのような動きで左右に大きく飛ぶ動き)をしていて、着地に失敗した。

 

その場はバレないようにうまく取り繕った。ところが翌日から、特に階段を降りる時に痛みを感じるようになった。耐えられないレベルではないが、無視できるほどでもない。

 

ひとつ気づいたことがある。体を動かしていると、違和感も痛みもなくなる。だからいつも通り、いや、いつもより追い込み気味に動くほうがいいような気がしている。こんな状態がしばらく続いている。

 

 

コンディショニングとトレーニング

身体を動かす目的は、コンディショニングとトレーニングに分けられるのではないだろうか。筆者なりに定義するなら、けがをしない身体を作ることを主な目的とするのがコンディショニングで、動きたいように動ける身体を作ることを目的とするのがトレーニングだ。

 

筆者の場合、ジムに通う目的はトレーニングだ。ただし、最近はコンディショニング的な要素の割合も高まってきた。10年前よりもクラスの後に入念にクールダウンを行うようになったし、テーピングとかサポーターの知識も増え、使い方もうまくなった。

 

 

きちんと動かせば、身体は答えを出してくれる

筆者がジム通いを始めたのは22年以上前だ。当時横浜市に住んでいて、水道橋の会社まで通っていたのだが、朝の電車で40分立っているのが辛い時期があった。つり革につかまったり、ドア脇によりかかったりしても腰が痛くなってしまうのだ。

 

これが今も続いているジム通いのきっかけになった。インストラクターによれば、腰が痛くなるのは腹筋と背筋が弱いからだという。まず、体を前面と背面から筋肉で挟み込むように、しっかりと支えられるようにしなければならないと言われた。

 

マシンでガンガン鍛えるのかと思ったら、指示されたのはプールで歩くことだけ。しかも週3回、黙々と40分。ごくごくつまらない。でも2か月くらい経った頃、腰痛が消えているのに気づいた。これをインストラクターに知らせると、「体幹が整ってきましたね」と言われた。本格的なジムワークとグループレッスンへの参加を始めたのは、ここからだ。

 

 

ステージⅢのがんからの生還者の言葉

その頃から体幹という言葉に対して敏感に反応するようになった筆者が『体幹ウォーキング』(金哲彦・著/学研プラス・刊)に興味を持ったのは当然だ。著者の金哲彦さんはメジャーなマラソン大会の中継で解説者を務めることも多いプロのランニングコーチである。この本は、その金さんによる“正しい歩き方”の方法論について書かれたものだ。

 

“はじめに”を読んでまず驚かされた。金さんはステージⅢの大腸がんにかかり、開腹手術を経験しているのだ。かなり悪い状態のがんからの生還者ということになる。こうした体験から、金さんは医療機関をしっかり活用すること、そして健康を自らの努力と生活習慣で守ることの大切さを強調する。健康を守る基本は一般的に「食事」、「睡眠」、「運動」の3つであると言われている。“はじめに”に記されている文章を紹介しておく。

 

本書では、特に3つ目の「運動」について、より手軽で効果的な「ウォーキング」の方法を提案します。歩くことは毎日誰でもやっています。しかし、歩くときの体の使い方が間違っていると、本来使われるべき筋肉が活性化せず、運動効果が低くなってしまいます。

『体幹ウォーキング』より引用

 

視点とやり方を変え、誰もがごく当たり前に毎日行っている「歩く」という行為をより効果的な運動に変化させる。それが本書のコンセプトである“体幹ウォーキング”の定義となる。

 

 

歩くことはコンディショニングにもトレーニングにもなる

目次を見ておこう。

 

第1章 歩くことは人間にとっての基本運動

第2章 歩くという運動の本質

第3章 実践! 体幹ウォーキング

第4章 日常生活に体幹ウォーキングを取り入れる

第5章 体幹ウォーキングQ&A

第6章 健康寿命を伸ばすには歩くことが大切

 

歩くという行為は、誰もが毎日、ともすれば漫然と行ってしまうことだ。しかし、意識の持ち方によってコンディショニングにもトレーニングにもなる。本書では、歩くことの理由と意味から始まり、運動生理学的な側面からの考察、歩く時に使う体の各部位の具体的な動かし方、日常生活での体幹トレーニングの取り込み方、そして効果を確かめる詳細なチェックポイントまでが示される。

 

 

奇跡のようなことだって起きるかもしれない

ウォーキングというのは厳密に言えば運動ではなく、散歩の延長線上に位置し、かなり年齢が高い人たちのためのもの。筆者は、そんなステレオタイプ的な考え方にとらわれていた。しかし、それは違う。プールで歩くという簡単な運動で大きな効果があったことをすっかり忘れてしまっていたようだ。“おわりに”に記された次のような言葉が、それを思い出させてくれた。

 

「あなたの体は食べたものでできている」とはよく言われますが、「あなたの体は(よくも悪くも)習慣によってできている」のもまた真実なのです。あなたの体によい習慣として、ぜひ「体幹ウォーキング」を続けてください。

『体幹ウォーキング』より引用

 

金さんはアスリートであり、ステージⅢの大腸がんからのサバイバーだ。奇跡のような出来事の背景で体幹ウォーキングが果たした役割は、決して小さくなかったと思う。

 

【書籍紹介】

 

正しく歩いて体をリセット 体幹ウォーキング

著者:金 哲彦
発行:学研プラス

あなたの歩き方、間違っているかも! いつもの歩きを見直すだけで、筋力がつき、痩せやすくなり、姿勢も良くなる。 肩甲骨、骨盤、丹田を正しく使って歩きを効果的な運動にする、「体幹ウォーキング」の第一人者が教える、一生役立つ歩きのメソッド!

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